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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第3章 臆病者に助言はいらない
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反省、できなかったこと

 5月6日


 居酒屋での飲み会が終わった後、二次会でカラオケに行って、帰る頃には4時を過ぎていた。


 それまで私はオーナーと結羽歌とサークルやバンドの話をしていたけど、ある程度時間が経つとみんな酔い始め、酔っ払い特有の変なゲームが始まった。

 簡単な言葉遊びやカードゲーム等して、負けたら度数の高いお酒を一気飲みするとかいう、みんなで楽しく酔っ払おうみたいなやつだ。

 別に飲むのは構わないけど、私はそういった雰囲気が得意ではないからゲームに参加してない人と話していた。


 二次会が終わったあとは車を持ってる人を乗せれるだけ乗せて、乗れなかった人はタクシーで帰って行った。

 勿論車で来た人はお酒を飲んでない、当たり前だけどね。飲酒運転は犯罪なんだもん、絶対ダメ!

 今私は部長の車に乗せてもらっていて、助手席には鈴乃先輩、後ろに私、隣に結羽歌が座っている。

 結羽歌は今回も飲み、私の隣でぐっすり眠っている。


 鈴乃先輩はというと、酔っ払った演者の人にダメ出しをくらったせいで相当グロッキーになっていた。

 10分くらいで到着するけど、眠いから私もそれまで寝ることにしよう。


 ・・・・・・・・・


「ありがとうございました」


 私は寝たまま起きない結羽歌を部屋に入れるために、結羽歌の住んでるアパート前で降ろしてもらった。

 鈴乃先輩はもう少し遠い所に住んでるとのみたいだったから車に乗ったままだった。


「う......、重い」


 肩に結羽歌の腕を掛けているから、背中には控えめながらも柔らかな胸の感触が伝わっていき、アパートの階段にのぼるのも一苦労だった。

 結羽歌がいくら呼びかけても起きないってことはこの前わかったから今回もこうなると思ってたけど、いざするとなると骨が折れる。

 結羽歌の鞄から鍵を取り出し、鍵穴に挿して回す。部屋に入って真っ先にベッドに寝かせ、帰ろうとしたとき結羽歌の可愛らしい瞼が僅かに動き出した。


「あれ? 気づいた?」

「んん......、おは、よう?」

「うん、おはよう」


 寝ぼけているのか、結羽歌は一瞬何が起きたかわからないような表情をし、朝の挨拶をしてきた。

 そう言えば結羽歌は例のゲームやってて、この前の飲み会以上に飲んでたような飲んでなかったような......。

 オーナーやライブハウスのスタッフから相当気に入られてるみたいだった。

 それと、バイトお疲れ様。


「結羽歌、結構飲んでたね」

「うん、でも楽しかったよ」

「そっか、よかった。でも飲み過ぎは注意だよ」

「うぅ......」


 指摘され、少し私から視線を逸らす結羽歌。

 相変わらず可愛いやつめ。


「大丈夫だよ、結羽歌は酔っ払っても誰にも迷惑掛けてないから」

「でも、また音琶ちゃんに送って貰っちゃったし......」

「気にしすぎ、友達なんだからこれくらい当たり前だよ、迷惑だとも思ってないから」

「友達かあ......、嬉しいな......」

「もう、結構前から友達でしょ」

「そう、だよね......。私、何言ってるんだろう」


 結羽歌の顔がどんどん赤くなっていく。

 それを見てるとまたからかいたくなってしまい......、


「そうやって恥ずかしがってるとお腹くすぐっちゃうぞ~!」

「ひゃぁぁ!! お腹だけはやめて~!!」


 逃げようとする結羽歌を捕まえ、服の中に手を入れてお腹をくすぐる。

 お腹を触られた結羽歌はくすぐったさの余り目に涙を浮かべながら笑っていて、彼女のこんな姿を見るのは初めてだったから私もついつい嬉しくなってしまい、くすぐりの力を強めたり、おへそに指を当てたりしていた。


