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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第23章 掟を変えるその日まで
338/572

意気込、行動で示す

 ***


 夏音が最後の夜勤に行っている間、特に何もすることがなかったから結羽歌でも誘ってあのお店に連れて行こうかな、なんて考えた。

 パソコンは夏音専用のだし、作業は夏音一人でやるか私と一緒の時だけになってるし、パスワードも頑なに教えてくれないし......。

 まさか夏音、私に内緒でえっちなサイト調べてたりしないよね?


 それはともかく、まだ結羽歌と琴実は仲直りしてないし、もしかしたら余計なお世話になっちゃうかもしれない。それでも3人で......、ううん、夏音も入れて4人で飲みに行きたいって思っているし、何より大事な友達だもん。

 それに結羽歌はもう部員じゃないということもあるから、サークルの人達は結羽歌に一切干渉しないだろうし、サークルを改善しやすく......、なるのかな?


 昨日の飲み会では琴実と一緒の班だったし、11日はシフト入っているとも言っていた。私は歓迎されているみたいだけど、結羽歌は大丈夫だよね?


 上川音琶:今からGothic行こうと思ってるんだけど、結羽歌も行く?


 LINEのチャットを開いて文章を打つ。あとは送信ボタンを押せばいいだけ、いいだけ......。


「えい!」


 意を決して送信ボタンを押す。あとはもうどうにでもなれ、そもそも私と結羽歌がサークル以外で飲みに行ったお店なんてあそこくらいだし、それ以外は宅飲みだったし、いつも通りの日常だよ、多分。

 どうしてかな、夏音にはあんなに積極的になれるのに......。誰かに話を振ることに抵抗を感じる癖が直らないのは、学祭の思い出が一切無いからかな。

 勿論学祭に限った話じゃないけど、真っ先に出てきたのは昨日の飲み会が原因だよね......。


 それから間もなく、結羽歌からの返信が来て......、


 池田結羽歌:私も、今日行こうかなって思ってたんだ

 池田結羽歌:ありがとね


 何故か2つに分けて送られてきた文章、緊張しているのかな......? ってか琴実のシフト知らないはずだよね? だったらどうして今日に限ってなんだろう......?

 まあいいや、駅前で合流して今すぐ行こうかな。


 上川音琶:今から支度するから、駅の東口で合流しよ!


 色々疑問は残ったけど、とにかく善は急げって所かな。


 ・・・・・・・・・


「お、お待たせ! 音琶ちゃん!」


 早く着きすぎて15分も待つことになっちゃった、夜は寒いしもう少しゆっくりしていても良かったかな?


「突然呼び出しちゃってごめんね、でもまさか同じ事考えてたなんてね。夏音が夜勤だから一人で暇してたんだ」

「学祭の準備は、大丈夫、なの?」

「うん、まあね。ポスターの方は順調だし、大っきい垂れ幕は昼から夕方まで部室使って何とか進んでる」

「良かった......」


 流石に夏音からパソコン貸してもらえてないことは黙っておいた。


「それにしても結羽歌、飲みに行くってだけなのにちょっと張り切りすぎじゃない?」

「そ、そうかな......?」


 10月中旬になり外の気温は下がる一方、衣替えの季節ってこともあってかいつもと違う結羽歌の姿がそこにあった。

 膝丈までの薄桃色のスカートに黒いニーソックス、水色のトップスの上にはやや厚手の白いジャケットを羽織っていて、まるで妖精のような可愛さを醸し出していた。

 なんかもう、女の私でも一目惚れしてしまいそうな感じだけど、結羽歌って今までこんなにコーデに力を入れてたかな? なんかまるでデートに行くときみたいな服装にしか見えない。


「実は、私、ね......。4日前からずっとあのお店、行ってるんだ。昨日は部会の日だったから行かなかったけど......」


 えっとそれは、つまり......。


「琴実ちゃんがいつシフトなのか直接聞く勇気出なくて......、でもお店に行けば会えるから、ずっと、琴実ちゃんの日を待ってるんだ......」

「結羽歌......」


 溜息が出てしまいそうなくらい不器用で、尚且つお馬鹿さんな結羽歌だけど、琴実と今まで通りに接したいって気持ちが誰よりも強いってこと、伝わってきたよ。

 Gothicに行こうとしているのも、今日に限った話じゃなかったんだね、こんなにお洒落しているのも琴実に会うために身だしなみを整えないと、って想いがあるからなんだね、少しでも変なとこあったら嫌だもんね。


「今日も、会えるかわからないけど、あと3回行けば必ず会えるはずだから......」

「大丈夫だよ」

「えっ......?」


 琴実は今日、絶対にあの場所に居る。それは昨日確認済みだ。


「琴実は絶対に居るよ」


 小さくなった結羽歌の右肩に触れ、震えそうな身体を支えてあげる。


「本当......に?」

「うん、本当に。だから早く行こうよ! 琴実ももしかしたら待ってくれてるかもよ!」

「あっ......! 待ってよ......!」


 結羽歌の暖かい手を取りながら、私は繁華街の方へ足を急がせていた。


 +++


 部会の次の日にバイトってのもなかなか憂鬱よね......。

 今日だって垂れ幕の作業だったりバンド練習だったりで全然休む暇なかったし、土曜日だからお客さん多いし......。

 まだ何席か空いているけど、これ以上来られたら私の体力持たないわよ......。


 そう思っていた矢先に扉が開き、思わず溜息が出そうになったけど......、


「あっ!」


 開いた扉の向こうからは久しぶりに合わせる顔が覗いていた。

 その顔には不安と焦燥で満ち溢れていたけど、辺りを見渡して私に目線を向けると、迷うこと無くカウンターに近づいていった。


「ひ、久し振りだね、琴実ちゃん......」


 ずるいわよ......。LINEでもなんでも良かった、こんな沢山の人が居る場所で喧嘩の続きなんて出来るわけないじゃない......。しかも音琶だって居るし......。

 いいえ、そんなこと考えている私が一番間違っているのよね、本当は何よりも、結羽歌が再びここに来てくれたことが嬉しいってのに......。


「い、いらっしゃい結羽歌、それに音琶。何飲む?」


 あくまで今まで通り、マニュアル通り、来てくれたお客さんのためにメニューを配って、注文を待った。

 だけど、今の私には動揺を隠すことが出来なかった。だって、あんなにも近くて遠かった大切な人が、こうしてまた私に会いに来てくれたんだから。

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