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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第26章
382/572

学祭、輝いている奴のために

 ***


 音琶が輝いている......。


 そう思う度に俺は何度もスマホを取り出して奴の姿を写真に納めていた。

 夏休みに音琶のことを撮ってから、ひっそりとスマホのカメラを作動しては何気ない風景を撮っていた。飯を食っている時も、ポスターの宣伝をしている時も、今こうしてギターを掻き鳴らしている時も......。

 流石に裸の写真は撮ってないけどな。納めてしまったら真っ先にトイレに籠ることになりそうだし。


 PAのヘルプに入っているにも関わらず......、いや、ヘルプだからこそこうして音琶が一生懸命に演奏してる姿を納めていこうと必死になっているのかもしれない。

 それくらい俺は、音琶のことを大切だと思っているのだから......。


「何であんなに楽しそうなんだよ......、あれだけ文句言ってただろ......」


 音琶は当初、茉弓先輩からほぼ無理矢理今のバンドに誘われていた。あくまで鈴乃先輩の代役という立場であって、音琶の行動の監視も兼ねての勧誘だった。

 どうして自分は自由にバンドを組めないんだろう、どうしてこんなにも先輩達の目に縛られないといけないんだろう、そうやって悩みながらもずっと練習を繰り返していた。俺に着いてくるように相談してきたこともあった。


 そんな音琶が今、思わず写真に収めてしまいたくなるくらいの演奏を繰り広げている。俺と組んでいた時とはまるで違う表情でだ。


「ふざけんなよ......」


 別に怒りに奮えているわけではない。だけど、俺以外の奴と組んで、ましてや嫌っていた奴らと組んでおいて、あんな威厳に満ちた演奏をされていることに苛ついていた。

 どういう想いがあってあんなことしているのかは知らないが、最初に魅せた俺の演奏について音琶も思うところがあったのだろう。それの仕返しだとしたらあいつらしいと言えるが、それで俺のモチベが上がるとでも......?


 いや、上がるよな。上がらないわけがない。

 今ステージに立って最大限のギターを掻き鳴らしている音琶と共にバンドを組みたい。俺は嘘偽りなくそう思っていた。

 初めて音琶に会った日、奴は俺の演奏を見て一緒に組みたいと言ってくれた。演奏だけで一目惚れされたと言っていいだろう。あんな演奏なんて勘違いで勝手に舞い上がっていただけなのに、そんな演奏を認めてくれる少女があの場所に居たのだ。

 あれから地獄を見たというのに、再会してからも音琶は俺を信じて着いてきてくれたのだ。そんな奴の真意を蔑ろにして放っておくことなんて出来なかった。


「本当に、ふざけやがって......」


 さっきから俺の独り言にいちいち反応する淳詩は放っておこう、どうせお前には何の関係ない話なのだから。

 まあ誤解を生む発言をしていることに違いはないから、もし何か質問してきたらこっちから発言の訂正くらいはしておくか、別にお前のこと嫌っているわけではないのだからな。むしろ琴実達と新たにバンド組めて頑張っている姿は何度か目にしているから、俺からしたら頑張って欲しい気持ちだってある。

 この後だってようやく淳詩の出番があるわけだし、初心者ながらどれだけ成長したのか気になる所だからな。


「あの......、さっきから何を......?」


 一旦MCに入り、タイミングを見計らったのであろう淳詩が俺に尋ねてきた。まるで自分に向かって言葉のナイフを突きつけられているのではないかとという不安が感じられたが、別にお前に対してどうとかいう話は一切無い。


「......こっちの事情だ」


 懇切丁寧に説明する気力はなかった。そんなことしたら恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったから......。


「ならいいんだけど......」


 卓を触りながら俺から視線を逸らす淳詩だが、やはり奴は俺に怯えているのだな。まあいいけど、俺だって奴にそこまで優しくするつもりはないし、淳詩に対して励ましの言葉を伝えたことは一度もないからな。


「......」


 とは言え、大学に入ってから誰かに優しい言葉を投げかけた記憶は無い。無意識に掛けたことはあるかもしれないが、そんなことどうだっていい。

 俺は俺の生き易いやり方で人生を歩むだけなのだから、わざわざ誰かの為に何かしてやろうなんて気持ちにはならない。音琶が居なかったらその意思を貫いて止めようとしなかっただろう。

 それなりに頑張っているこいつに冷たく当たっていることを少しは反省すべきなのかもしれないな。別に口で言うなら簡単なことだけども。


「淳詩、お前......」


 そう言い掛けて、やめる。再び演奏が始まったから言い掛けた声はかき消されて奴には届いてなかったようだ。


「......」


 何も無かったかのように振る舞って卓の調整に戻る。言葉に表すのは簡単にできることだから、行動で示して少しでも信頼されるように努力するか。


 気を取り直してライブに向き合い、俺はもう一度輝いている音琶に向かってスマホのカメラを起動させた。

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