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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第24章 お前の瞳に恋をする
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波乱、新しいバイト先

 大学生になってから二度目のバイト、今回は前よりも長く、出来れば卒業するまで続けていきたい。


 そう思って俺は立ち止まる。これから待っている音琶との時間は本当に続いてくれるのだろうか、そもそも俺は卒業した後何がしたいのか、自分の目的も定まらないまま大学に入学して半年が過ぎている。

 ネガティブな思考に囚われて頭の中で黒い何かが蠢いている、音琶が正面に立って屈みながら俺の顔色を窺っているが、どうしてか音琶の目を見ることが出来ない。


「夏音、大丈夫? 頭痛いの?」

「いや、別に......」

「顔色は悪くないけど、朝から歩き回ったから疲れちゃったのかな? これからバイト、出来そう?」

「......心配するな、それくらい朝飯前だ」

「そっか、でも無理はしちゃダメだよ!」


 久しぶりの外食を済ませて上機嫌な音琶だったが、ふとしたことを考えてしまった俺は不安定だった。感情の起伏が激しい音琶だって俺の前で弱音を吐いたり泣いたりするが、顔に出してないだけで今の俺は音琶が今まで抱いていた感情と似たものを持っているのかもしれない。


 にしても、まだ1年生だというのに卒業だとか将来のことを考えてしまうのはどうしてなのだろうか。いや確かに、大学の卒業は学生のゴールに相当するのだし、就職なんかしたら今とはかけ離れすぎた生活にだってなるかもしれない。

 今よりも多忙で辛い生活になんかなったとしたら、音琶との日々もいつかは終わってしまうのではないか、とさえ考えてしまっていた。


「......?」


 バスに乗ってからも音琶が上目遣いで頭に疑問符を浮かべたような顔をしていたが、敢えて気づいてない振りをして周りの景色を見ていた。


 何故こんなことを考えてしまったのかは、これから起こり得る音琶との日々への胸騒ぎが原因だってことはわかっていたはずなんだよな。

 なのに認めたくなかったのだ、音琶が告げる真実は何かの間違いで、これから先もずっと、音琶は俺の隣に付いていて、決して離れることのないかけがえのない大切な人以外の何物でもないことが、永遠には続かないってことを。


 もう、1ヶ月半しかないんだよな、平和ボケしていられるのも。


 ・・・・・・・・・


 気持ちは切り替えられているはずだ、先週以来のライブハウスは今日から俺のバイト先に生まれ変わると言ったら大袈裟だが、部活ではない以上社会のルールを最低限守って挑まないといけない。

 理不尽や上の圧力を嫌う俺が、コンビニよりもずっと難しい作業の多い場所で上手くやっていけるだろうか、ただでさえサークルでは厄介者扱いされているというのに、ここに来る客は酒癖の悪い面倒な奴らばかりだったら続くかも怪しい。

 ましてやオーナーは面接を簡易方式で片付けやがるし、甘いのか厳しいのかよく分からない人なのだ。


「はあ......」

「夏音、また自分から幸せ逃がしてる」

「もう逃げないから心配いらねえよ」


 重い足取りで中に入り、洋美さんの姿が最初に見えたので挨拶をする。


「おはようございます」

「おはようございます!」


 音琶も俺に続く。元気の良い声が会場内に大きく響いていた。

 すると音琶の声に気づいた他のスタッフも顔を出し、初物の俺に驚きつつも挨拶を交わしていく。中には高校生も居るだとか。


「滝上夏音です、鳴大の軽音部所属で、それよりも前から12年間音楽に触れてきました。よろしくお願いします」


 簡単に自分のことを言った瞬間、周りのスタッフ......と言うよりもこれから共に働く仲間が詰め寄ってきて......、


「楽器は何やってるんですか!?」

「音楽の知識って、具体的に言うと?」

「滝上センパイって呼んでもいいですか? 私実はまだまだわからないこと多くて!」

「12年ってスゴイ!」


 圧倒的に男より女の方が多くて、どう見ても高校生くらいの年齢の奴も居たからここの年齢層は割と低めなのだな。にしても12年って言葉はここまでこいつらに関心を与えるものなのだろうか。


「む~~!」


 後ろで音琶が腕を組んで機嫌を悪くしてやがる......。自分の彼氏が女の子に囲まれている様は奴から嫉妬を産むだけだったか。


「えっとだな、洋美さんも何とかして......っていねえし。とにかくみんな落ち着いて下さいよ、話なら後からでもこれからでも出来ますし、まだここの機材の勝手とかよく分かってないですし」


 てか普通、出勤前に簡単な説明と研修ってものがあるはずだよな? 結羽歌の時はあったって聞いたけども。

 まさか経験が長い俺なら大丈夫、みたいなこと考えてないよな? 事前連絡は『音琶と一緒に来てね!』くらいだし、音琶も時間を間違えてなさそうだし。


「そうだよ! 夏音はこれから私が手取り足取り教えるんだから! 君たちには渡さないよ! 私の夏音なんだから!」


 おいこの野郎、何でまたそうやって面倒になりそうなことを言い出すんだお前は。


「「「............」」」


 一瞬の沈黙の後......、


「「「えええーーーーーーーーっっっっ!!!」」」


 会場内が騒然となった。

 てか今までこいつらに付き合ってること話してなかったんだな。

 いやそれはさておき、何かもう......、さっきまで悩んでたこともどうでも良くなってきたな。



「夏音が入ったことでここの活気も良くなりそうだね」



 控え室の陰から洋美さんが呟いていたけど、全部聞こえてんだからな。


「音琶ちゃん、彼氏さん居たの!?」

「知らなかった! お客さん達には言ってないんだよね?」

「音琶のファンクラブどうするの?」

「これ結構大ニュースなんだけど!?」


 ん......? 何か良からぬ現場に遭遇してしまったような......?

 ファンクラブ? 大ニュース? さて何のことやら。


 どうやら新しいバイト先は波乱の連続になりそうだ、でもまあ楽しく無さそうではないかもな。


 洋美さんの人格が全てを物語っているってことを再度認識させられるいい機会にもなったよ。

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