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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第24章 お前の瞳に恋をする
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素直に、泣いても構わないから

 10月19日


「......?」


 次に意識が戻ったときは部屋の中だった。全身に温もりを感じ、布団の中にいるということが瞬時にわかる。


「......!」


 それと同時に何か柔らかいモノが俺の全身を包んでいる、ということも確認できた。それが何なのかはまだわからなかったが、いつもとは違う感触だということはわかる。

 一体何が俺の身体を包んでいるというのだろうか......?


「ちょ......!」


 少しずつ意識が鮮明になっていき、目が良く見えるようになってやっとその正体に気づく。えっとこれは......、


「音琶......、お前なんて格好をだな......」


 柔らかい温もりの正体、それは下着姿で眠る音琶だった。布団の中で俺を抱きしめながら寝息を立てて眠っている。

 昨日の打ち上げといい、色々疲れることがあったから眠りは深そうだが、起こした方がいいのだろうか。それともこのまま......、


 いやダメだ、俺が起きてしまってはこのままだと下心丸出しなのが音琶にバレてしまう。過去に2回一線を越えたとは言え、今は朝なのだしちゃんとした時間と環境を整えないといけない。

 何より今日もまたバイトがあるのだから。二日連続で入れたのは少しでもバイトでやるべきことを覚えるためだ、出勤前に愛の試し合いをする余裕なんてないはずなのだ。


「起きろよ、音琶」


 柔らかな音琶の素肌からゆっくり離れ、頬を軽く叩いたり肩を揺すったりして起こす。こうしたら音琶は起きるから同じ事を何度か繰り返し、奴の瞼が動くのを待つ。


「ん、夏音ぇ......」


 丸出しの腹と深くて丸い臍を上下に動かしながら音琶は目を擦り、可愛い声で俺の名前を呼ぶ。


「......起きたか?」


 俺の問いに音琶は寝ぼけ眼で答えようとするが、突然瞳を大きく見開いてこう言った。


「夏音! 大丈夫!? 生きてる!?」

「......」


 生きてるとは大袈裟な、とは思ったけど、今まで酒という液体を一切口にしようとしなかった俺がいきなり焼酎をストレートで一気飲みしたのだ。そんなの心配しない方がどうかしているよな。


「ね、ねえ!? 大丈夫だよね? ちゃんと呼吸出来てるよね!?」


 下着姿だというのに、必死で俺を呼び起こそうと真剣になってやがる。俺も色々やりすぎたよな、もっと大人になるべきだったというのに。


「大丈夫だ、音琶が思っているほど心配することではねえよ」

「本当!? 本当に本当の大丈夫なんだよね? 夏音は突然死んじゃったりしないよね!?」

「何言ってんだよ、音琶を置いて死ぬわけねえだろ」

「そっか、そうだよね。夏音は、私を置いたりなんかしないもんね......」


 息切れしている音琶が何を思ってこんなことを口走っているかはわからないが、俺の安否を心配してくれたことには感謝しておくか。


「なんか、すまんな。音琶との話を誰かにするのが少し恥ずかしくてだな......。だから俺が酒飲んで意識失ったら、誤魔化せると思ってだな」

「もう、誤魔化さなくていいんだよ。夏音がどれくらい私のこと大好きなのか言ってくれるだけですっごく嬉しいんだもん!」

「いや、そりゃ言いたいけど、俺も俺で色々理性ってものがだな......」

「そんなこと気にしない! 別に私と夏音だけの秘密の関係とかじゃないんだから! 堂々と胸を張って欲しいよ!」


 寝転びながら強い口調で俺に強い言葉を投げてくる音琶。下着姿であることを除けば感動的な場面だったかもしれない、それくらい音琶の言葉は本気度が伝わってきて、こっちまで感情的になって涙が出そうになってしまう。


 音琶の前で不覚にも涙を流したことは情けないと思いつつも、自分の感情と衝動に耐えられなくて、再び弱った姿を見せることになってしまった。


「そうだな、俺は別に、音琶との関係を、誰かに隠す必要なんて......」


 何でだよ、どうしてこんなに涙が止まらない。原因なんてわからないはずなのに、どうしてこんなにも......。


「うん、きっと夏音は、嬉しかったんだよね」


 柔らかな肌を寄せながら音琶は答えてくれる。子供のように泣きじゃくる俺を抱きながら、優しくて儚い姿を晒して支えてくれている。

 守られてばかりだけど、音琶を支えられているかどうかさえ分からなくなっている俺はこれから先どうやって生きていけばいいのだろうか。

 洋美さんには、早く結婚すればいいのにとさえ言われてしまった。正直な話、音琶とは結婚したいくらい一緒に居たい。だからこんな弱い姿を見せるのは抵抗がある。


「今まで辛かった分、あれだけいっぱいの人に求められて、嬉しくて泣きたくなってたんだもんね」


 音琶は泣いているのだろうか。そんなことも気に出来ないくらい俺は自分のことで精一杯だった。


「......そんなことより早く服着ろよ」


 自分のぐしゃぐしゃな顔のことなんて気にもせずに音琶の無防備な姿を心配する当たり、俺は何も変われていない。


「そういう夏音も、この涙に溢れた顔をどうにかしないとね」


 優しく微笑みながらベッドを降り、上着を手にしたらゆっくり振り返って音琶は言う。


「今日も一日忙しいんだから、そんな情けない顔したらお客さんに笑われちゃうよ?」


 恥ずかしがりながらも上着を羽織って本音を投げつける音琶。時間を見ればもうすぐ午後になろうとしていた。

 朝とは言ったけどももう少し時間を気にしておいた方が良かったな。


「ああ、わかってるよ。昨日やりきれなかったことを活かさないと、な......」

「泣きながら言っても説得力ないよ」

「そうだな......」


 鏡は見てないけども相当情けない顔をしているってことは分かる。だから俺も起き上がって洗面所に向かい、顔を洗って今日という日の為に準備を整えることにした。


 音琶だけでなく、音琶に関係する人達にもっと素直にならないとな。

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