ハロウィン、2人の仮装
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琴実ちゃんが来たら一緒に廻ることになっている。その前に着替えを済ませて、余裕があったら少しでもレポート進めておかないと......。
サークルを辞めてから自分の時間が出来て、授業だってちゃんと時間通りに来れるようになってきた。成績はともかく、前よりもずっと頭が回っているし、難しくなってきた授業について来れないなんてことにはなってない。
勿論、ベースの練習も欠かさずしている。琴実ちゃんの言葉をずっと信じているから......。
高島琴実:もうすぐ着くわよ
テーブルの上に筆記用具とレポート用紙を用意したまではいいんだけど、ベストなタイミングで琴実ちゃんから連絡来ちゃった......!
池田結羽歌:もう着替えてるから、準備出来てるよ
高島琴実:結羽歌の仮装、楽しみね
池田結羽歌:私も!
お互いにどんな仮装をしているかは敢えて教えていない。当日までのお楽しみってことになっている。
「琴実ちゃん、私の仮装みて何て言うかな......」
自分にはどんなのが似合うかな、なんて悩んで選んだ仮装だけど、笑われないかな? 可愛いって言ってくれるかな?
程なくして玄関のチャイムが鳴ったから、部屋の電気を消して扉に手を掛けた。
「おはよ!」
「もう、その挨拶は朝限定だよ?」
「ライブハウスでの挨拶は朝の挨拶なのに」
「そ、そうだけど......」
「そんなことより私の仮装、どうかしら?」
「えっと......」
琴実ちゃんは黒い猫の仮装だった。バイトしている時と同じ髪型にしていて、頭には猫耳のカチューシャ、両手には猫型の大きな手袋を着けている。
「可愛いよ! でも、お腹冷えない......かな?」
「えっと、そんなに寒いかしらね」
膝丈まであるスカートとトップスが分かれていて、レースで覆われているとは言えお腹が見えている。夏なら大丈夫だとは思うけど、肌寒くなってきているから、風邪引いちゃいそうで心配かな。
「大丈夫よ! それよりも結羽歌の仮装......」
「ど、どうかな......?」
「じーっ」
「......?」
変だったかな......? 結構暖かい感じの衣装だったから、悩んだ末に体調のこと考えて選んじゃったんだけど、もっと琴実ちゃんみたいに、大胆な感じのものにした方が良かったかな......?
「くすっ......、あはは!」
「え、えぇっ......!?」
いいだけ見つめておいて、琴実ちゃんはお腹を抑えて笑い出してしまった。いくらなんでも、感想言う前に笑うのって、どうなのかな?
「いや、なんか、あんたらしいって言うか、ちょっとダサい感じがまた堪らないって言うか!」
「だ、ダサくないよ! 私だって、一生懸命考えたんだから......!」
「へえ~」
私が選んだのはお化けの仮装だった。半袖短パンの上にポンチョ型の白いトップスを被り、フードにはお化けの顔が描かれている。
首元にはピンクのリボンがついてて可愛いと思ったし、ちょっと大きめのサイズを選ぶことでお化け感が増すと思ったんだけど......。背だって低いんだし、こういう時だけには役立つと思ったから、自信あったんだけどな......。
「こ、琴実ちゃん......! あんまりじっと見ないでよ......! 恥ずかしいよ......」
「えー、ダサいとは言ったけど可愛くないとは言ってないんだけどね」
「で、でも......!」
怒ってないのに、どうしてか強気になってしまう。確かに、琴実ちゃんの方が気品がある感じだし、私よりもずっと可愛いのは認めてるけど......、認めてるけど......!
「はいはい、言い過ぎたわよ。あまりにも結羽歌らしさが垣間見えてて面白かっただけ」
「私は......、琴実ちゃんを笑わせるつもりなかったんだけどな」
「もう、そうやってすぐふて腐れないの。まだ始まったばかりなのに」
「......」
まだ始まったばかり......。琴実ちゃんとの思い出も、始まったばかり......。
クラスも違うし、サークルも辞めて、会う機会が減っちゃうんじゃないかって、不安にもなっていた。それなのに、琴実ちゃんは真っ先に私を選んでくれた。
「ちょっと、怒った振りしたかっただけだもん。気にしなくていいんだもん」
「その膨れたほっぺたで言われても説得力ないわよ」
そう言いながら琴実ちゃんは私の頬を人差し指で突いてくる。
「もう......、行くよ」
「はいよー!」
でも、ちょっと安心したんだ。琴実ちゃん、すっかり元気になっていたから......。
安心したから、玄関に鍵をかけて、私達は外の街へと歩き出していった。




