一人、その方が落ち着く時もある
事情を知ったマスターが琴実を早退させてくれて、私達は琴実を近くの公園のベンチに座らせた。すっかり参ってしまった琴実は私服に着替えた後でも俯いたままで言葉を発さず、いつもは結んでいる髪も降ろしたままだった。
「琴実ちゃん......」
さっき起こったことの全てを知っているはずの結羽歌なら、何かを私と夏音にも教えてくれるかもしれない。だけど、今の琴実の状態を考えると簡単に話して良い空気ではない。
「......いいわよ、これは私とあいつの問題よ。完全に関係絶ったはずなのにね、まさか縒り戻そうとしてくるなんてね」
「......」
どうしよう......。私と琴実はバンドメンバーということもあって、明日のライブがどうなってしまうかもわからないというのに、どうやって声を掛けたらいいのか思いつかない。
そんなとき夏音が......、
「お前に何があったか知らねえけど、過去に囚われているだけってことはわかった」
「ちょ......、夏音あんた何を......!」
いつもの調子だけど、こういうときくらいは少し空気を読みなって! さっきのやり取り見てたらわかるのにどうしてこうも夏音は自分の意見をすぐに口に出しちゃうのかな!
「どうしたんだよ音琶、俺はあくまで本当だと思っていることを言っただけだ」
「そうだけど......」
「過去に囚われ続けて切り替えが出来てないのは、俺も同じだからな」
「あ......」
夏音は今の琴実と自分を比較している......ってことでいいのかな? 冷たい言葉を掛けているように聞こえてもちゃんと自分の考えがあってのことだもんね、きっと。
「別に何があったかなんて今すぐに言わなくていい。だけど明日のライブに支障を来すようなことだけはするな。俺だって不安定ながらも頑張って叩き続けてるんだからな、誰かのせいで」
「......」
「夏音も、気遣ってくれてるのはわかったわよ。だけど、放っておいてほしいわね。気持ちの整理着いてないから」
「琴実ちゃん......、私で良ければ......」
「結羽歌も、ありがと。だけど、今は1人にしておいてほしいかしらね」
「そっか......」
琴実の意見もあって、私達3人はそのまま帰ることになった。暗い公園でただ1人じっとしたままの琴実を置いて......。
本当にこれでいいのかな......? 確かに琴実は1人にして欲しいって言ってたけど、これで明日のモチベに繋がるのかな?
「結羽歌、あれで良かったの?」
「うん......。琴実ちゃん、嫌なことあったら基本は1人の時間欲しがるんだ。結構頑固だから、相談に乗りたくても『1人にして』って言って聞かないから......」
「そっか......」
「琴実がそれでいいんなら、俺もそうするべきだと思うけどな。下手に干渉し過ぎたら帰って逆効果だからな」
「......」
明日、琴実はどんな顔してサークルに顔を出すんだろう......。
琴実に何があったかも知らない身であるけど、今回もまた大変なことに関わってしまっている気がしてならなかった。
そんな私の身にも魔の足が近づいていることなんて知らず、私は夏音とともに暖かい布団の中へと吸い込まれていった。
その夜、とんでもない悪夢に脅かされた。それは私が高校時代、不登校に陥る直前までに起こり続けていた過去そのものが夢として現れ、目が醒めるまでずっと苦しめられる結果となった。




