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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第3章 臆病者に助言はいらない
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結成、一件落着とは言えない

 5月9日


 一昨日の五限の時間で立川に全て話したけども、奴はある程度覚悟は出来ていたみたいで入部できないということを受け入れてもらえた。


「新入生ライブ、見に行くからね」


 彼女はそう言ってくれた。

 こいつのことも日高同様友人として接してもいいかもしれないな。


 一つの問題を片付けても、それとはまた別の課題があるわけで、今日中にバンドのリードギターを決めておかないと部会の時に部長がメンバーをランダムで決めてしまうのだ。


 何故このタイミングであんなこと言い出したのかは、俺が立川のことを話したからだと推測する。

 採点や掟のこともそうだけど、立川が入部したら新たにバンドを決めなければならなくなるし、それを回避するための行動だとしたら辻褄が合うんだよな。

 あとは鈴乃先輩が心配なのだが、あれ以来あの人は部室だけでなく自分の部屋でもギターを弾いているって噂を耳にした。

 次に活かすために自分の練習メニューを増やしたんだろう、実際の所鈴乃先輩は演奏の技術は高いのだから、バンドメンバーと話し合うのも一つの手だと考えるけどな。


 全コマの金曜日、そして部会と夜勤、ただでさえ憂鬱な日が幕を開ける。

 いつも憂鬱な気がするけど金曜日は特に忙しい、本来なら明日から土曜日が始まるということに胸を躍らせ、授業が終わった後に1週間の終わりをお友達同士で歓喜し、どこかに遊びに行く奴もいるというのに。


「滝上、お前今日部会の後暇?」

「暇じゃねえよ」

「そっかー」


 五限の授業が予定よりも早く終わり、部室に向かう道中日高に予定を聞かれる。

 サークルの予定以外にも夜勤という柵みがあるから暇なわけが無い。


「じゃあ日曜日は?」

「多分何も無いと思うけど」


 こいつ、どこかに飲みに行こうとでも言うのだろうか。

 酒弱いのと金が無いのとでその気にはなれないんだが、飲酒抜きなら給料が入った後だと考えないこともないけど来月まで待たなきゃいけないし。


「ボーリング行かない? 結羽歌と立川もなんだけど」

「え?」


これは予想外だった。

 だけど問題は金だ、いくら今月分の仕送りが送られてきたとしても家賃や電気代、水道代諸々のことを考えたら足りるかどうかが微妙すぎる。

 因みに五限は選択授業だから結羽歌と立川はこの場にいない。


「俺駅前のモールにあるゲーセンでバイト始めたんだけどさ、そんときボーリングの無料券4枚ももらったんだよね」


 あそこか、流石大都市のモールとも言えるくらいで、ゲームセンターも設備が凄かった。

 最新の機種は勿論、VR体験だってできるし、広い敷地内にはボーリング場とカラオケボックスまで用意されているとのことで、休日はかなり混むらしい。鳴大生もよく訪れるだとか。

 無料券なら行ってもいいかな、折角誘ってくれてるわけだし。


「なるほどね、行こうかな」

「よし、まさか滝上が乗ってくれるとは思わなかったけどさ、楽しみにしてるからな」

「俺だってこれくらいは行くぞ、失礼だな」

「まあまあ、それじゃあ二人にも連絡しとくよ。時間とか集合場所はまた後日」

「了解」


 そうしている内に部室に到着し、日高と別れた。


 ・・・・・・・・・


 部会は新入生ライブの事以外は特に大きな連絡はなく、まだメンバーが確定してないバンドは後で部長の所に行くことになった。


 そういえば湯川は音琶にバンドのこと言ったのだろうか、音琶のことだから湯川が何か言ってきたら真っ先に俺に連絡してくるんじゃないかと思うけど、特に何も来てないから話がどっちの方向に進んでいるのか全く分からない。


「これで全員か?」


 部長が人数確認すると、全員で17人いる新入生のうち8人が集まっていて、まだメンバーが正式に決まってないのは俺のバンドともう一つしかなく、そっちはドラムが足りてないとのことだった。

 ドラム志望者が少ないのは軽音部あるあるの一つとなっているくらいで、大抵の人はギターを弾きたくて入部する。「けいおん!」とか「バンドリ!」の主人公だってギターなんだし、それに影響された人も少なくないとは思う。


 キーボードは女子2人しかいないけど、キーボード無しで演奏できるバンドはいくらでもあるわけで、欠かすことの出来ないドラムから人を集めることを優先しているようだ。

 それでもドラムが1年生だけで3人しかいないのは致命的だ、誰かが掛け持ちでやるか2年生以上の先輩に声を掛けるのが妥当といったところか。


「じゃあこれからバンド確定させるんだけど、今のところで決まってる奴で分かれてくれ」


 部長の言葉で俺は音琶と結羽歌に近づく。

 もう一つのバンドもそれに続くが、湯川はというと1人だけポツンと立っているような状況だった。


「武流......、お前何もしてなかったとかじゃないよな」


 部長が呆れ気味に湯川に尋ねた。


「一応話はしてるんですけど、連絡しても全然返信来ないんですよねー」

「それはどこのだ」

「こいつらですよ」


 そう言って湯川は俺のことを指さした。

 いやお前話が違うだろ、一応俺と結羽歌は形だけでも了承したつもりだぞ、後は音琶次第みたいな感じだったし。

 俺も音琶に何か言うべきだったのか?


