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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第27章
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ハロウィン、可愛さを求めて

 う、動きづらい......。


 駅前まで歩いてきたけど、仮装がブカブカで足が引っかかりそうになっちゃうな......。雰囲気は出てると思うんだけど、想像以上に暑いし転びそうになるしで変な感じ......。


「どうしたのよ」


 琴実ちゃんは私の様子がおかしいのにすぐ気づいたみたいだけど、いったいどうすれば......。


「ううん、ちょっと歩きづらいなって思っただけで......」

「もう、しょうがないこね」

「ごめんね......」


 どうしよう、もっとちゃんとサイズとかしっかり見ておけば良かった......。普段活かせない低身長を使いこなせると思ったのに......。琴実ちゃんにはダサいって言われちゃうし......。


「ハロウィンなのに浮かない顔してんじゃないわよ、可愛い顔が映えないじゃない」

「そうだけど......」


 いつもの見慣れた街並み、初めてこの街に訪れた時は、テレビや写真で見た時よりもずっと迫力があって、夢が溢れているって感じていた。

 今もその気持ちは変わらない。だってこんなに沢山の人波が流れていて、通り過ぎる人達みんな、楽しそうにしているんだから......。

 そんな街に、今の私は似合わない。だから、どうしたら、楽しくなれるのかな......。



「結羽歌、自分にもっと自信持った方がいいわよ」



 下を向いていた私に、琴実ちゃんはそう言った。


「自信......?」

「そうよ、ちゃんと顔見せて」

「う、うん......」


 フードを被ったまま顔を上げて、琴実ちゃんを見上げる。身長差5センチって、端から見たらあんまり変わらないのかもしれないけど、ちょっとだけ目線を上げないといけないのはコンプレックスでもあった。


 その時、顔全体がスーッとして、一気に涼しくなった。周りの景色もよく見えるくらい明るくなっていて、街の風景が鮮明に映る。


「こ、琴実ちゃん......!?」

「フード取っただけで随分と大袈裟な反応するのね」

「そ、そうだけど......」

「別に寒くないんだから、フードくらい外しときなさいよ。さっきも言ったけど、それだとあんたの可愛い顔が映えないのよ」

「そんな......、琴実ちゃんの方が......」

「あんた......、そう言うところよ」

「......」


 私が、可愛い......。そう言われて嬉しくないわけがない。特に琴実ちゃんから言われると舞い上がっちゃうよ......。


「取りあえずね、結羽歌の仮装はもっと可愛く出来るのよ。顔をしっかり見せるのは前提として、あとは身体全体の魅せ方よね......」


 再び琴実ちゃんは屈みながら、私の仮装をまじまじと見つめている。右手を顎に当てながら考え込んでいて、本気なんだなって思っちゃう。


「正直、上着なのに丈が爪先に届きそうになってるのは、アウトよね。てかこれ、別にサイズ間違ったってわけじゃないわよね......?」

「はうぅ.....」

「手もブカブカだし......、なんか結ぶものないかしらね......」


 余計なお世話だなんて思わない。私だって背伸びしたいし、男の人女の人に限らず『可愛い』って思われたいもん......。ナンパされたいとまで思わないけど......、擦れ違う人が私のこと見て、魅力的に感じてくれたら嬉しいかな......。

 下心があるって思われるかもしれないけど、誰かに良く見られたいって思ったから、髪だって染めたんだもん......。


「琴実ちゃん、ありがと」

「もう、お礼言われるまでのことしてないわよ......」


 そう言いながら琴実ちゃんは、爪先に届きそうなくらい長い上着の裾を腰より少し下の位置まで上げてくれた。中の半袖Tシャツの丈より少し長めの裾結びが出来上がって、不意に冷たい空気が生足に触れて気持ちいい。


「汗掻いてるじゃない......」

「うん、結構暑かったんだ」

「もう、暑すぎると反って逆効果なのよ」

「琴実ちゃんはお腹出してるから、涼しいね」

「この服、思ったより生地が厚いからそんなに涼しくはならないのよ」

「そうなの......?」


 琴実ちゃん、ちゃんと考えて仮装しているんだな......。可愛さもそうだけど、周りの視線を集められそうなくらいの魅力も持ち合わせている。

 初めて会ったときも、私の隣に居てくれるには申し訳ないくらいだと思ってたのに、何年も関係が続くなんて想像もしてなかったんだ......。


「足は何とかなったけど、腕の方はシュシュ着けたいわね......」

「シュシュ......!?」

「うん、まさか輪ゴムで留めるつもりじゃなかったわよね?」

「そ、そんなこと......、ないよ......!」


 流石に輪ゴムでは留めない、留めないけど、シュシュなんて、可愛すぎるよ......!

 髪が長かった頃はずっとストレートのままだったし、短くしてからも自分から結んだことなんて無かったのに......! いや、今回は腕留めに使うことになるんだけど、それでも私にシュシュなんて......。


「お化けの仮装なんだから、白いのがいいわよね」

「うん! うん!」


 何だろう......。恥ずかしくて自分でも顔が真っ赤になってるのが分かる。焦って言葉が出てこない、琴実ちゃんの前だから、自尊心は保てなくないけど、始まったばかりのタイミングで舞い上がっちゃうのは私の悪い所かも......、しれないね。

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