ハロウィン、順番待ちの間
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にしても混んでるな。平日だというのにこの混み様、流石大都市。
夕飯を済ませて観覧車に乗ろうと思ったのだが、
「ねえ~、あとどれくらいで乗れるのー?」
「どれくらいって言われてもな、最後尾の時点で1時間待ちだっただろ」
「そうだけど~」
「30分くらいじゃねえのか」
「う~」
いや子供かよ、流石精神年齢9歳......。
そう思って、一旦我に返る。
音琶の精神年齢が低い......もとい子供っぽかったり、少し世間知らずな所があるのは、まともに学校に行けてなかったからなのではないだろうか。
他の人にとっては当たり前だったことが、今になってようやく出来るようになり、喜びを露わにせずにはいられない......なんて。
いや、やめておこう。そもそも音琶から直接全てを聞くまで、考えないようにするって決めたばかりだろうに。
今が楽しいのだから、せめてその楽しい時間だけでも充実なものにしなくては。そもそもここは音琶について詮索する場ではない。
「立ってるだけじゃ退屈だしな、何か暇つぶしに出来るようなことでも......」
「こんな人混みで出来ることなんて限られない?」
「そうだけども......」
悩む音琶の仮装に目を向ける。今日だけで何度も見ているが、『可愛い』以外の言葉が思いつかない。これが全身水色の魔女服だったら流石に変だったが、所々の縫い合わせが綺麗だったり、胸元の黒いリボンがまた可愛らしい。箒を手放さないのも自分のキャラがしっかり分かっているからだろう。
あと、膝丈までのスカートが、音琶の良さを醸し出している。
「......またジロジロ見てる」
「悪いかよ......」
「嫌らしい目してるなって、思っただけだもん」
「そりゃどうも」
「褒めてないよ」
「見られて嬉しいんだろ」
「むむ、夏音は本当に痛いとこ突いてくるよね」
「それも褒め言葉として受け取っておく」
「もう、馬鹿......」
いつも隣に居る奴の考えてることなんて一発で分かんだよ、あまり甘く見られては困る。
「どうした? 何も言えなくなったようだが」
「もう! ほんとに馬鹿! むっつりスケベ! こうなったら......!」
「こうなったら?」
熟した林檎のように真っ赤になった音琶の顔、そんな顔で音琶は何かを言い掛けようと必死になっている。本当に面白い反応するよな、そのお陰で毎日退屈しない。
「順番が来るまでしりとりで勝負だよ! 負けたら罰ゲーム!」
.........。
「はあ......」
いや、一瞬何を言っているのか耳を疑ったが、聞き間違いではないよな? 無意識に溜息が出てしまう。
「な、なにその反応!? なんか変だった!?」
「ああ、変だったよ」
「一生懸命考えたのに......」
「大体順番までに決着つかなかったらどうするんだよ」
「そ、それは引き分けってことで......。あと音楽用語縛りだから! 罰ゲームは勝った人が考えるんだよ!」
全く、こっちの斜め上を行くようなことを言ってくるな、いつものことだけど。
「わかったよ」
渋々ではなく、本心で頷いていた。
・・・・・・・・・
だいたい20分は経っただろうか。こんなきつい縛りのしりとりがここまで続いていることに感心なのだが。
「えっと、えっと......、フォトジェニック!」
「クラベス」
「す、す......、スタッカート!」
「トリ」
「り......、リフ!」
音琶が提案した音楽用語で縛ったしりとりというは、基本音楽に関わること......、例えば楽器だとか機材だとかメーカーだとかバンド名だとか、とにかく僅かでも音楽に触れてるものだったら何でも言っていいという、シンプル(?)なものだった。
すぐに言葉が思いつく俺と、少し考えてから言葉を放つ音琶。これも経験年数の違いが現れているのかもしれないな。音琶が単純に焦ってるだけなのかもしれないけど。
まあこれだけ暇を潰せているのだから、気づいたときにはもう順番になっているだろう。実際あともう少しで乗れそうだし、近づくにつれて胸が高鳴っていくのが感じられた。
平静を保たないと負けそうだなこの勝負。
「笛」
「え......、え.......」
『え』から始まる音楽用語って結構あるよな、エレキとかエイトビートとかエコーとか。
「エルレガーデンっ!!!」
.........あれ、俺勝った?
「はい、音琶の負け」
「え!? なんで!?」
「いや、だって......」
「はっ......!」
いや、気づくの遅ーよ。てか物凄く堂々と言ってたな。てか罰ゲーム考えておかないと。
「負けは認めろよ」
「うん......」
「それで、罰ゲームはだな......」
「あんまり変なのにはしないでね」
「何言ってんだ、先に仕掛けたのは音琶だっていうのに」
「それは......、そうだけど......」
つい数秒前に考えた罰ゲームだ。それを実行するにはまだ2時間半ほど掛かりそうだけど、音琶ならきっと喜んでやってくれるに違いない。
「罰ゲームはだな......」
全て言い終えた次の瞬間、順番になったから俺と音琶は係員に誘導され、巨大なゴンドラの中へと入っていった。




