勝ち目、そんなものは最初から......
流されるままだったけど、十数分耐えたら解放されるのだし、今回限りで琴実の我儘を聞いてあげれるのも最後。終わったらまた学祭に向けての準備を進めておかないと元も子もなくなってしまう。
「本当に、一回限りだからね」
「いいわよ」
一回限り、この先どんなことがあっても一回だけのセッション。これが琴実と本当の最後のセッションになるのね、ようやく私は解放される......。
「ふぅ......」
肩に掛かりそうなセミロングが邪魔ね、本気を出すつもりはないけどやりやすさを考慮して結んでおいた方がいいかしらね、すかさず鞄からヘアゴムを取り出して......、
「鳴香、いつもそれするわよね」
両手で髪を束ね、8センチほどの長さに留める。そうよね、私が琴実のことを認めなくたって、無理に本気を出さないで演奏する必要がないものね、折角弾くんだったらどんな状況でもどんな曲でも真摯に向き合いたいから。
「大きなお世話よ、早くするわよ」
私の癖を指摘したのかは知らないけど、そんなのどうでもいいことだし私にとっては当たり前のことなんだから無視して準備に取りかかる。
音琶ほどじゃなけどエフェクターは買ってるし、音の出し方は自力で調べていかに良い音作りになるかを考えてギターに触れている。
いつかはギタボじゃなくてギターソロだけの担当になれたらなんて思っている。だから今このタイミングで新たにバンドを組んでも理想の演奏なんて......、
「あれ、二人とも何してんの?」
「「はっ......!」」
ビニール袋片手に現れたのは4年の小沢聖奈先輩、研究室の帰りで部室に来たみたいな感じかしらね。
「何々~、1年女子二人で秘密のセッション?」
「えっと......」
私が言葉に詰まっていると、琴実が先に口を開いた。
「はいそうなんです、私と鳴香、新しいバンド組むことになるかもしれないので、取りあえず合わせてみて上手く行ったらって感じです」
「ちょっとあなた......」
私、あなたとバンド組むなんて一言も言ってないのだけど、こういうときに限って先輩を上手く利用するだなんてずるいと思わないの?
「へえなんか面白そう! それだったら私も協力するよ、先輩がいるんだからどうしたらいいかとか色々教えたげるよ。研究室で疲れた身体を癒やす空間が部室にもあっただなんてね、電気付いてたから来て良かったよ~」
「本当ですか? そしたら私と鳴香のダメなところ、遠慮無く言って下さい!」
「......」
嵌められたわね......。
以前琴実は先輩達があまり好きじゃないって言ってたのに、自分にとって都合の良い状況になったら手段を選ばないのね。今までどうやって生きていたのかしら、今のようなことばかり繰り返していたと言うのなら改善の余地が必要よ。
「鳴香はさっきから黙ってばっかだけど、何か不満なことがあったりするの?」
「いえ......」
聖奈先輩もきっと、兼斗先輩や茉弓先輩と同じ種族に違いない。留年しているのかは知らないけど、4年以上このサークルに居たってことになると今まで色々なものを見てきたはず、それでもここに居続けるってことはこの環境が心地良いものだと認識しているから。
琴実、あなたはそんな人とグルになっている自分が情けないと思わないの?
「何も無いなら、早く始めちゃおうよ」
「は、はい......」
本気を出さなかったら先輩達が面倒なこと言ってくるかもしれない。でも、本気の演奏をしたら無理にでもバンドを組むことになるかもしれない、どうしたらいいの......?
琴実がしてやったりって感じの顔でこっち見てきてるし、腹立つわね。あなただって聖奈先輩が来なかったらどうするつもりだったのよ? たまたま運が良かっただけでしょう?
「ホントに今年の1年生は面白いこ多いわよね~」
聖奈先輩が私の考えていることそっちのけで無責任なこと言ってきてるし、もう私は本当にどうしたら思い通りになれるのよ!
でも、こうなってしまった以上仕方ないからやるべき事はするわよ。聖奈先輩が何を言おうと私は私の最低限の演奏をするだけなのだから。
「今からスマホに入っている音源、ミキサーに繋げるから。ライブでやった曲だから流石に出来ないことはないわよね......?」
.........。
それって不利じゃない?
琴実は解散した後も同じ曲を何度も練習していたかもしれないけど、私なんて過去の曲よりも自分に合った曲を探しているっていうのに。
これもう、私に勝ち目なんてなくない?
勝負とかじゃないけど、私の想いとは裏腹の未来しか見えないのよね......。




