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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第26章
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学祭、第二の襲来

 音琶の出番が終わり、奴はすかさず俺の所へと足を急がせ、隣のパイプ椅子に座ってきた。一応PAの席は4つ用意されているから座るスペースはあるが、役目を終えたのだから少しくらい休んでもいいんじゃないのか?


「お疲れだな」

「うん......、もう身体熱くて疲れた......」

「ゆっくり休め」

「そうする......。PAは二人に任せる......」


 音琶にしては珍しくぐったりしているな......。演奏中の動きが過去一番と言っていいくらい激しかったし、まるで今まで本気を出していなかったかのような......いや、今まで音琶はずっと本気だったはずだ。どうしてそんな薄情なことを思ってしまったのだか。

 それにこの後は再び他校のバンドを1つ挟んだら琴実が新たに組んだバンドの出番になる。その間も俺と淳詩でPAを何とかしないといけないってことか。最初だけ付いていた先輩達はいつの間にかどこか行って戻ってこないし。

 後輩に任せるのは良いとして、少しは先輩も後ろに立つくらいはしてもいいんじゃないかね。


「......」


 転換の時間だから割り振られた通りに卓を操る淳詩を見て、かなり成長しているということが窺えた。何度かライブを重ねていく内にサポートした甲斐があったと我ながら思う。

 ここまでやってのけたのだから来年は何かしらの役職に就かないとおかしいだろうな、知識だけだったら先輩達に負ける自信がない。


 掟なんてくそ食らえだ、あんなものなくてもサークルを動かすことが出来るってことを行動で示してやらないといけないな。


 それにしてもライブの熱気は凄まじい。もうすぐ10月も終わるというのに外と中の気温の差が激しく、最早冷房が役割を成していない。


「暑い~」


 音琶が椅子にもたれながら上着の裾をパタパタさせている。汗のせいで服が全身に張り付いているのは俺も同じだし、そろそろ我慢の限界かもしれない。もう一回飲み物でも買ってやるか。


「音琶、さっきのスポドリはもうないだろ? 新しいの買ってやるよ」

「本当......? よろしく~」


 本当に大丈夫かよこいつ。まあ早いとこ調達するに超したことはないな。


 ・・・・・・・・・


「ねえ、あれやっぱ上川音琶だったよね?」

「そうだと思うけど、まさかでしょ? だってあいつあんなこと出来るわけないし」

「だとしたらヤバいよね~。てかここの生徒? あとで確かめに行こうよ」


 .........?


 飲み物を買って体育間に戻ろうとしたとき入り口付近で妙な話し声が聞こえた気がしたが、音琶の話題が出ているのか......?

 長年のぼっち生活のお陰で並大抵の人より話し声や噂話を聞き取ることが出来るが、こんな大勢の中だと誰が話しているかまでは判別できない。


 誰が話しているかわからないのも問題だが、音琶について何を話している......? ライブを見てギターが良かったとかいう話ではない、声のトーンからして侮蔑の感情が籠もっている様にも聞こえる。

 だとしたら一体誰が、何の為に......? 検討が一切付かないが、今は早く音琶の元に戻らないといけない気がしたから急いで奴の元へ足を速めた。


「音琶......?」


 さっきの場所に戻ると、音琶が座ったまま蹲っていた。まさか......、


「おい、音琶、聞こえるか!?」


 軽く背中を摩ったが、意識が無いというわけではなさそうだ。以前ライブ中に倒れたこともあったから心配だが、あの時よりは症状は軽そうには見える。


「夏......音......」


 途切れてはいたが声ははっきりと聞こえた。軽い脱水症状でも起こしたのだろうか。


「返事は出来るな、飲み物買ってきたけど飲めるか?」

「うん、大丈夫......。あと、ちょっと外出たいかな、暑いから」

「ああわかった。立てるか?」

「うん......」


 念のため手を取ってやったが、特に立ちくらみがあるというわけでもなさそうだ。これなら数分程度身体を冷やしておけば大丈夫だろう。


「すまんな淳詩、少しだけ席外す。PAの方は先輩呼んどいてくれ」

「え? うん」


 一言掛けてから俺と音琶は体育間の出口へと向かっていった。ロビーに設置されている椅子に音琶を座らせ、さっきのスポドリを渡す。


「ありがと」


 スポドリを受け取り、安心したようにゆっくりと喉を潤す音琶。取りあえず一安心と言ったところだな。



「ねえ、あんた上川音琶でしょ?」



 次の瞬間、背後から聞き覚えのある......と言ってもさっき聞いたばかりだが、侮蔑を込めたような声が音琶を呼んでいた。


「......!」


 名前を呼ばれ、顔を上げた音琶の表情はみるみるうちに強張っていく。まるで世界の終わりを目撃したかのような、そんな顔になっていた。


 嫌な予感しかしない。音琶の表情、そして音琶に向けられた声。まるで昔の俺を見ているかのような、二度と思い出したくない出来事を彷彿とさせる、''何か''が始まろうとしていた。

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