「お前ら......、まさかとは思うけど武流を無視してたのか?」


 部長が俺らに視線を移し、問いかけてくる。

 言っておくけど無視してないからな、少なくとも俺は。


「してないです、ただ断っただけです」


 俺より先に音琶が口を開いた。

 こいつ断ってたのかよ、せめて何か言ってくれても良かったのに。


「どうしてだ」

「それは......」


 部長の質問に音琶が言葉に詰まりだす。

 とは言っても、音琶が断ったのは湯川に苦手意識を持っているからであって、湯川はよく音琶に話しかけてるけど、音琶はほとんど一つ返事だけで済ませている。

 俺としてもメンバー全員の仲が良くないとやりづらいからそこはどうにか出来ないものかと思う。

 だけど事は上手く行かないようで......、


「お前らに何があったかは知らないけど、今は早急にバンド決めとかなきゃいけないんだよ。それに武流は今誰とも組めてないんだ、お前らギター1人必要なら丁度いいだろ」

「......」


 音琶が悔しそうに唇を噛み締めている。

 部長の言ってることのどこまでが正しいかはよく分からないけど、少なからず音琶の心情も理解してあげるべきだとは思う。


「......わかりました」


 とうとう音琶が返事をした。

 でも本当にそれでいいのかよ、こんだけ嫌そうにしているというのに。


「わかったならいい、これで決まりだ。あとはもう一つのバンドなんだが......」


 そう言って部長は俺らの隣のバンドに焦点を移した。


「なんだよ音琶、俺が入ってもいいなんて今まで言ってくれなかったのに、素直じゃないなあ」


 嫌々ながらもバンドに入れてもらえた湯川は調子に乗ったのか音琶に話しかけている。


「いいなんて、言ってないから。たまたまタイミングが悪かっただけ」


 音琶はそれだけ言って部室を後にしてしまった。

 この後の飲み会は参加しないらしい、俺も夜勤あるから一旦帰るけど少し安心した。


「ねえ夏音君」


 音琶に続いて帰ろうとしていた俺に結羽歌が声を掛ける。


「何だ」

「本当に、これでよかったのかな......。音琶ちゃん、辛そうだった......」

「いいわけねえだろ」

「なんとかならないのかな?」

「どうにかなると思うか? なったらどれだけ楽なことだか。日高が辞めたタイミングも悪かったし、運も悪かったんだよな」

「うん......」

「こうなった以上どうにか音琶をフォローして上手いことやっていくしかないだろ。ここで湯川にやっぱり駄目、みたいなこと言ったら減点されるかもしれないしな」


 最善策がこれしか思い浮かばない自分が情けなくなってくる。

 音琶は俺と組みたくてここまで来てるんだろうけど、肝心のメンバーが気の合わない奴だとどうにもならない。


「2人で何話してんだよ、曲決めとかだったら俺も参加させてよ」


 鬱陶しいなこいつ、入れてもらえただけで調子に乗りやがって。


「お前には関係ない話だ、俺この後バイトあるから先帰るぞ。ほら結羽歌、お前も行くぞ」

「う、うん......」


 結羽歌を上手く促し、部室を出ようとしたときだった。


「夏音、ちょっと待て」


 横から部長に呼ばれ、一旦立ち止まる。


「何ですか?」

「こいつらのドラム、掛け持ちしてもらえないかな?」


 えぇ......。


「他の1年は初心者だし、2年目以上も掛け持ちしてて忙しいからお前くらいしかいないんだよ」


 こういうときだけ俺を頼りがいのある奴みたいに都合良く扱うんだな、忙しいのは俺も一緒なのにさ。


「へえ、夏音チャンスじゃん。掛け持ちとか羨ましいぞおい」


 それを聞いてた湯川に言われ、若干イラッときた。


「お願いします!!」


 他のバンドメンバーも俺に懇願していて、部長も難しい顔してるけど新入生に断れないような頼みを持ちかけてくる先輩の姿は見苦しいものだった。


「無理」


 実際そんな気分じゃないし、そもそもこいつらとは話したことがほとんど無い。

 そう簡単に人を信用することのない俺が折れてくれると思うなよ、それだけ言い残して俺は部室を後にした。結羽歌もそれに続く。


 後悔しても仕切れないのはわかっている、最近上手くいってる俺からしたら何とかなるんじゃ無いか、なんて気を緩めていたのがいけなかった。


 ......上手くいってる? そんなのただの勘違いだろうが。

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