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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第24章 お前の瞳に恋をする
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盛話、取り返しの付く内に


「明日授業なので、今日はもう上がらせてもらいます」


 ライブも片付けも終わり、洋美さんが打ち上げの合図を出したけど、事情を言ってそのまま帰ることにした。


「うん、お疲れ様。今日もありがとうね」


 一礼して、夏音と結羽歌と共にライブハウスを後にする。すっかり肌寒くなった外の空気に一瞬怯みながらも3人でバス停に向かい、バスの到着を待った。


「打ち上げ、参加しなくて良かったのかよ」

「明日授業なんだから、当たり前じゃん」


 来週から夏音とも一緒に働くことになる。なのにこんなに胸騒ぎが止まらないのは、私の過去に触れられることに恐怖を感じているから。

 楽しみな気持ちがあることに間違いはないのに、素直に現実を受け入れることが出来ていない。今までどうやって夏音と時間を共にしていたのか、見えなくなりそうになっている自分が情けないよ......。


「そ、それに......。夏音を残して一人で帰らせるのは、可哀相だもん」

「孤独には慣れてるって言ったはずだけどな」

「そうだけど......」

「......お前は楽しみじゃないのかよ」

「何が......」


 夏音の声のトーンはいつも通りで、私に嫌悪感を抱いている感じは全く無い。だから私だっていつも通りにしていいはずなのに、今はどうしてか出来ない。


「俺と一緒にバイトすることが。お前だって俺が夜勤言っている間、寂しくて泣いてたんじゃないのか?」

「それは......」


 えっと、泣いてはいないけど、寂しいって思ってはいたよ。でも大抵夏音が夜勤の日は私もバイトしていたし、休みの日が寂しさを紛らわすためにGothic行ったりしてたけど......。

 こういう時って、何て答えたらいいんだろうね?


「なんだよ、泣いてないのかよ。音琶の間抜けな泣き顔想像出来ると思ったのに」

「な......、泣いてないもん! お留守番なんて、全然平気だもん!」

「......小学生かよ」


 平気のはずだもん。だって、ずっと一人で暗い部屋の中に籠もっていたんだもん。

 和兄が大学行っている間も、和兄が居なくなってからも、何とかして一人で頑張ってきたんだもん。


 私の心は、小学生よりも弱くて脆いってことくらい、分かっているから......。


「もう、夏音君......。あんまり、音琶ちゃんのこと、いじめちゃダメだよ?」

「いじめてなんかいねえよ」


 結羽歌が夏音を止めに入るけど、大丈夫だよ。心配しなくても、いいよ。


「でも......」

「大丈夫だよ結羽歌、こんなのいつものことなんだからさ!」

「そ、そうなの......?」

「うん! 大丈夫だから、今日のバンドで何が良かったか言い合いっこしようよ!」

「なんか......、楽しそうだね......! 私はあの中だったら......」


 初心者だった結羽歌も今となっては音楽の知識が経験者のものになっていて、きっと私の見ていない所でもベースの腕を上げているんだなって、話を拡げていく内に思ってしまった。

 3年間ギターを弾いてきた身としては、負けられないよ!


 ・・・・・・・・・


「本当に、採用でいいんだよな?」

「えっ?」

「あんなの面接って言わねえし、大体バイトなんてそんな甘いもんじゃないだろ。雇う側があんな適当でいいのかよ」

「うーん、えっとね......?」


 寝る直前、ベッドに入ろうとしたら夏音に問いかけられる。

 やっぱり変だよねあの人......。一度ちゃんとした面接を受けていたはずの夏音からしたら即採用なんて考えられないはずなんだけど、洋美さんって音楽経験者はすぐに雇うスタイルなんだよね......。

 勿論経験が皆無の人には面接しているんだけど、基本ライブハウスでバイトしたいって言う人の大半は実際にライブに出たことある人だったり、何かしらで音楽に縁がある人だから、まずもってXYLOで不採用が出たってことはない。

 結羽歌はベース弾き始めて1ヶ月経ってない時期から入ったこともあって、形式上の面接はあったみたいなんだけど基本簡単な話をするだけで、特に難しい質問もなく採用だったって聞いたしね。

 だから12年もドラムやってた夏音を即採用しないわけがないんだよ。


 それに、洋美さんが夏音を採用しないなんて、有り得ない話だと思うよ。少なくとも私は、そう思ってる。


 最後のはともかく、洋美さんがどんな人なのかを簡単に説明した。


「正気かよ......」


 説明しても納得出来ないのは仕方ないとは思うけどね。


「正気だよ。それに!」

「今度は何だよ」

「まずはバイトを紹介した、この私に感謝の気持ちを忘れないことだよ!」

「......」


 あれだけ悩んでたんだもん、新しくバイト出来る場所が見つかって、嬉しくないはずがないよね。早く来週になって欲しいよ?


「......まあ、有難いとは思ってるよ」

「夏音......」


 目線を下に逸らしながら、私に正直な返事をする夏音。また顔赤くなってるよ、素直じゃないのは呆れるくらい相変わらずだな......。


「いいから早く寝るぞ。明日も早いんだからよ」

「うん!」


 慌てた感じで私より先に布団に潜り込み、背中を向けて夏音はすぐに眠ってしまった。


「もう......」


 ある程度話は盛ったけど、これでもう同じ事聞かれるなんてことはないよね?


 だけど私、夏音にまた嘘吐いちゃったよ......。

 取り返し付かないことにならないように気をつけないといけないのに、このままじゃ2ヶ月も持たないかもしれないよ......。

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