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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第24章 お前の瞳に恋をする
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打上、音琶との関係の探り

 打ち上げの時間となり、酒は飲めないもののそれなりに美味い飯と恵まれた人員に囲まれて事が進んでいった。


「......なあ、ここっていつもこんな感じなのか......?」


 素朴な疑問を音琶に投げかけ、返答を待つ。当の音琶は境月の水割りを飲んでいるけど、特に酔っている感じはなかった。美味いのだろうか。


「こんな感じっていうのは、さっきみたいに新参の歓迎を積極的にしてるってことかな?」

「そうだけど」

「えっとね、これには深い伝統があったみたいで......」


 音琶が言い掛けた途端洋美さんが寄ってきて、口を開くと......、


「何なに? そんなにこのバイトのこと気に入ったの? それならもっともっと質問には答えてあげるよ?」


 持っているグラスに入っているのは普通の烏龍茶だよな? ウーロンハイとかではないよな?

 デフォで酔っているような人だから素面なのかどうなのかよくわからんけど、答えてあげると言ってくれてる以上上手く利用させてもらうからな。


「ここまでして新しく入ってきたバイトの奴らは、俺みたいに歓迎されてるんですね」

「勿論だよ、例え一日で辞められる定めだとしても、ここでバイトしようという意思があったこ達には最低限の歓迎をしておかないといけないからね」

「もし俺が今から辞めると言ってもですか?」

「そうだよ、とても夏音が辞めるとは思えないけどね」

「だったらどうしてここまで......」


 今まで誰かに求められることさえなかった俺だから、XYLO BOXというライブハウスでは当たり前のことでも俺にとっては貴重な経験だったと捉えてもいいだろう。

 確かに辞めるつもりはない、それでもこのライブハウスでの常識を知りたいという気持ちが強まっていたのは真実だ。


「あ、そうそう。滝上君と音琶の関係を私はもっと知りたいかな!」


 洋美さんの横から、今日一日色々教えてくれた先輩スタッフが割り込んできた。まだ話の途中なんですけど......?


「もう由芽(ゆめ)、私が話していたのに早まんないの! 二人の関係が気になるのは仕方ないことだけどさ!」

「すみませーん」


 由芽、と呼ばれた先輩は洋美さんに一言謝る。名前も知らないまま指導してもらったけど、最初の内に聞いておくべきだったな。


「まあいいけど。長い間音琶を世話している私からしたら夏音のような人が現れてくれて自分のことのように嬉しいし、二人には幸せになってもらいたいし」

「全く、何を言ってるんですか。俺らはまだ学生の内で色々やりたいことが......」


 そう言い掛けて、言葉が止まる。俺のやりたかったことって、何だったっけ。

 まるでここでバイトすることが必然だったかのような話の進み具合だが、俺は何かを間違ったわけではない。

 好きな人と共にやりたかったことが出来て、幸せな時間を共に過ごせていることを誇りに思うべきなのかもしれない。だけど、音琶はそれで満足してくれるのだろうか。


「そうだよ! 私と夏音は学生という貴重な時間を共にするためにやらなければいけないことを何一つ残さず乗り越えないといけないんだからね! 誰にも邪魔させないんだからね!」


 音琶が俺の腕を掴みながら答える。何度も触れ慣れた大きな胸が左腕に当たり、理性が保てなくなりそうなのだが。


「お前な......」

「お? 何か後ろめたいことでも?」

「別に......」


 まずいな、困ることはないかもしれないけど、俺は音琶との出会いを奇想天外なものと認識している。ものによっては誤解されかねないレベルに。


「そしたら、このおっぱい星人の話を聞いてあげるいい機会になるかもしれないね!」


 音琶よ、ここまで話を面倒な方向に持っていく必要がどこにあるというのだか。

 別に、俺と音琶の最初の出会いから今までの関係は隠すまでのことではないから、今更丁寧にここまでのことを言われても嫌な気持ちにはならないけどさ。


「ま、それぞれ酔った関係なんだから、面白い話聞けるかもね!」


 全く、ここまでして俺と音琶の出会いの話を聞きたいのかよ。こうなったら俺も少しは酒という液体を入れてこないといけないのかもしれないな。

 どうせ飲めないのだから、いっそのこと体内に取り込んで意識を失ってしまえばこの話はおじゃんとなる。


 音琶が飲んでいる焼酎を空のグラスに注ぎ、そのまま無言で飲み込む。

 幸い3人は下らない話に花を咲かせているから、次第に意識を失っていく俺に気づかないまま会話を続けているようだった。


 すまんな、あんまり恥ずかしい話は皆の前でしたくないんだよ。俺と音琶だけの、大切な思い出にしておきたいんだよ。


 次第に俺の意識は途切れていき、真っ暗な景色が拡がっていった。

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