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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第23章 掟を変えるその日まで
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夜会、飛び出す本音


「敵って.......、私は音琶ちゃんの味方じゃないのかな?」

「いや、別にそういう意味でいったんじゃなくてさ、私と正反対の意見持ってる人があまりにも多くて、なんかよくわからなくなっちゃったんだ......」


 自分でもどう伝えたら結羽歌が納得してくれるか見つけられてない。でも、言わないで抱えるくらいなら分かり合える人に本当のことを話すべきだよね?


「ボーカルの練習付き合ってくれた光も、私よりも先輩の方が正しいみたいなこと言ってたし......。音琶なら大丈夫だとか、先輩の命令は絶対みたいな感じだし、私本当はそんなことがしたくてサークルに入ったんじゃないもん」

「音琶ちゃん......」


 お酒飲んでたらびっくりするくらい本音出ちゃうよね、先輩達の前では絶対に言えないけど。ううん、言えるようにならないといけないんだけど、夏音みたいにはっきりとね。


「何か私、最近サークル変えることばかり考えちゃってて、本来の目的が見えなくなってきてるんだ......」


 これが今の私の本音。

 夏音には言えなかった、本音。


「私も、だったよ」

「えっ......」

「私も、何がしたくてサークル入ったのかよくわかんなくなってたんだ。だから辞めちゃったけど、その後に目的が見つかったんだ」

「それって......」

「うん、実羽歌にかっこいいとこ見せるって、ね」

「そっか」

「ってか、音琶ちゃんは最初から目的あったんじゃないの......? まさか忘れたとは思えないけど......」

「勿論あったし、今も変わってないって思いたいよ。だけど、私が本当にしたかったことと今が全然釣り合って無くて、何をどうすれば果たせるのかなって、環境があんなんだからなんだけど、もう何が何だかさ......」


 グラスに注がれた梅酒を炭酸水で割って飲み干す。ほんのりとした甘味と鋭い酸味が交わって、まるで私の浮ついた気持ちと追い詰められていることへの不安のように感じられた。


「大丈夫......、なんかじゃないよね......」

「うん、全然だよ......」

「......」


 折角の結羽歌との宅飲みなのに、すっかり暗いムードになってしまった。元々今のことを話すための時間ではあったんだけど、なんかこう、もっと上手く言いくるめればお互い辛い気持ちにならなかったんじゃないかな。

 結羽歌だって、一応サークルの縛りから解放されたんだし、少しは気持ちが軽くなっているはず。私がこんなこと言ったから、辞めるまでの辛かったことが思い出されて後ろめたくなったりしてるかもしれない。


「ほら、私って夏音と最高のバンド創り上げるって決めてたじゃん。でも、それを成し遂げるためにはまずサークル変えないといけないし、結羽歌も居ないとダメだし、夏音の演奏だって私が求めているとはまだ違っているし、それに......」


 それに、確かめなきゃいけないことだってある。

 いくら酔った勢いでも、口にすることはなかった。


「音琶ちゃんのやりたいことに、私が入ってもいいんだよね......?」


 さっきよりも少しだけ明るい話題に変え、何とかして飲み会の空気を穏やかなものにする。

 結羽歌が辞めたのも一種のプロセスで、この先も色んな事があっていつかは私達の元に戻ってくる、それが私の願う先。


「いいに決まってるじゃん、だからいつでも準備しといて欲しいよ」

「うん、大丈夫。私、これでもちゃんと練習してるから。実羽歌から電話来る前まではちょっと触れて無かったけど......」


 そう言いながら恥ずかしそうにお酒を飲む結羽歌。もうそろそろ水と交互に飲んだ方がいいよね?


「あと、琴実ちゃんは元気してる、かな?」

「琴実? あいつなら元気だよ。また鳴香とバンド組めただとか言ってて嬉しそうにしてたし」

「琴実ちゃん、またバンド組んだんだ......。なんか本当に、適わないよね......」

「どういうこと?」


 結羽歌はまだ琴実と仲直り出来てないのかな? 直接は見てないけど、結羽歌が感情をむき出しにするくらいだったみたいだし、仲が良すぎただけにお互い刻まれた傷は深いものだったのかな?


「私なんかよりも、琴実ちゃんの方がずっと努力していて、色んな事にぶつかれて、自分の気持ちを表に出せてるのに、私はずっと自分の殻に閉じこもったままで......」

「そんなことないよ」

「音琶、ちゃん......」


 大事な友達。私と結羽歌だったり、結羽歌と琴実だったり、色んな組み合わせがあって、その数だけ色んな出来事が溢れている。

 どこかで擦れ違って、暫く話せない日が続いたとしても、きっと二人は今まで通りの日々を送ることができるはずだよ。

 だって、琴実と一緒に居るときの結羽歌は、私と居る時と少し違った感じで楽しそうにしているんだもん。


「私はこの前のこと、よく知らないんだけど、結羽歌は閉じこもってなんかないよ」

「そんな......」

「本音を言える時点で閉じこもってるなんて良く言えたモノだよ。って言いたくなるかな」

「それもう言ってるよね......」

「とにかく、私また琴実も入れて三人でGothicで飲みたいよ。カラオケもしたい」

「わ、私......」


 結羽歌と琴実が今まで通りにならないと、いつまで経っても仲間同士で遊びに行ったり、お酒を飲んだり出来ないもん。

 琴実だって、不器用なとこあるから事情が複雑になるけど、ちゃんと結羽歌と仲直りしたいって気持ちはあるんだよ。


「私も、学祭までには、琴実ちゃんと今まで通りに戻りたい! 一緒にドライブだってしたいし、色んな事して楽しい思い出作りたい!」


 あー......、だいぶ酔ってきたかな......。

 でも、その方が結羽歌らしい気もするし、今日の所はまあいっか。


「やりたいこと、全部叶えられたらなって、思ってるよ!」


 結羽歌を閉じ込めていた殻なんて、とっくの昔に粉々になっていたみたいだね。

 言いたいこと全部言えちゃうのはお酒の力を借りた事への代償なのかもしれないけど、願っていることをありのままにさらけ出すのは、こんなにも清々しいことだったんだよね。

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