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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第24章 お前の瞳に恋をする
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オーナー、彼女はどんな人


「なあ音琶......」

「ん、どうしたの?」


 音琶にとってはさっきのが当たり前なのかもしれないけど、俺からしたらとても考えられない光景だった。

 いや、もしかしたらサークルのうざったい雰囲気に囚われておかしくなっていただけなのかもしれない。労働する場所があんなにもフリーダムな感じでいいのだろうかという疑問が湧いていたのは事実だけども。


「ここ、いつもあんな感じなのか?」

「うん。そうだよ」

「即答かよ......」


 なるほどね、確かにライブハウスの雰囲気も大事だが、洋美さんの適当な感じと社会常識のバランスを上手く保ちながら成り立っているってことでいいのだろうか。

 まだ初日とは言え、いや初日だからか? 頭が全く追いついてない。洋美さんのことだから割かし自由な現場だとは思っていたが、想像以上の環境だったな。


「それとだな、ファンクラブって何だよ。お前俺の見てない所で良からぬことしてないだろうな?」

「してないよ! あくまでバイトの範疇だから!」

「ならいいけど。あれか、接客の対応がどうとかのアンケートみたいなの取ってて、集計結果が良い奴がもてはやされてるみたいな感じか?」

「う~ん、それとはまた違う感じかな」

「どういうシステムなんだよここ......」


 聞いても俺の求めていた答えとは違うものが返ってくる。今まで客としてしか来てなかったから、働く側がどんな立場になっているかを深く理解していなかった。

 もしかしたら今以上に奇想天外な展開が待っていてもおかしくないかもな。


「夏音、簡単に今日のこと説明するからこっち来てもらえる?」


 音琶から色々聞こうとしたのに、戦犯である洋美さんに呼び止められたから控え室まで向かうことになった。

 帰ってからでも聞けるからいいか、取りあえず最低限覚えなければいけないことを頭の中にたたき込んでおかないとな。

 音琶に一言声を掛けてから控え室に向かい、大事な話になるだろうからある程度畏まったような態度を見せ、中に入る。


「採用とは言ったけど、履歴書ちゃんと持ってきたよね?」

「持ってきましたけど......、本当なら面接の時に渡すものですよね?」

「ここの管理者は私なんだから細かいことは気にしない!」

「えぇ......」


 本当にいいのかよこの会社、バイト雇っているとは言えちゃんとしたライブ会場なのだからしっかりしてないと今後何が起こるかも予測できない。


「ふむふむ、音琶と同じ誕生日っと」

「たまたまですよ、あいつには言ってませんけど」

「そうだね、同じ誕生日の人はこの世界に五万と居るから特に気にすることではないか。それで、動機が音琶から紹介されたから、ね」

「それくらいしか無かったんですよ、確かに自分の生活が大事なのもありますけどね」

「いやいや、私が言いたかったのはそこじゃないよ。音琶も似たようなこと書いてたからね。3年前に」

「......?」


 待てよ、やっぱり音琶は誰かから紹介されてここでバイトしていたってことになるよな。だとしたら誰だ? 当時のクラスメイトって可能性もあるけど、音琶の身の回りの人のことは知らないし、鳴成市出身だとしたら知り合いに会っている素振りだって見せるだろう。

 それが全くないことを不自然に感じるのは、単なる思い過ごしで済まされることなのだろうか。


「おっと、あんまり人の個人情報に付け入ることを言っては私の首が怪しくなるから控えないと。まああんたと音琶はよく似ているってことだよ」

「はあ......」


 俺と音琶が似ている......? 冗談も大概にしろって話だが、似たもの同士だからここまで分かり合えたのかもしれないって思うと否定しようにも出来なかった。


「幸せにしてやんなよ、音琶のこと」

「言われなくてもわかってますよ」

「なら良し! 一応簡単に機材のこととかマニュアルに書いてあるから、最初の間はこれ見ながらやってていいからね。夏音には必要ないくらいかもしれないけど」

「いえ、初めての現場はこういったものがないと大変なので、助かります」

「素直でよろしい」


 洋美さんからXYLO BOXにおいての簡単なマニュアルを受け取り、パラパラと紙をめくりながら目を通す。

 紙で纏められたマニュアルを見ると、どうもサークルの掟を思い出し兼ねないが、あっちよりもずっと具体的且つ簡潔に纏められていて、頁数もそこまで多くない。

 ライブハウス上でのマナーも勿論書かれていたが、どれもこれも納得出来る内容しかなくて、サークルの下らない掟とは雲泥の差だった。


「......どうしてここまで出来なかったんだろうな」


 思っていたことが口に出てしまう。ライブハウスの常識なら、丸パクとまでは行かなくてもこれくらいの容量で纏められたはずだし、酒を飲んだとしても限度くらいはきっと考えられたはずなのだ。

 こういった現場に遭遇してしまったら尚のこと、サークルそのものを一から変えていかないといけないって思ってしまう。

 大切な人を守るためにも、な。


「それと、これが制服ね。身長177cmだから、サイズ的にはこれがいいかな?」


 ポリ袋に包まれた制服を取り出しながら俺に見せつける洋美さん。働くのに必要な制服が手元に置かれた。

 袖を通してみると丁度良いサイズであることが窺えた。試しに数歩歩いてみても問題ない。


「これで大丈夫です」

「そしたら、これからはこの服を着て作業してもらうからね。それと今日なんだけど、いきなりPAとかは大変だとは思うからお客さんの誘導お願いするから!」


 流石に大きな作業は出来ないか。でもライブの最低限のマナーは理解しているつもりだから、上手くは出来るはずだ。


「今日からこれからよろしくね!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 波乱の幕開けとも言うが、俺にとっての貴重な時間が始まろうとしていた。

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