二択、組むか組まないか
音源が止み、琴実が停止ボタンを押す。
部室が静寂に包まれ、誰から言葉を発するか様子を窺っていたけど、琴実も聖奈先輩も私を見ている。どうやら発言権は私が最初に与えられているみたいね。
「琴実、あなた......」
汗が滲んだ額を拭きながら琴実に尋ねる。一瞬たりとも視線を逸らさずに、真っ直ぐに私を見つめ、返答を待っている。
「どういう......、いいえ、どうしてここまで......」
「どうしてって、何がどこまでどうしてなのか具体的に言ってもらわないとわかんないわよ」
「そ、そうね。えっと......」
最後まで弾き終えたにも関わらず動揺が隠せない、今まで散々下に見ていた琴実のベースが上達してただけでなくて、ちゃんと周りに合わせて演奏出来ているだなんて......。
楽器は違うのに、私の方が周りを見れていない......? そんな、信じたくないけど、だけど......。
「琴実は、どんな練習をしてた......の?」
「練習?」
「え、ええ。だって今まであんな独りよがりの演奏をしていて......」
「はあ? その演奏を今でも続けていると思っているわけ?」
「いや、それは......」
「続けているってのは間違いね、続いているって言った方が正しいかしら。始めたばかりの頃は自分の演奏に精一杯だったわよ。だけどね、いざ本番を迎えて、自分の欠点に気づけたのよ、勿論先輩からも指摘があったからなんだけど」
「......」
「初心者とか経験者とか関係無くみんな課題を抱えて音楽と向き合っているのは分かってるわよ、プレイヤーなら尚更ね。私だって鳴香と組んだバンドで自分のことしか考えれなかったのは申し訳ないと思っている、だけど可能性を信じていたから続けられるって思ってたの」
「琴実......、だけどそれは......」
「言い訳なんて聞きたくない」
「......!」
何よ、まるで私が悪いみたいに......。
いいえ、勝手に拒絶したのは私の方だったわね。
「私はその可能性をどこまで広げられるか考えていただけ。勿論鳴香ともう一度バンド組みたいって気持ちはあった、私にとって何が大事かもしっかり考えていた」
迷いのない眼差しで私を見つめる琴実、私はもう何も言い返せなかった。
「鳴香はさ、私の言ってることが嘘だと思っている?」
「そんなこと......」
琴実の質問、私の答えを求める瞳は覚悟を決めているみたいだった。
セッションする前までは、例えどんな結果でも断ろうと思っていた。だけど、私にとってそれが正解なの?
今の琴実なら、きっと前よりもずっと良いバンドが組めると思ってしまっていた。私が知っていたのは過去の琴実だったから、今現在を見ることが出来ていなかった。
私だって前よりずっと上手くなっている自信はあるけど、どうして他人のことになると分からなくなるのかしらね、これだから人間って生き物は不思議なのよ。
「まあいい、今の私とバンド組んでもいいかダメか、それだけでも言って欲しいわよ」
私の決意が託されている。だけど、仮に私と組めたとして他のメンバーは......? いいえ、今はそんなこと考えている暇は無い、どうせ琴実のことだから勢いであっという間に集められるはずだし、単純な奴らしか揃ってない部員が首を横に振るなんて考えられないわよ。
「わ、私は......!」
答えは二つしか用意されていない。その中で私が選んだのは......!




