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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第21章 心の穴を埋めたい
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モデル、真ん中の少女

 音琶がシャワーを浴びている間も下書きをしては消してを繰り返していた。

 学祭と音楽の組み合わせといったら何が思い浮かぶだろうか、楽器のイラストはともかく、背景の色やテーマ、何よりも中心に描くものが何になるかによってポスターの印象は大きく変わっていくのだ。

 この際音琶をモデルにしたキャラクターでも作ってしまおうか......?


 音琶の特徴と言えば、腰まで届く長いツインテール、一度も染めたことの無さそうな真っ黒な髪、裏表のなさそうな大きな瞳に整った口元。

 幼さの残る可愛らしい声に......、いや声はイラストとは関係ないか、人の絵を描いたことは美術の授業であったし、我ながら上出来だった記憶はある。

 描かれた側は終始嫌そうな顔してたけどな、男だったけどそいつ。


 まあいい、真ん中にでかでかと音琶(仮)を描いて、その周りに『祭』と書かれた団扇とか屋台で売られてそうな飯とか入れておけばそれなりに仕上がるだろう。

 あとは俺の画力が試されて......、


「何これ!?」


 A4の紙に下書きを書き切り、あとはパソコンで色づけしてB3サイズになるように調整すればいい。

 これでめでたくポスター完成に近づくはずなのだが......、


「何って、見ての通りだけど」

「そんなの分かってる! まさかこれを学校中に貼り付けるつもりじゃないよね!?」

「いや、そのつもりだったけど」


 そう返答した瞬間......、


「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 隣の部屋どころか近隣の家に響き渡る声で音琶は叫んだ。

 近所迷惑だからやめてくれ。


 ・・・・・・・・・


「......で? このイラストの何が不満なんだよ」

「どこも何も、全部ダメだよ!」


 折角昨日今日で頑張って描いたんだけどな、やっぱり一人でやるより二人でやった方が良かったのか?


「全部、とは」

「一から描き直しってこと! こんな恥ずかしいポスターばらまけないよ!」

「......そしたら、どこがダメなのか言ってくれよ。全部って言われてもどこから直せば良いのかわかんねえし」

「えっとね......」


 隣に座りながら音琶は丁寧に説明してきた。

 音琶曰く、別に絵が下手なわけではなくセンスの問題だとか、ただ色々なものを詰め込み過ぎてごちゃごちゃしているのと、軽音部なら軽音部だけの要素を入れればいいとのことだった。

 屋台で売られてるような飯を描く必要はなかったってことか。


「あとは......」


 不必要な部分を下書きから除去し、さっきよりもずっとすっきりしたように感じられた。

 確かに、音琶に言われる前と後で雰囲気がダイブ変わった気がする。


「これは、私の、モデルだったりするの?」

「えっとだな......」


 最初は無意識に、というか特に気にせず描いていたが、いざ本人に見られるとなるとどこかむず痒い気持ちにさせられた。

 でもだな、音琶の特徴を捉えすぎていて、誤魔化しが効くような次元を遥かに越えていた。


「......そうだよ」


 恥ずかしながらも正直に答えた。全身が熱い。


「そっか」


 音琶は何を思ってこんな単純な返事をしたのだろう。

 採用になるかはわからないというのに、自分のモデルを無許可でポスターに描かれたのだ、嫌な気分にはならないのだろうか。


「ありがと、嬉しいよ」


 頬を薄く染めながら、音琶は笑顔で言った。ってことは......、


「まだ先輩には見せないで、締め切りギリギリまで頑張ろうよ。部長とかに聞いてみたら昔のポスターとか参考に出来るかもしれないし、まずは連絡しよ?」

「そ、そうだな......」


 振り出しに戻る、とまではいかなかったが、ゴールが遠くなったことは事実だ。

 それでも音琶となら成し遂げられるって信じている。


 バンドだって、いつかは必ず......、


「あ! 明日までにやんなきゃいけない曲、まだ出来てなかった! ごめん夏音、一旦練習するから席外しても大丈夫?」


 部長に連絡するためにLINEを開こうとした時、音琶が大事な用事を思い出した。


「大丈夫だ、どっちのバンドだよ」

「茉弓先輩の方......」

「だったら尚更、だな」

「うん......!」


 あの人の依頼を蔑ろにするような行為は基本NGだからな、相手にしたくないがこれもこれで作戦の一つなのだろう。

 正直な所俺らは劣勢だ、認めたくないけどな。


 俺も、一つしか組んでないバンドの役割、しっかり果たしておかないとな、ポスターと上手く両立しながら。

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