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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第23章 掟を変えるその日まで
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不調、漂う親近感

 何だろう、お客さんの前では笑顔で接しないといけないのに、気持ちが全然晴れない。

 照明もしっかり出来てるし、与えられた仕事はこなせているはずなのに、どこか物足りない気がして仕方がない。

 どうしてこんなに私の心は暗くなっちゃったの? 信じていた人と食い違いがあったから? そもそも最初からそこまで仲良かったのかな?

 あくまで光とはボーカルを教えてもらっただけの関係なの? 感謝しているのに、それだけで済ませていいのかな、もっと敬うべきだったりとか......、


「音琶ちゃん?」


 転換の時間だったから、照明の役割は演奏が始まるまで待機になる。ある程度の設定は出来たから、開始のタイミングを見計らって機材の調整が出来ればいいんだけど......、


「ゆ、結羽歌。どうしたの?」


 結羽歌が心配そうな顔で私を見つめていた。

 もし結羽歌が昨日の飲み会に参加していたらどうなっていたんだろう、また潰れて私が部屋まで送ってあげることになってたのかな?

 それとも、私に負担を掛けないように飲み方を抑えて自力で帰っていたのかな?


 ううん、そんなことよりも今は結羽歌の話聞かないと、大事な友達......、これ以上失くしたくないもん。


「音琶ちゃん、サークルで、また何かあったの......?」

「と、突然どうしたのかな? 私どこか変だったりしたかな?」


 上ずった声になりながらも結羽歌に返す。だけど、何ヶ月も共にサークルとXYLOで時間を共にした結羽歌が気づかないはずなくて、


「今は、照明あるから詳しいことは聞けないけど、打ち上げの時に、色々聞かせてほしいな。辞めた私がこんなこと言うのは変かもしれないけど......」

「辞めたことは気にしなくていいよ、私は結羽歌のことちゃんと覚えてるんだしさ。それに、前も言ったよね? また結羽歌と一緒にバンド組めるように頑張るって」

「うん......」

「大丈夫だよ、夏音も琴実も、結羽歌のこと忘れたりなんかしないもん。絶対忘れないもん」


 結羽歌の表情は窺えなかった。私も結羽歌もきっと意味は違ってもそれぞれの悩み事があるってことはわかってるし、こんな大事なタイミングで聞いてくるってことは私の表情が暗かったのがバレバレだったってことだったから......。


「無理だけは、しないでね」


 転換が終わり、スタッフがそれぞれの作業に移っていく。結羽歌もPAのサポートに廻ったから、今は私が一人で照明を完成させる時間だ。

 大丈夫、今やってるのはバイトでの照明であって、サークルとは全く関係無い。私に与えられた使命、ちゃんと理解してるからね。


 ・・・・・・・・・


 打ち上げに参加したのは両手の指で数えられるかどうかの話になっちゃうけど、今まで嫌なことや辛いことがあった日はすぐに部屋に戻って夏音に助けを求めようとしていた。

 だけど、結羽歌の話だってあるし、誰にも話さないのも嫌だった。


「お疲れ様、音琶ちゃん」

「あ、お疲れ様。何とか上手く出来て良かったね」

「うん、音琶ちゃん元気無い感じだったから心配だったけど、照明安定してて、良かったよ」


 結羽歌の言葉に救われた私は胸を撫で下ろし、ホッと息を吐く。


「まああれだね、今日の音琶は本調子じゃなかったけどね」

「洋美さん......?」


 ノンアルビールが入ったグラスを片手に私と結羽歌の輪に入っていく洋美さん。送迎する人は今回は洋美さんが担当なんだね、免許を持っている人がシフトの時はじゃんけんで負けた人が送迎するって決めてるんだけど、今日の洋美さんは運が無かったってことだね。

 基本免許を持っている人が最低一人は出勤することになっているけど、洋美さん以外誰も出勤出来ない時は泣く泣くノンアルを飲む羽目になってしまう。

 ノンアルは普通のビールよりも苦いから私はあんまり飲む気にはなれないかな? 結羽歌も免許持ったら飲むの我慢することになるんだからね、そこは気をつけないとね。


「別に失敗とかは無いんだよ、だけど気持ちの籠もり具合がイマイチでさ、ただ与えられた仕事をこなしているだけって感じだったかな」

「そんな......」

「あ、別に怒っているとかそういうわけじゃないから安心して! ただ音琶ならもっと上手く出来るって思ったから言ったんだ、私に言われたことを気にするかどうかは音琶次第!」


 相変わらずポジティブで明るい表情を振りまく洋美さん、私もこれくらい思い切った性格になれたらいいのかな? 夏音の前ではなれてると思うけど、他の人には本音を隠している面がある。

 私は変わりたい、夏音みたいにどこまでも正直な気持ちで誰かにぶつかれるようになりたい。このままだったらいつまでも届かないのはわかっている。


「思い詰めた顔の音琶は音琶じゃない、もっと明るくなりなよ、好きなことに直面してるんだからさ。本当は楽しみたい気持ちしかないの私はわかってるんだからね!」


 洋美さん、今飲んでるの本当にノンアルだよね......?

 たまに漫画とかでノンアルでも酔ってるキャラクターが居たりするけど、違うよね?

 いつも打ち上げの時はテンション高くて色んな人と話している洋美さんのことだから、心配要らないか。まずは私自身のこと心配しないとね。

 でも、今の洋美さんの話にはどこか親近感があったような......。


「音琶ちゃん、今は話せなかったら、明日でも私の部屋来て全部言ってもいいんだからね」

「結羽歌、いいの?」

「いいよ、ちょっとだけ、心配だったから......」

「そっか、でも夏音とのこともあるから、行けたら行くってことでいいかな?」

「うん」

「ほら、夜とかにでも、二人で宅飲みとかしても......」


 私の何気ない提案、言ってから自分の発言に気づく。私から飲みの誘いをしたことってなかったよね?


「勿論だよ!」


 嬉しそうに私の手を取る結羽歌、瞳の奥が輝いていて今日一番の明るい表情がそこにあった。結羽歌は本当にお酒が好きだね、それがまた結羽歌の良い所かもしれないんだけどね。


「サークルの話とかまた後日しようよ、私もまだ最終検定あるし......、この前落ちちゃって......。それでお互いに大丈夫な日があったらでいいから、一緒に飲もうよ!」


 私の誘いにここまで表情を輝かせる人がいるってだけで嬉しかった。だから今までお酒のことで結羽歌に強く当たってしまったのが申し訳なくて......、


「ご......、ごもっとも、だよ!」


 ごめんね、って言おうとして、ご尤もなんて言葉選びが下手すぎる私だったけど、謝るのは次に飲む機会まで持ち越そう。


 結羽歌の楽しそうな顔を見るだけで、謝ることが申し訳なく感じられたんだもん。

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