仮装、当日に着るもの
小一時間は経っただろうか。ようやく当日何を着るか決めた音琶だが、奴なりの個性を活かせた仮装が出来たみたいで満足そうだった。
「結局この色かよ......。てかこれだと魔女感ゼロだな」
「そんなことないもん! この帽子見れば魔女の仮装だってすぐにわかるよ!」
「形だけはそうかもな」
魔女の仮装をしたいと言っていた音琶は、明るい水色の生地の魔女服を着ていた。いやこれ、魔女って言うより魔法少女って言った方がまだ説得力あるような......。本来なら黒とか紫といった暗めの色を選ぶべきだと思うし、いくら胸元のリボンや腰に巻かれたベルトが黒だからといって根本的なイメージは覆らない。
でも音琶は独自のアイデアを尊重しているし、俺が何か言った所でこいつが話聞いてくれるとは思えないしな。それにこれはこれで可愛いし......。
「箒だってあるんだから!」
「......」
市販の半分くらいの長さか。人混みの中で持ってても邪魔にならないし、帽子とこれさえあれば何の仮装なのかは伝わるか。
「やっぱり、音琶にはこれが一番似合ってるかもな」
少し時間を置いて深く考えただけなのに、いつの間にか音琶の魅力に飲み込まれていたようだ。
「もう、最初からそう言ってくれればいいのに」
「......そうだな」
箒の藁の部分を俺に突きつけながら音琶は頬を膨らませていた。
・・・・・・・・・
「それで、これは音琶のリクエストってことになってたようだが......」
「うん! なんか夏音ってファッションセンス無さそうだから、自分の選んでる間に夏音に合いそうなの探してたんだ!」
「成程......」
特殊メイクなるものは施されてないし、髪だっていじられたわけでもない。だが、頭にツノが付け加えられてるのは何だ。
仮装とは言えこんな装飾品まで揃っているだなんてな。服だけでなく様々なものが売られていることに関心を持つ俺だった。
因みにファッションセンスがないのは認めざるを得ない。
「夏音、可愛い!」
「だからだな、その言葉は男に対して言うもんじゃないだろ」
「何言ってんのさ、本当は嬉しい癖に」
「いや、あのな......」
「そういうとこも可愛いよ」
「う、うるせえ......」
何だよからかってるつもりかよ、そんなんで動じるほど俺は脆くないからな。
でもまあ、ファッションセンスが抜群の音琶が厳選してくれた仮装は悪くないな。吸血鬼を意識しているみたいで、気品のある黒服の上に黒マントを羽織り、側頭部には先の尖ったツノ。牙の模型もあったが、それを付けてしまうとまともに喋れなさそうだし、変に気になってしまいそうだったから選んでない。
「夏音のイメージカラーは黒! って感じするから、よく似合ってる!」
「まあ、似合ってるって言われて嫌な気分にはならねえな」
「そしたら、30日の夜、これ着て廻ろう!」
イメージカラーってなんだよって思わなくもないが、それを言うなら俺も音琶には水色が似合うって思ってんだから、変に意識するようなことでもないか。
にしても俺には黒が相応しい、ね。過去が真っ暗だったからある意味お似合いかもな。
それはともかく、当日着ていくものがようやく揃ったようで、割と当日が楽しみになっていた。
何か一つでも楽しみが増える人生こそが、俺に与えられるべきものだったのかもしれないな。




