学祭、襲来の翌日
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10月26日
調子良かったはずなのに、たった一人の存在が私をここまでおかしくさせた。
高校時代にあった嫌なことなんて綺麗さっぱり忘れて大学生になろうと思っていたのに、どうしてこうも過去を掘り返される羽目になるのよ......。
私、高島琴実には2ヶ月だけ付き合っていた彼氏が居た。同じ部活で、浮き気味だった私のことを気に掛けてくれて、気配りの出来る男子生徒だったことをよく覚えている。
いじめられていたわけではないけど、クラスメイトとは仲良くなれなかったし、どっちかというと居ても居なくても変わらない、そんな存在だった私。
それでも奴は親切だった。今思えばあれは表向きの姿で、私に思わせぶりな態度を見せて弄ぼうとしていただけなのかもしれない。或いは私が上手く口説かれたって言った方が正しいのかしら......。
兎にも角にも孤独からの解放を求めていた私は自分から告白して奴と付き合うことになったけど、それが悪夢の始まりだったのよ。
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「元気なくない? それともなくなくない?」
昨日の今日だからそこまで大きな準備をする必要がなく、簡単なリハを終えたら開場となる。30分後の開演に備えて部員はお客さんの誘導に入るけど、特に私は大きな仕事を持ちかけられたわけでもないから遠くを眺めていた。
あの中にあの忌々しい男はいるのかしら......。
音琶と夏音が頑張ってポスターでの宣伝をしてくれたから集客はそれなりに出来ている。まあ私だって、後ろの垂れ幕の作成に時間費やしたのだし、サークルの貢献にはなれてるはずよね?
そんな考え事をしている私に聖奈先輩がいつもの軽い口調で尋ねてきた。
「人多いなって、思っていただけです」
「そっかー。あれだけ居たら緊張しちゃうもんね~。昨日よりも多いんじゃない?」
「そうですね、少なくとも昨日よりは......」
不思議と溜息が出てしまう。昨日あいつらには先に帰るように促したけど、結羽歌が一番心配してくれたし、結羽歌のあんなに怒った顔見るのも初めてだったわよ。
「まああれよね、ライブはともかく悩んでいることあったら何でも私に相談しな、先輩なんだから」
今の言葉に思わず背筋が凍り付きそうになった。昨日あれだけ聖奈先輩とは上手くやれたと思ったのに、たった一日で認識が変わりそうになってしまう......。
きっと聖奈先輩含めたサークルの先輩達は、あいつに結羽歌のような感じで怒ってはくれないわよね。だって自分のこととサークルの掟を守ることで精一杯だから......。
あくまで聖奈先輩と上手くやっていたのは、同じバンドを組んでいる以上機嫌取らないといけないって思ったからであって、心の底から仲良くしたいとは思っていない。
音琶は何を心配していたのかは知らないけど、あいつに信用されるにはもう少し時間が必要かもしれないわね。別に掟を変えて結羽歌を取り戻す案について反対する必要も無いし、私だって協力したいって思っているのだからね。
......それにしてもライブ、昨日のように上手くやれるかしらね。一日経って少し落ち着いたけど、それでも怖くて仕方がない。
奴が見ているってことを考えるだけで、いや、見ているのは確実だから変に意識してしまって......。
あんな奴、最初から居なかったってことにしておけば、楽になれるかしらね。
残念だけど、簡単にできることではないわね、少なくとも私にとっては。




