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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第24章 お前の瞳に恋をする
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将来、考えたこともないこと

 10月17日


「......というわけで、ポスターはこの案で行こうと思います。明日から構内中に貼っていきます」

「......」


 部会終了直後、俺は音琶と共に部長に完成したポスターのイラストのデータを見せていた。印刷はまだこれからだが、ノートパソコンの中に入っているデータを自分のスマホに取り込んだものを見せる形になっている。

 直接送ることも出来たが、部長のスマホにデータが残るのは癪だったからしていない。


「......可能なら大学の近くにある店とかにでも行って宣伝してこい。他のサークルだってやってることだからな」

「はあ......」

「イラストはこれでいい、あとは刷れるだけ刷ってこい。図書館行けば出来るだろ?」

「出来ます」

「そしたら明日の13時、部室に来てもらって俺が宣伝のやり方とかを......」

「あー、その時間は無理ですよ」

「......何故だ」

「俺、XYLOでバイト始めたんで。それより前の時間なら出来ますけど、ライブハウス関連のバイトならこういう用事は休めるんですよね?」

「......」


 そもそもバイトのシフトを決めたのはこっちが先なのだし、ポスター貼りに行く話はたった今持ちかけられた話だ。だったらこっちに非はないよな。


「そう書いてはいるが、イベントが近いってことを意識しての上でバイトはしろって意味だったんだけどな」

「そんなこと書いてなかったんですけどね」

「あのさあ......」


 呆れ顔の部長だが、俺には奴の考えていることの意図が理解出来ない。大体そんなの明後日でも出来ることだし、明日だって午前中にやればいいことだろ。

 まさか、朝までコースだからとかいう理由で午前中に起きれる自信がないとかじゃないよな? 遅刻厳禁とかほざいている奴が今更時間の管理も出来ないとかじゃないよな?


「今まで何回お前らに目を瞑ってやったかわかってんのか?」

「俺、部長に守られた覚えは無いんですけど」

「はあ......。どうしてお前らはこうなのかね......」


 お前ら、ね。

 まるで俺や音琶、結羽歌や琴実が考えていることが見透かされている感じがするけど、今まで一切話題にしなかった分こっちにもまだ行動できる権利が与えられてるってことか。

 さっきから音琶がずっと心配そうに俺を見つめているけど、音琶の為にも度を超した言い合いはしたくないから何とかして抑えないとな。


「何か問題ありましたか?」

「......問題って......、まあいい。お前らが明日の午前中に取りあえずポスター100枚刷っておいて、最低でも30枚構内に貼っておけばいいか。ただし俺は明日サポートしないからなそれでいいならバイト行ってもいい。勿論ちゃんとした宣伝してもらう為に確認レポート書いてもらうからな」

「......」


 2人だけで宣伝するのが許される代わりに確認レポートって何だよ......。あれか、ポケモンのレポートみたいに自分のやってきたこと纏めてこいってか?

 どうしてこうもいちいち部員の行動を確認されないといけないんだよ全く。


「最低限レポートに書いてもらうことは、何時にどこに貼ったか、何枚使ったか、構外の場合は許可されなかった所とされた所のメモ、っていった所だ。大学構内周辺の地図を使っても構わない」

「......わかりました」


 完全に納得したわけではないが、少なくとも自分の身は再び守られたってことか。

 すっかり部室には俺と音琶と部長だけが取り残されていて、これから起こり得る地獄には遅れて参加することになりそうだった。


 ・・・・・・・・・


「へえ~、あんたそんな恥ずかしいポスター作ってたんだ~」

「うるせえな」

「またまた、照れなくていいんだから~」


 今回はまだ出禁になってない居酒屋での飲み会、運良く(?)琴実と隣の席になり、ポスターについて色々聞かれる羽目になった。


「まあ、少しは音琶を意識した」

「このイラストで少し、なんて言っても説得力ないわよ」

「いや、ないわけねえだろ」

「顔色と言ってることが合ってないわよ」

「......」


 当の音琶は俺より遠い席に座って杏兵先輩と話している。組んでるバンドのことで色々言いたいことがあるのかもしれないな、だってあの人大して上手くないし。


「今だって音琶のことチラ見したじゃない、本当に早く結婚すればいいのに」

「け、結婚だぁ!?」

「ちょ......、何いきなり大きい声出してんのよ。酔ってるの?」

「酔ってねえけど......」


 いきなり何言ってんだよこの女、結婚って......。相当酔ってるのはわかるけど、使う言葉を考えろって話だよな。


 いやでもな、音琶とは正直言って結婚したい。一緒に暮らせばより一層楽しい生活になるだろうし、仮にメジャーデビュー出来たら夫婦でバンド組むことになって、色んな世界を共に旅することになるよな。

 願ってもない話だが、音琶はどう思うのだろうか。第一俺は音琶の家族に一度も会ったことが無いし、俺だって家族に音琶を紹介したこともない。

 そもそも本当の家族が誰だか分からない以上、心の準備が出来てないこともあるし、言葉で言い表すのも難しい蟠りに苛まれていて、自分の将来を考える余裕すら俺には与えられていない。

 音琶がどういった将来を考えているのかすら聞いたことないしな。


「何鼻の下伸ばしてんのよ、マジきもいんだけど」

「の、伸ばしてねえよ!」


 伸ばしてない、断じて伸ばしてないはずだ、多分。


「まあでも、羨ましいわよ、あんた達の関係」

「羨ましいって何だよ」


 焼酎のロックを少しずつ飲みながら琴実は答える。バイトの経験も活かされてか、こいつ酒の知識結構あるよな。


「私には程遠い理想だってことよ」

「......?」


 どういう意味なのかは分からなかったが、これも全て学祭当日に明らかになることだった。

 琴実の過去だけでなく、音琶の昔話も学祭という一大イベントによって触れられることになるなんて、想定すらしていなかった。


 そもそも学祭っていうのは、学生だけでなく色々な人が訪れる場所なのだ。

 それなら、高校時代やそれ以前のクラスメイトが来てもおかしくないよな?

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