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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第4章 TECHNICAL SURVIVE
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集合、何が始まるんだか

 大切な人、それが誰なのかまだ分からない。


 でも俺はこの一ヶ月で今までとは別の世界に来てしまったような感触に襲われていた。

 襲われたと言っても決して悪いことではなくて、むしろ良いことなのではないかと思えるものだった。


 誰かと学校に行って、部活に行って、自分の目的を果たすために毎日を過ごす。

 過去に囚われて何も信じられなくなっても、俺はまだこの世界で生きる権利が与えられているってことなのかもしれない。


 これからもずっと、そう思える日々が続けばどれだけ救われたことだっただろうか。


 ''全てが上手くいくなんて、そんな考えは甘いんだよ''


 ・・・・・・・・・


 5月12日


 午前3時28分、足下に転がるのは大量の酒瓶、周りには深い眠りについた酔っ払い共。

 この凄惨な現場を見るだけでうんざりだが、どうしてこうなったんだろうな。


 事の発端は9日の部会終了後に遡る。




 3日前

 5月9日


 部会が終わり、バンド結成の会議をして、掛け持ちの申請を断り、部室を後にして部屋に帰ろうとした。


 それで終わりだったらどれほどよかったか。


「夏音まだ帰らないで」


 後ろから声を掛けられた。

 声の主はドラムの先輩の岩内兼斗(いわないけんと)先輩で、初めて部室でドラムを叩いたときに見てもらった先輩だ。

 4年生らしいけど留年しているのかはわからない、どうせしてるんだろうけど。


 この人俺が逸材だとかなんだとか言ってたけど、今回は何を言い出すつもりなのか。


「日曜日にドラマー全員で新入生見るから、予定開けといて」


 この人今、日曜日って言ったよね。

 生憎日曜日は先約があってだな、土曜日なら夜勤の時間まで長引かなければ大丈夫なんだけど。


「すみません、日曜日は無理です」

「それは困る、他の日だとみんなの都合合わないし、さっき夏音部長と話してたから遅くなったけど、他の人はみんな日曜日で大丈夫って言ってたから」


 俺がバンドの話し合いしてる間にそんなことしてたのかよ、でも先に日高に誘われたから優先すべきはドラマーじゃない。


「それなら、俺が最後だとしても全員の意見を尊重して日程を変えればいい話じゃないですか?」

「あんまり遅くなっても困るんだよ、大体夏音の予定って何?」

「友人と出かける予定ですけど」

「あのさぁ......、それとサークルの予定どっちが大事なのかわかってる? それこそ日程変えれるし、優先順位くらいわかるよね?」

「......」


 こいつも浩矢先輩や部長と同じ種族か。

 大体ドラマーで集まるのなら今じゃなくてもっと前から予定立てるべきだろ、こんなギリギリになってから言われても困るんだけど。

 俺以外にもバイトとかの予定が入ってる人だっていたかもしれないってのに。


「わかる? 時間は無限にあるもんじゃないんだよ?」


 兼斗先輩がうるさく質問攻めしてくる、反論したいけど掟のことを思い出すとそう簡単にできない。

 俺に残された答えは一つしか残ってないのか......。


「.....'わかりましたよ、でも今度からもっと早く伝えて下さい」

「最初からわかったって言えば下らない言い合いしなくて済んだんだからな」


 今の言葉を捨て台詞と認定すべきかはわからないけど、兼斗先輩はそう言って部長の方へ行ってしまった。



「結羽歌、すまんな」


 帰り際、部屋に戻る途中の道まで結羽歌と並んで歩いていた。


「ううん、夏音君は悪くないよ」

「来週日高と立川に合わせる顔が無いな」


 折角日高が誘ってくれて、友人とどこかに出かけるなんて一度もしたことなかった俺にとっては貴重なことだった。


「予定、ずらしてもらおっか」


 俺の前に立ち、両手を後ろに組みながら結羽歌が言う。

 こいつ、最初に会ったときよりも明るくなったような気がするけど、気のせいじゃないよな。


「......そうだな」

「LINEは私から、送る?」

「いや、俺が送る」


 行けなくなった原因は俺にあるんだから、俺が責任持って送るのが筋だろ。

 スマホを取り出しLINEを起動、日高にメッセージを入力して送信。


「送ったぞ」

「うん、ありがと」


 誰かとする何気ない会話、それすら出来なかった俺にとって、当たり前のことができているだけで満たされていた。

 結羽歌ともいいバンドが組めるんじゃないか、例え音琶が何か抱えていたとしても、3人いれば乗り越えていけるんじゃないかと思っていた。


「それじゃ、お疲れさま」

「うん、お疲れさま」


 アパートの前で結羽歌と別れ、部屋に戻った時にスマホが振動した。


 hidaka sou:そっかー、それじゃあ日程ずらすしかないな、無料券は期限あるからそれまでには絶対行こう


 これはもう、次はないな。


 ***


 5月10日


 ギタリストが部室に集まっている。

 なぜこうなったのかは、この前の部会が終わった後に来た鈴乃先輩からのLINEが原因だ。


 色々あってバンドを結成したあとすぐに帰った私。

 あの時鈴乃先輩はギタリストを集めていたらしくて、送られてきたLINEにはこのような文が綴られていた。


 RINO:明日の昼13時に部室に来てね。他の予定無いよね?


 特に予定は無かったからいいけど、一体何の用だろう? そう思って今日、部室に来たらこうなっていた。


「えっと、全員いる?」


 鈴乃先輩が人数を数えだす。


「二人いない......」

「いない奴はいい、時間が勿体ない。そいつらには俺が言っておく」


 メンバーの不足で不安げになる鈴乃先輩をよそに部長が指示を出していた。

 一応こういうのは掟に書かれていた通り参加しないといけないから、今参加してない人は減点されるんだろうな......。


「はい、今日はギタリストで集まってもらいました。突然ですが、1年生のみんながどれくらいの実力か見ていきたいと思います」


 そう言って鈴乃先輩は1年生のギタリストに資料を配っていった。


 17人いる1年生のうちギターは8人で、どのパートよりも人数が遥かに多い。

 それは2年生以上も同じで、9人のうち4人がギターである。


 軽音部っていったら、やっぱりみんなギターがやりたいから入るのかな。

 私もあの人がギターだったから、ギターを始めたようなもんだけど。

 資料が私の順番まで回り、内容を確認する。そこには簡単なギターフレーズの楽譜が描かれていた。


「全員に渡ったみたいなので説明します。座ったままでいいのでこれから1年生はこの楽譜通りにギターを弾いてもらいます。それではまず武流から」

「はい」


 鈴乃先輩の正面に座っている湯川が楽譜を床に置き、いかにも高そうなエレキギターを手に掛け、特に合図をせずに弾き始めた。

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