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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第25章
364/572

学祭、観客として

 深く息を吸い、吐き出す。そんな動作を繰り返して平静を保とうと頑張っているけど、なかなか落ち着けない。

 人間関係で悩み続けてここまでやってきたけど、もうすぐ本番が始まってしまう。リハも終わって、今はお客さんが入ってくるのを眺めている。

 今回も体育館のライブだからポスターの宣伝だけでチケットを売ることはなかったけど、私と夏音が行ったお店の人は来てくれるかな? 別にポスターを一度でも目にした人が来てくれてもいいんだけどね。


「相変わらず浮かない顔、あんたらしくないわね」

「そうかもね。久しぶりにこれだけ沢山の人の前で演奏するからかな?」

「全く、私は理想のバンドが組めて演奏出来ることが楽しみで仕方なくて夜も眠れなかったって言うのに」

「琴実は、ずっと鳴香と組みたかったんだもんね」

「そうよ、聖奈先輩も丁寧に指摘してくれたし、今のバンドは止まることを知らないのよ!」

「そ、そうなんだ......」


 琴実は聖奈先輩をどう思っているのかなって気になってはいたけど、一緒にバンド組む仲になった以上関係を良くしようと頑張っているのかもしれない。

 私のバンド、2年生に囲まれてのリードギターはちゃんと楽しめているのかな? 楽しめてなんかいないよね?


「私一番最初だから、ちゃんと見てなさいよね。って言っても音琶はPAよね、あんま無理するんじゃないわよ」

「ありがとね、琴実」


 表情が晴れない私を心配した琴実は軽く私の肩を叩くとステージの方へ行ってしまった。開演までの間、琴実はずっと聖奈先輩と楽しそうに話していて、その光景が私の胸を締め付ける結果となってしまった。


 ◈◈◈


 もう体育館、開いているかな......?

 辞めたサークルのライブだけど、音琶ちゃん達が出るんだもん、ちゃんと行かないとだよね。


「にしても、すごい人だね......」

「そう、みたいですね......。高校時代、オープンキャンパスなら参加したことあるんですけど、学祭は初めてで......」

「そっか~。あたしも鳴成通いたかったな、みんな楽しそうだし」


 私、池田結羽歌は今、同じバイト先の由芽先輩を連れて学祭を楽しんでいる。屋台に廻ってご飯を食べたり、ステージを鑑賞したり、流石名門大学の学祭ともなると本気度が違う様に感じられる。高校とは大違いかな......。

 当の由芽先輩は私より一つ年上で、鳴大の滑り止めで合格した私立大学に通っている。高校時代は軽音部に所属していたみたいだけど、私立で奨学金を借りているということもあって部活には通っていない。その分ライブハウスという軽音部気分を味わえなくもないバイトをして少しでもお金を稼いでいるみたいだった。


「ねえ結羽歌、私で良かったの? クラスの友達とかじゃなくてさ」

「友達はみんな、サークルで忙しいので......」

「そっか。でも誘ってくれてありがとね、バイト無かったら退屈しているとこだったし」


 由芽先輩は私がサークルを辞めたことを知っている。サークルの事情はほとんど知らないけど、もし由芽先輩が鳴大受かっていて軽音部に入っていたらどうなっていたんだろう......。


「って......! もう始まってるかもしれないです、走りますよ......!」

「あ、そうだね! 音琶と滝上君の演奏、初めて見るんだし急がないとね」


 最初のライブの時と同じ体育館みたいだから、私が由芽先輩を案内して目的の場所へと向かっていった。


 本当だったら、私も今日は演者だった。だけど、自分で選んでしまった道だから、後悔する前に何をすべきか考えないといけない。


 今日この場に実羽歌を呼ばなかったのは、辞めたことをまだ秘密にしているから。

 実羽歌は今日が学祭だってこと知っているはずだから、もしかしたら連絡無しにここに来ているかも知れない。だけど、私からは連絡することが出来なかった。


 約束したんだ、私は何としてでもあの場所に戻るってことを。

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