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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第26章
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学祭、突然の提案

 他校のバンドもいくつか見ているものの、奴らがどんな人間関係を築いて音楽を創り上げているかの様子が頭の中で容易に思い浮かんでしまう。

 どんなルールがあってどんな先輩に囲まれてどんな環境を設けているのかは知らない。だけど、俺や音琶達が重ねている苦悩など気にする必要もないくらいに恵まれたサークルであることが窺えたのだ。


 音だって活き活きしているし、意味のある練習を繰り返しているからこそ構成される協和音は聴いてて気持ちが良い。

 目の合わせ方も身体の動かし方もしっかりしているからか、激しい曲であってもズレがほとんどない。ステージに立つあいつらはバンド仲がいいのだな、なんて羨ましいことなのか。


 ......羨ましい、か。どうせなら俺も誰かに羨ましがられる、いや、嫉妬されるようなバンドを音琶と組んでみるのも悪くないかもな。


 ***


 夏音のバカ、どうして私が最初じゃないのかな!? 確かに昔の音を取り戻せるように努力するって言ってくれたし、初めて見た時の演奏に一番近いモノを見せてくれた時は嬉しかった。凄く嬉しかった、はずなのに......。


 ううん、今は気にしちゃダメ。全部終わった後に改めて夏音にお説教なんだから! そしてまた私と一緒にバンド組むように言っておかないとね!

 流石にさっきの見ちゃったら、夏音が私を置いて遠い所に行っちゃうんじゃないかって、不安になったんだもん......。


「音琶、準備はいいかしら?」


 前のバンドが終わって次は私のバンドの出番になる。琴実も一緒だ。


「うん、琴実も万端だよね?」


 初ライブが終わって夏休みに入る直前、琴実に声を掛けられて一緒に組むことになった4人組バンド......、結成した後に夏休みもあったせいで活動まで時間が掛かったけど、ようやく沢山の人の前で魅せることが出来る。

 今思えば夏音も誘えば良かったかな、なんて思ったけど、今更後悔したって遅い。今は我慢の時期なんだから自分のことに集中しないと良いライブなんて出来ない。


「万端に決ってるじゃない! 誰が見ていようと問題無いわよ!」


 誰が見ていようと......、か。昨日の人もきっとあの観客の中のどこかに居るんだもんね。ライブが終わった後琴実に詰め寄ってくるかもしれないし、何が起こるかも予想が付かない。

 それでも琴実は大丈夫だって言ってた。それに、右腕に濃く書かれている文字が琴実を動かす大きな力になっているんだ。


「それで、お願いなんだけど......、先輩達も、お願いがあります」


 ステージに上がる直前、メンバーの足が止まる。琴実が何かをしようと考えているみたいな感じだけど、どうしたのかな?


「何?」


 先に尋ねてきたのはギタボ担当の杏兵先輩だった。一応バンド内のリーダーってことになっているけど、これといって上手いわけじゃないし、この人も何を考えているのかよく分からない人だ。



「突然になって申し訳ないんですけど、MCを全部私にやらせてくれませんか......?」



 一瞬だけ、本当に一瞬だけ沈黙が続き、スピーカーから響くBGMだけが私達を包んだ。でも、どうしてこんな本番直前に......?


 ううん、どうしてじゃないよね。琴実は1人でずっと考えていたんだもんね。それを言うのが今になっただけだもんね。


「困るな、俺もう何言うかある程度考えてきたんだけど」


 本来ならMCはボーカルである杏兵先輩がすることになっていた。だけど、だからといって他のメンバーがやってはいけないというルールはない。


「考えてきたのはある程度ですよね? 私はもう、隅から隅まで何言うか決めてるんです! だからお願いします! どうしても言いたいことがあるんです!」


 琴実の言いたいこと......。それが何なのか、誰に対して言いたいのか、私には分かってしまった。

 元気が出る言葉を腕に刻みつけてくれた、大切な人。その人に何が何でも言わなければいけないことを、この広い会場で伝える。


「私からも、お願いします!」


 頼まれてはいないけど、琴実の心意を読み取ってしまった私も一緒になって杏兵先輩に頭を下げていた。出番が始まる前に何やってんだかって話だけど、私だって必死なんだから仕方ないんだよ。


「全部はダメだ。俺だって考えてきた言葉があるんだ」

「それでも......!」

「まあ待て、別に琴実が話すことをダメとは言ってない。全部はダメって言ったんだ」

「......!」

「少し流れが変わる感じにはなるけど、言いたいことがあるなら好きにしろ。だけどあんまり時間は取らせられねえぞ」


 二人して同じタイミングで頭を上げると、呆れながらも少し微笑んでいる杏兵先輩の顔が見えた。渋々受け入れたって感じだけど、今だけは先輩に感謝だよね?

 まあ琴実のお願いも結構無理あるものだったけど......。


「あ、ありがとうございます!」


 もう一度深く頭を下げる琴実。私はそんな琴実の背中を優しく撫でてあげた。


 琴実のやろうとしていることが、どんな危険なことだとしても、私はちゃんと受け入れたい。どんな言葉を発するのかは琴実次第だけど、それが大切な人に届くように願わないといけないんだ。

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