「もう!! 音琶ちゃんは、本当に、本当に!!」


 顔を真っ赤にして笑顔をこぼしながら結羽歌が何かを言おうとしているから、一旦力を弱めて聞き出そうとした矢先、


「えい!!」


 今度は結羽歌が私に覆い被さり、私の服をめくって両手でお腹を鷲掴みにしてきた。

 結羽歌の冷たい手がお腹に触れ、途端に全身の力が抜けそうになる。


「うひゃっ!!」

「音琶ちゃんのお腹ぷにぷにだね、柔らかくて気持ちいいよ」

「それ気にしてるのに~! くすぐったいよ~!!」

「私だって、胸が小さいこととか、色々気にしてるんだよ」


 別に太ってるわけじゃないと思うけど、ここ数年外食ばかりだったから以前よりお腹に肉が乗ってるのだ。

 誰かに触られるのは初めてだったし、相手が結羽歌でも結構恥ずかしい。


「結羽歌~!! 仕返しだよ~!!」

「先にやってきたのは音琶ちゃんだよ!」


 そう言われたけど、私にはどうでもよかった。

 朝早くから結羽歌とこんなやり取りをしてしまって、凄い楽しかったんだから。

 

 ***


 金が無いから打ち上げには参加せずにそのまま帰ったけど、朝になってもライブのことが頭から離れなかった。


 正直鈴乃先輩のバンドは、もう見てられなかった。

 ギターソロは音の速さが合ってなくて焦りが出ていたし、バンド全体の音が喧嘩しているような感じだった。

 他のバンドの演奏が良かっただけに、鈴乃先輩達は悪い意味で目立ってしまったのである。

 改めてバンドをすることの難しさや、バンドマンとしての責任を考えさせられる日となったよ昨日は。


「何だかな......」


 勉強している間も、昼食を作っている間も、鈴乃先輩が心配になって仕方がなかった。

 ライブが終わった後もずっと落ち込んでいたし、沢山の人の前であんな演奏をしてしまったことに責任を感じていたんだろう。

 打ち上げの後、あの人達はそれぞれ何を思ったのか、次ライブするときはあんなことにならないように頑張って欲しい所である。


 部屋の時計は午後1時を指していた。

 今日もまた部室に行ってドラムやるとするか、ゴールデンウィークも今日で終わりな訳だし、明日からまた忙しくなるな。



 

「鈴乃先輩!?」


 部室に着くと鈴乃先輩が一人でギターを弾いている。

 フレーズからして昨日やってた曲だってことがすぐにわかった。


「あ、夏音君おつかれ」

「おつかれさまです」


 昨日の今日で顔を合わせ辛いけど、鈴乃先輩はいつも通りみたいで安心した。


「昨日はありがとうね、来てくれて」


 本当ならありがとうねの後に、おかげで頑張れた、みたいなこと言うんだろうけど、あの調子じゃそれすら言えないんだろうな。

 言葉使いだけで鈴乃先輩が相当悔しい想いをしたってことが伝わってきた。


「はい、いい経験になったと思います」


 こういうとき、何て言えばいいのか困るんだが。

 そして俺は、鈴乃先輩の次の言葉で自分の発言を深く後悔することになるのである。


「そうだよね、私たちみたいなの見てたら、ある意味いい経験になるよね......」


 どこか悲しそうに鈴乃先輩は返す。

 ふと、鈴乃先輩の目の周りが僅かに赤くなっているのが見えた。


「鈴乃先輩......」

「ごめんね、全部ちゃんとできなかった私が悪いの。だから今こうして練習して昨日の反省してたんだ」

「......」

「1年の時から、何も変われてないな私......。あれだけやっても駄目ってことは、全然頑張れてないからなんだろうな......」


 鈴乃先輩は去年からずっと辛い思いをしていて、サークルを良い方向に導くために足掻いてきたのだろう。

 そう思うと俺は今まで何をしてきた?

 確かに俺にも色々あった、改善の仕様がないことだって決めつけてたけど、もしかしたらその奥に光があったかもしれない。

 それなのに、ずっと逃げてきていたのだ。


「バンドメンバーとは、あの後しっかり話し合って頑張ろうってことになったんだ。具体的に何を頑張るかはそれぞれ個人で見つけてそれから全体で合わせる、ってね」

「あの、鈴乃先輩」

「ん、何?」

「鈴乃先輩なら絶対大丈夫です」

「そう......」


 言葉が見つからずそれしか言えなかったけど、鈴乃先輩はどう思っただろう。


 所詮その程度のことで変えられるほど世界は甘くないってことはよく分かってるけど、力になることくらいできたんじゃないかと深く思う。

 結局それ以上は何も言えず、鈴乃先輩が部室を出て行くまでの間、その場で立ち尽くすことしかできなかった。

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