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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第26章
380/572

学祭、文字が消えても

 ***


「はぁ......、はぁ......」


 額から頬へ伝う汗、Tシャツは汗に塗れて身体に張り付いている。喉が渇いた、水が飲みたい、早くステージ降りないと......。


「ありがとうございました!」


 全ての曲を終え、私達のバンドの出番は幕を閉じた。これからはまた次のバンドが場を盛り上げていくんだ......。私はあともう一つあるけどね。


「お疲れだな、ほら」


 機材の片付けを終えて、下に降りると夏音がペットボトルのスポーツドリンクを渡してくれた。焦るように受け取って凄い勢いで喉に流していくと、さっきまでの暑苦しさとは裏腹に身体全体が涼しくなっていった。


「あんまり急ぐと腹壊すぞ」

「う......、うん、そうだね。でも、こんなに汗凄いから、いっぱい飲んでおかないと脱水症状になっちゃうもん」

「無理はするな」


 呆れているのか心配しているのか、それともさっきの私の演奏に嫉妬しているのかはわからないけど、夏音なりの優しさはしっかり伝わっていた。


「それはそうと、お前のリード良かったな」

「......!」


 思わず手が止まる。ペットボトルを口から離し、夏音に視線を合わせる。


「そんなこと言ってくれるなんて、珍しいね」

「別に、思ったことそのまま言っただけだ」

「また私と一緒に、バンド組みたくなっちゃった?」

「......当たり前だろ」


 恥ずかしくなったのか目を逸らし、闇雲にスマホを取り出して誤魔化す夏音。もうこうなったら早いとこ新しく組んどかないと後悔することになるよね!


 それはそうと......、


「音琶......、私、上手くやれたわよね......?」


 私と同じく汗だくになった琴実が心配だった。だけど本番前と比べて顔はすっきりしているし、何よりもさっきの演奏といいMCといい満足のいくものに仕上げられたんだと思う。

 本当はもっと言いたかったことあったみたいなんだけど、いざ沢山の人の前で言うとなると咄嗟に言葉が出てこなかったみたいで、結構闇雲になっていたみたい。


「うん、最高だった。MCもね」

「も、もう......。あれは割と黒歴史......」

「そんなことないよ。それだけ琴実は結羽歌のことが大切なんだもんね」

「そ......それは! そうだけど......、全然言いたいことちゃんと言えた気しないし、途中で泣きそうになるし、それにそれに......」


 言葉に詰まっている琴実の右腕を無言で掴む。すると琴実はハッとしたような顔になって......、


「これ......」


 さっきまで腕に刻まれていた黒い文字は綺麗さっぱり消えていた。あの短時間で消えてしまうなんて、相当な量の汗を掻いたってことでいいのかな? とても琴実が自分で消すとは思えないからね。


「消えてる......! 私なんかしちゃった!?」

「待って、落ち着いて」

「でも、これは......!」

「大丈夫だよ!」


 大切な人からのメッセージが消えてしまって焦る琴実を何とか落ち着かせようと再び右腕を掴む。するとすぐに琴実は呼吸を整えて落ち着きを取り戻した。


「きっとこれは、文字が消えちゃっても琴実は最後までやってくれるって、結羽歌が教えてくれてるんだよ!」


 我ながら何言ってるんだろうって思ったけど、人は何かきっかけがあって変われる生き物だ。琴実が元気を取り戻せるきっかけがすぐに消えてしまうものだったとしても、それが決して琴実の記憶から消えることはない。


「結羽歌は、例えあの文字が消えても琴実がもう一つのバンド、ちゃんとやり切ってくれるって、信じてるんだよ」

「結羽歌が......」

「そうだよ! だから落ち込んじゃダメ!」


 さっきよりも強く右腕を握りしめ、未だ不安定な琴実にエールを送る。私だって、大切な人のために、そして自分のためにギターを掻き鳴らすっていう大きな野望があるんだから。


「......そうね、まだ終わったわけじゃないわね」


 震えていた手が止まり、決意を示したかのように琴実は穏やかな表情をしていた。


「全部終わったら、結羽歌に会いに行かないといけないわね」


 まだまだこのライブは終わらない。私だってまだ出番がある。

 最後の最後まで、自分の精一杯を届けないといけないんだ。

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