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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第24章 お前の瞳に恋をする
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声出し、まずは大きく

 開店と同時に沢山の人が会場に入ってくる。こういった人達のほとんどが演者の身内同士であって、通りすがりが気まぐれにライブハウスに赴いたってことはまずないだろうな。

 いやでも、音琶は俺の高校最後のライブは通りすがりの客として参加したんだっけな、父親が出るライブに行く直前に。


「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませー!!」


 俺と同じ誘導係の先輩スタッフが続くが、声の大きさが全然違う。まずいな、夜勤で出していた時よりもずっと大きな声出さないといけないのかよ。


「ほら、滝上君声小さいよ? もっと元気にやらないとね」

「は、はい」


 この人も大学生なのだろうか、大都市ともなれば私立の大学だって沢山あるし、鳴大に限った話じゃないから誰がどこの大学に通っているかを覚えるのには時間が掛かりそうだ。


「い、いらっしゃいませ......」


 あ、ダメだこれ。人間観察くらいしか能が無かった俺がまともに大きな声が出せるかって話だろ。人の目を見て話すことは容易いが、この空間内に居る人全員に届く程度の声を出すのは難しい話だった。


「滝上君、もしかして人見知りだったりする?」

「いえ......、別に。あんまでかい声出す機会が無かったもんで......」

「12年も音楽やってたのに?」

「......」


 俺の境遇は少し複雑だから説明すると長くなるし、こういうときはどうやってやり過ごそうか......。

 別に人見知りとかコミュ障とかではないから、ちゃんと相手と会話を繋げることは出来ている。ただ大きな声が出せてないだけの話なのだ。

 第一俺はバンドを組んだ経験が年数の割に少ないのだ。


「まあ、あたしも始めたばっかの頃は全然だったし、まずは環境に慣れることからだね」

「そうですかね......」


 環境に慣れる......か。まだ初日とは言え今この瞬間から音楽に目覚めたわけでもないし、どっちかと言えば声くらいはちゃんと出せてないとダメなのだ。

 ここにきて社会経験の少なさが露呈してしまったな、勉強が出来ても道徳が成ってない典型的な例とも言えるだろう。


「お客さん全員入ったかな? 途中から来る人も居るから誘導係と見守り係に分かれるんだけど、どっちがいいとかあるかな? 今の滝上君の感じだったら、見守りの方が良さそうだけど......」

「それでお願いします」


 即答だった、この人は別に俺を傷つけるつもりはなかっただろうけど、結構胸の奥に来るモノがあったな。


「了解! って言っても何すればいいか分からないよね? マニュアルにも書いてはいるんだけど、簡単に言うとライブ中にお客さんが怪我とかしないように見ておく、ってところかな。お酒飲んでる人だっているから、ライブの空気に圧倒されて酔っ払っちゃったりするんだよ」

「はあ......」

「滝上君も経験あるかもしれないけど、特に人が多い時は息苦しくなったり、後ろに下がりたいって言う人も居るから、少しでも変な所あったら迅速に対応しないといけないからね」

「......わかりました」


 鳴フェスの時は人混みに押されて踏まれたし、普通に熱中症で倒れてる人も居たよな。あんな感じの人を引っ張り出して対処するって所か。


「ま、屋内だから鳴フェスほど忙しくはならないと思うけど、万一のことも考えていくんだよ。実はあたし、鳴フェスで単発バイトしたことあるんだ」

「なるほど......」


 丁度鳴フェスのこと考えてたからタイミングが絶妙だったな、懐かしくて忘れられない思い出だけに少し鼓動が早くなるのを感じた。


「私からは以上! そしたら見守り係よろしくね」

「はい」


 もうすぐ開演の時間になろうとしている。説明が終わったから会場の後ろに立ち、周りの客共がどんな奴らなのかを観察する。

 相変わらず老若男女関係ないな、って思っても演者だって年齢バラバラだから当たり前だよな。いつかは軽音部の奴らがここでライブするところをスタッフとして見ておかないといけないのか。何か複雑だが、もしかしたら響先輩も来てくれるかもしれないし、その時は簡単に挨拶しておこう。


 早くも課題が見つかってしまったが、今は仕事に集中しないといけないな。とは思っても割と雑用に近い作業だった、しっかりはするけど少し物足りなさも感じていた。

 人前でまともに声も出せなかった奴が何を思ってるのかって話だけど。

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