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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第23章 掟を変えるその日まで
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礼、言われるほどのことはでない

 ***


 10月3日


 どんどん日が短くなっていき、外は肌寒さが一層増している。

 この季節になれば五限が終わる頃には外はすっかり暗くなっていて、キャンパス内に照らされる灯りが眩しくさえ感じる。


「授業はついていけてるか?」

「一応」

「グループLINEが機能しているおかげだったりして」

「そうかもな」


 教室を出て、そのまま部室に向かうか一旦帰るかどうするか。悩んでいるといつものように日高が俺を冷やかしてきた。


「また何かあったらいつでもグループに言ってくれよ、いつでも答え合わせしてやるからさ」

「答え合わせは立場が逆だろ」

「あ、そうだったっけ?」


 調子良いこと言いやがって......、毎回毎回レポートなり課題の答えを聞いてくるのはお前がほとんどだろ、俺だって眠いけど頑張ってんだぞ、少なくとも今のところは。


「そうだけど、でもまあやばくなったらいるでも相談する」

「いつでも待ってるぜ」


 頼りないのか何なのか、それでも本気で心配してくれてるんだし、感謝しないと天罰が降りそうだ。


「そうそう! あんた結構抜けてるとこあるんだから、私達頼らないと単位なんて簡単に逃げちゃうんだから」

「......お前だけには言われたくない」

「えー! 何でー!?」

「言われたくなかったらスマホ触んなし」

「だってだって~」

「言い訳するな、授業は授業だろ」


 相変わらず立川は授業中にも関わらずYouTubeを眺めている。気に入ったチューバーがいるのか何なのかは知らないが、そんなのお家に帰ってからでもいくらでもみれるよな? ただ単に授業が面倒なだけなのでは、それか彼氏さんと一緒にお勉強する時間が設けられるための口実だったりして。

 どっちにせよ俺はお前だけは助けてあげないからな、日高も人が良すぎるんだよ。自らグループのこと提案してきたのは日高が狙いだったとかじゃないよな?


「わかったよ~、そしたら日高、今日は一緒に勉強しようね!」

「全く、仕方ないな」

「「......」」


 今のやり取りを見ていた俺と結羽歌は呆れ顔になっていたというか、普通に引いていた。

 結羽歌も頑張るよな、本当に大丈夫なのか? それともこいつらのアホさのせいですっかり気持ちが冷めたとか、新たな恋を探しているとか、そんな現状なのかもしれない。


「そ、そういえば、夏音君は、これから部会、だよね......?」

「あ、ああ。そうだけど」

「頑張って......!」

「......?」


 こいつはこいつで何を伝えたかったんだ?


 ・・・・・・・・・


 結局真っ直ぐ部室に向かっていた。すると......、


「淳詩......?」


 淳詩だけじゃない、聖奈先輩もいる。珍しい組み合わせだが二人で何をしているのだろうか。

 淳詩が幾分マシになっていたドラムを叩き、聖奈先輩がそれを見て頷いたり動画を撮ったりしている、そう言えば聖奈先輩は研究室とかはどうなのだろうか、クラスは全く違ったはずだがそう言った場所の雰囲気ややり方を聞くくらいなら出来るし、身近に4年生が居ない俺にとっては便利な道具だ。

 どうせまた飲み会するだろうから、その時にでも適当に聞き出して用が済んだら時間の経過を待てばいいよな。


 それもそうだが、まずは淳詩の演奏を少しだけでも見ておくか、どうせまだ時間あるんだし。

 てかこいつ、今のところバンド一つも組めてなかったはずだが学祭はどうするつもりなのだろうか。バンドの出演期限は過ぎているから、今更新しく組んでも次いつ出れるかわからないのだが......。

 この前のPAの反省を活かしてそっちに全振りするつもりなのかもしれない、そうなると俺もまた駆り出されることになるのか? 正直それは勘弁願いたい。


「だいぶ出来てるじゃん! 秘められた才能が開花してきているよ」

「本当ですか? 本番まではもっとやってやりますよ」

「頼もしいなー、君は」


 本番ってことは学祭出るんだな、誰と組んだのだか。聖奈先輩は確実だろうけど。


「聖奈先輩は......」

「ん?」

「本当に俺なんかで良かったんですか? 兼斗先輩には到底及ばないというのに......」


 遠くから聞いてても淳詩の女々しさがよくわかる質問だな、しかもそんなことを信用出来るかもわからない先輩に聞いた所でまともな解答が返ってくるとも思えないというのに。

 誰と組もうが実力なんて関係無い、いちいち気にしてたら落ち着かないだろうし、演奏の楽しさすら忘れてしまいそうだ。

 俺がそんなこと思うようになったのも誰かさんのお陰だったりするんだけどな。


「何言ってんのさ、バンドなんて色んな人と組むから楽しいんでしょ? 淳詩だって私が組んであげるって行った時嬉しそうにしてたじゃん」

「そ、そうですよね......」

「それに、先輩がメンバーにいるってだけで良いことしかないんだよ、特にこのサークルに長くいる先輩だとね」

「は......、はい!」


 やけに『先輩』という言葉を連呼するよな、あの人。


「そうだよね、夏音!」


 遠目で見つめていたドラマーとボーカルの先輩のやり取り、視線に気づいた聖奈先輩は解答権を俺に渡す。

 まあこの人が何を考えているかは置いといて、バンドに大切なことは言うだけ言っておくか。


「相手がどんな人なのかって柵みに囚われてたらいつまで経ってもバンドなんか組めないからな」


 淳詩に俺の言葉がどう伝わったかなんてどうでもいい、ただ思うがままのことを言っただけだ。それなのに......、


「そっか、聖奈先輩も夏音も、どうもです」


 礼を言われるまでのことを言ったつもりはないけどな、まあいいや、適当に頷くくらいはしておくか。

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