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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第24章 お前の瞳に恋をする
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美味話、次のバイト先

 幸いまだ午後にはなっていなかった。

 身体を起こすと隣には音琶が眠っている。どうやら俺が寝た後に帰ってきたらしい。


「.........」


 興味本位とは言え、そっと奴の右頬に手を添えると、甘い香りが漂っていて、すべすべすた肌の質感が伝わってきた。

 汗一つ無いな、もうシャワーは浴びていたのだろうか。


「起きろ」

「んぅ~」


 最後の出勤日、まさかあんな時間帯からあの3人が来てくれるとは思っても無かったから少し動揺していた。たまに同じクラス(と言っても顔を知っているくらい、名前は知らない)の奴が来ることもあったが、音琶や結羽歌のように親しい関係の奴が来たのは最初で最後だった。

 こういうときはどうやって接すればいいのか分からず、ただ戸惑うだけの俺だったが、音琶が恥ずかしがりながらも励ましてくれた。

 それからは響先輩からも背中を押されたりして、最後の労働を終えたというわけだ。


 こうして一つのゴールに辿り着いたが、また新たな捜し物の始まりでもあった。

 次はもっと自分にとって苦にならないバイトを探さなくては。


「あれ? 夏音、おはよ」

「ああ、お前今日バイトだろ、早くしねえと遅刻だぞ」

「うん、早く、ご飯食べないとね」

「飯のことしか頭にねえのかよ......」


 バイトよりも食を優先する音琶に呆れつつも、早々と着替えて昼食の準備をする。シャワーは出勤前に浴びていたけど、音琶がバイト行ったタイミングにもう一度浴びるとするか。

 重い足取りで冷蔵庫を覗き、数少ない食材で何とか飯を作り出す。当の音琶はテレビなんか付けて寛いでいるが、お前昨日の夜は遊んでいたんだろ? 少しは手伝えよ。


「お前、手伝わなかったら今日の昼飯はもやしだけな」

「ええっ!?」

「働かざる者食うべからず、って言葉があってだな」

「バイト辞めたニートが何か言ってるな~」

「学生だからニートもクソもねえだろ、バイトしてない奴だって中には居るはずだし」

「もう、わかったよ。手伝うよ」

「そこは素直なんだな......」


 そんなにもやしだけなのが嫌なのかよ、いいだろ安いんだから。


 ・・・・・・・・・


 向かい合って食べる飯、それがどれだけ尊い時間なのか俺には理解出来ている。

 実家は共働きで、帰りがいつも遅かったし、一人っ子であるのにも関わらず、保護者は毎日毎日忙しそうにしていた。

 だから飯も、他の家事も、学校から帰ったら俺がほとんど一人でこなしていた。それが終わったら勉強とドラムの練習、まともに人付き合いがないから孤独になってもおかしくないし、ノリが悪い奴って思われるのも無理はなかったのかもしれない。


 環境が変わると、人生ってものも変わることがあるんだな。


「ねえ、次は何のバイトするか決めてるの?」

「いや、まだだけど」

「来月までには決めておかないと生活苦しくなっちゃうよね、一応私も頑張って貯金しているけど、二人で暮らしていく以上どうにかしないと、私だけじゃとても......」

「そんなの分かってる、女に金を任せるわけにもいかないしな」

「へえ、夏音にしては素直だね」

「危機的状況なんだから当然だろ」



 人間が生きていくのに一番大切なものは何か。


 その問いには正解は無い、と俺は思う。その時の状況によって色々変わっていくだろうし、いくら候補があっても順位を付けるのは非常に難しい。

 どうせなら、思い浮かんだものを全て同率一位にしたほうが懸命だろう。


「ねえ、掟に書いてあったことなんだけどさ......」

「ん?」


 上目遣いで音琶が言い、部屋の隅に置いてある鞄から掟を取り出した。相変わらず鬱陶しいくらい分厚い紙切れだよな、こんなもの10ページも要らないだろうに。


「ここ、見て」


 該当するページを開き、人差し指で行をなぞる音琶。そこに書かれていたのは......、



 ・ライブハウスやイベント関係の単発バイト、又はライブをみにいく等、サークルに関係する用事がある場合は部会や行事を欠席しても良い(サークルを優先してもらう場合もある)。その際は部長と相談すること。



 成程ね、あくまでサークルでやっていることの勉強にもなるから、例えサークル内で何かあってもそっちを優先していいってことか。

 以前掟を読み返した時に見たことあった気もするが、物量が多すぎるせいですっかり忘れていた。


 ってか初めてXYLOに行った時は結羽歌の初出勤の日......、だったか? その時は鈴乃先輩が出演するからってことでサークル内でみにいったけど、あの時結羽歌は部長に相談したってことになるよな。

 だったら俺もXYLOでバイトした方が、まだ今よりサークルに縛られる心配が薄くなるよな? なるべく空いてる日にシフト入れるように心がけはするけどさ。


「だからさ、もし良かったらでいいんだけど、私と一緒に、バイトしない......?」

「......」


 これは俺にとってのメリットになるのだろうか、もう少し考えてから実行した方がいい気もするが、何せ金が掛かっているのなら今すぐにでも電話掛けて面接の日程決めてもらっても......。


「......そうだな、折角音琶が誘ってくれたんだから、な」


 思わずテレビの方に視線を逸らしたが、ここで躊躇っていたらいつまでも進展がないままだったかもしれない。だったら早めの決断を音琶に告げてやるよ。


「やった! 夏音と一緒に働けるなんて嬉しいよ!」

「まだ面接あるけどな」

「夏音なら大丈夫! 絶対受かるよ!」

「その自信はどこから来るのだか」

「取りあえず、今日洋美さんに夏音のこと、伝えておくからね!」

「いや、待て」

「ん?」


 箸を進める音琶を一旦止める。


「俺も今日XYLOに行く。その方が効率良いだろ」

「行った所で今日は面接してもらえないけど、どうしても行きたいんだったら、行ってもいいよ」

「結構な頻度で行ってるはずなんだけどな」


 照れ隠し......か?

 何か言ってることと表情が一致してない気がするのだが。


 まあいい、取りあえず金の心配はしなくて良さそうだ。音琶が居なかったらこんな美味い話、見つけられなかったかもしれないしな。

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