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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第23章 掟を変えるその日まで
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掻消、歌声で聞こえなかった会話

 グラスに氷を入れ、頼まれた飲み物の原液を注ぎ、炭酸で割る。

 もう慣れ果ててしまった基本作業だけど、久しぶりに会う結羽歌の前だと緊張して手が震えていた。


「ほら二人とも、ゆずサワーと青りんごサワーよ」

「ありがと!」

「あ、ありがとね」


 元気よくグラスを受け取る音琶と遠慮気味にグラスを受け取る結羽歌、あまりにも正反対すぎる反応で少しやりにくいのだけど......。

 いえ、元はと言えば私が結羽歌に変に気を遣いすぎたからこうなっているのであって、完全に自業自得なのよね。


「ほら、デンモクとマイクあげるから、好きなだけ歌っときなさい。もう10曲くらい予約入ってるけど」

「う、うん......」


 今度は二人にではなく、結羽歌にだけ言った。静かなこだけど、本気を出すと別人のようになるんだし、歌だって上手い。

 あんたの本心だとか、考えていることなんてとうの昔に分かっているはずなのよ。


「その、琴実......ちゃん」


 曲を選びながら結羽歌が私に問いかける。音琶は空気を読んだのか、目の前のサワーに夢中で会話に入ろうとしてこない。


「お、怒って......る?」

「な、何のことかしら......。別に結羽歌に何かされたわけでもないし、特にそんなこと......」


 別に、結羽歌が辞めたことに怒ったりはしてない。共に競える人が居なくなったのは残念だけど、そうなったのは私ににも原因があるんだし、結羽歌を責める権利なんて私には無い。

 第一、高校時代に一度拗れた時も私は自分のことしか考えていなかった。私の隣には結羽歌しか居なくて、他の誰もが私を遠ざけていたというのに、隣に居てくれることの有り難みすら感じ取っていなかった。


「私......、琴実ちゃんが心配してくれたのに、自分の抱えていたことで精一杯で、強がってあんなこと言っちゃって......」


 泣いてはいなかった。 

 結羽歌はいつも、辛いことがあるとすぐに泣いてしまうか弱い女の子だった。

 だけど、今はそうじゃない。自分の言わなければいけないことにケジメを付けているんだ。


「辛いのは、私だけじゃないのに......。一人で勝手に逃げ出しちゃって......、まだまだやらなければいけないこと沢山あったのに、実羽歌とも約束したのに、目の前のことしか考えれなくて、みんなの前から居なくなるなんてこと、薄情だよね......」

「結羽歌......」


 逃げ出したいって思ったことは私もある。現在進行形で思っているけど、信じられる仲間が居るから続けられる。

 結羽歌にも、信じられる仲間が居るけど、その中でも一番大切なのは......。


「一番近くに居た琴実ちゃんの前で弱いとこ見せたくなくて......、それで......」

「......もういいわよ」

「......」


 音琶も無言でグラスを置き、結羽歌を心配するように見つめている。


「高校の時だって、浮いてた私に真っ先に話しかけてくれて......」

「そ、その話はいいわよ。恥ずかしい......」


 音琶も居るんだし、あんまり昔話をここでするのもね......。誰にも言いふらさないって約束出来るんなら、別にここで話してもいいんだけどね!


「いいじゃん、別に。結羽歌と琴実にとって忘れられない出来事だったんだよね?」


 黙っていることに我慢出来なくなったのか、音琶も会話に混ざる。二人きりで話すよりも、こういう少し破天荒でアホな人が混ざるとシリアス成分が薄れるかもしれないし、良いわよね?

 奥の方で有名な歌謡曲歌っている年配のおじさんが居るけど、特に気にもせず私達は続けた。


「う、うん。最初は一緒に勉強教え合う中だったんだけど、いつの間にかそれがきっかけで実羽歌とも一緒に遊ぶようになって......」

「そう言えば、そんな感じの話だったよね」

「うん、ここまで仲良くしてくれる人に出会えたのは、琴実ちゃんが初めてだったから、凄い嬉しかったんだ。びっくりもしたけどね」

「も、もう。私はあんたに何もしてあげれてないわよ」

「そんなことないよ」

「そんなことあるの!」


 カラオケの音で私の声が他の人からはかき消されていたから良かったけど、結構大きな声出てたわよね?


「すみませ~ん!」


 歌っているおじさんの席に座っている団体のお客さんが、こっちに向かって手を振ってきたから一旦話を中断させ、ドリンクの注文を受けに席へと向かった。


 ・・・・・・・・・


 大体1時間くらい経ったかしらね、ようやく順番が廻ってきてマイク片手に歌い出す結羽歌。相変わらず上手いわよね......。


「それで、音琶は昨日の飲み会のこと覚えててくれてたのね」

「うん、夏音は今日最後の夜勤頑張ってる所だから部屋に私一人だし、誰かに会いたいな、って思ってたんだ」

「結羽歌も誘ったのね」

「うん。でもね......」


 音琶は一度結羽歌に視線を向けた後、右手で口元を覆いながら私の耳元でこう囁いた。


「数日前からずっと、ここ来てたみたいだよ。琴実に会いたくて、ね」

「えっ......!?」


 音琶から衝撃の真実を聞いた私は、戸惑いながら一瞬歌っている結羽歌の方を見る。そしてすぐに音琶に視線を戻し......、


「どういうことよそれ!?」

「LINE送るのが恥ずかしくて、直接会いに行くにはこうするしかないって」

「全くもう......」


 本当にお馬鹿さんなんだから、別に喧嘩中でもあんたからLINE来て無視することなんてまずないわよ。だけど、なんか凄く嬉しい......、結羽歌も初めて私に話しかけられた時、凄く嬉しかったってさっき言ってたし、今私が抱いている感情はそれと似たものなのかもしれないわね。


「ふぅ......」


 どうやら歌い終わったみたいで、マイクを置きながら小さく息を吐く結羽歌。音琶との話に夢中になってて結羽歌の歌がほとんど聴けなかったのが残念だけど、それを忘れられるくらい面白い話が聞けたわよ。


「結羽歌、やっぱりあんたは私にとって最高の友達よ!」

「え......えぇっ!? と、突然、どうしたの......?」


 歌に夢中になってた結羽歌は私達の会話を全く聞いてなくて、今の私の一言に目を丸くしながら戸惑っていた。

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