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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第22章 必然鳴香
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諦め、覚悟を決めながら

 @@@


 話は1週間前の9月25日に遡る。


 今は部員で結束して垂れ幕を作ったりそれぞれのバンドを本番に向けて強化していく期間、だから今組んでいるバンドをどうしたらより良いものに出来るか考えようとしていたのに......。

 明日になれば出演バンドの締め切りになる。私が出るのはたった一つだけ、そうよ、たった一つだけ......。


 それなのに......、


「あっ......!」

「......」


 前日に続いて部室で練習しようとしたら、またもや琴実と遭遇してしまった。あんなに強いこと言った後だと顔が合わせづらいけど、どうしたらいいものかしらね。


「お、お疲れ、鳴香......」

「......」


 一瞬目を合わせたけど、返す言葉が見当たらなくて無言で部室の扉を開け中に入る。何やってるのよ私は、謝るべきことは謝るはずでしょう、どうして当たり前の事が出来ないのよ、20歳にもなって!

 第一関門も突破出来ない私は発言権を失われ、ただ黙々とギターを取りだしてMarshallのアンプに繋げることしか出来てなかった。


「あ、あの、鳴香......」


 琴実もきっと練習がしたかったんだと思う。何も言わずに勝手に練習時間を優先するのは間違いだって分かっているけど、こういうときってどうしたらいいのかしらね。

 高校までの人間関係は順調だったし、多少のトラブルはあったけど友達だって少なくなかったし、平均以上の充実した学生生活は送れていたと思う。

 人間関係で悩んだ経験が乏しいからこそ、こうして琴実や音琶とトラブった時の対処法が見当たらない。何から始めれば相手が納得出来るのかとか、人間関係の修復方法なんてまともに履修したことがなかった。


 幸せな生活を送りすぎたら、いざというとき困るのよね。ある程度対策くらいはしといた方が良かったのかしら?

 いえ、そんなこと最初から学ぶ必要なんてないのよ、最初からトラブらなければいいことなのよ。それなのに、私は出来なかった。


「あのさ、もし良かったら、私とセッションしようと思わないかしら? 時間被ったんだし、私だって練習したいのよ。一人でやるよりも誰かの音と合わせて練習したら効果的って先輩達が言ってたから......」

「琴実......」


 まだ髪は結んでいない。本気を出すにはまだ早いと思ったから......。

 琴実の提案は私にとってのメリットになるの? あくまで自分の都合を押しつけているだけじゃないの? だなんて色々疑ってしまうけど、私はあなたの何かを訴えかける目をどこまで信じればいいの?


「自分勝手なのは分かってるわよ。でも、練習する時間は欲しい。一度はバンド組んだ仲じゃない......」

「......」


 そういう所が苛つくのよ、過去は過去、今は今でしょ? いつまでも引きずってる癖に周りに迷惑掛けてること、このこはいつになったら気がつくの?


「もう一度だけ、チャンス欲しいのよ。私が実力不足だったんなら、もっと上手くなってみんなを引っ張りたい、初心者だからとか、そんな言い訳もしない! だから、せめて私の実力、見直して貰えないかしら......?」

「......私はそう言う意味であんなんこと言ったんじゃ......」

「違う!」

「......何が?」


 我儘放題の琴実と冷静に対応する私、子供の我儘を聞いてあげる親ってこんな気持ちなのかしらね。

 だけど、琴実の意見が嘘では無いってことくらいわかっている。自分の思い通りになるバンドが組みたいって気持ちがあるってことも分かる。

 でも、それが私と何の関係があるって言うの? 別に今組んでいるバンドでどうにかすればいい話じゃない、私が出る話じゃないと思うんだけど。


「ただ単に、新入生ライブでやったバンドが、楽しかったってだけよ......。あれが続けられたら、もっと私は上手くなれるって気がしたし、鳴香だって私の感じたことが理解ってるって、思ってたから......」

「楽しかったって......」

「鳴香は楽しくなかったのかしら? あんなに良い音出してたのに」

「そんなの、役割を果たすのに必死だっただけで......」

「それは私も同じ! 自分のやらなきゃいけないことに必死になって、それが楽しいから音楽やってるんじゃないの?」

「......」


 昨日と立場が逆転していた。琴実の言葉に間違いがない気がして、ぐうの音が出てこない。


「別に、私の演奏に不満があるってんならバンド組むのは諦める。だけど、このまま何も進展がないまま諦めるのは嫌なのよ!」

「......私が納得しなかったら、本当に諦めてくれる?」

「そ、そうするつもりよ! 一度言ったことは守るんだから!」


 テンパってはいたけど、自分の発言にはしっかりけじめを付けるつもりなのね。でもいいわ、これで琴実のベースを敢えて否定してバンドの話を完全に諦めて貰える口実が出来たんだから。

 見てはあげるけど、どんなに上手くても私とはもうバンド組まないわよ、これではっきりしたわよね。

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