必死、人を集めるために
宮戸先輩が音琶に何を話したのかは知らないし、二人で何か企んでいるなんてことはない。
音琶があの人と話して何を感じたのだろうか、誤解なら早いとこ解いておかないと後々面倒だ。
「......あの人とは同じバイトなんだよ」
嘘偽り無い、本当のことを伝える。
「......」
音琶にとって予想外の答えだったかは分からないが、どうやら期待とは異なる返答だったみたいで悔しそうな表情をしている音琶が目の前に映っていた。
「本当に、それだけなんだよね? 音楽同好会とかいうサークルのことは、知らなかったんだよね?」
「いや......」
音楽同好会のことは直接響先輩から聞いていた。響先輩が元々軽音部に入っていたという話も聞いている。
だがそれは音琶に話していないし、響先輩から聞いたのは随分前のことになるから今更言った所で音琶はどう思うだろうか。
どっちみち俺にとって不都合になる話ではないから、聞かれたら言うくらいにしておくか。
「何!? やましい話でもあるの?」
「そんなのねえよ」
「......!」
さっきから何を疑ってんだよ、俺は嘘なんてついてないからな。
「音楽同好会の話は聞いてたよ、1ヶ月か2ヶ月くらい前にな」
「......」
「でも音琶からその話が出てくるなんてな。取りあえず響先輩と何があったかだけ教えてくれないか」
「わ、わかった。えっとね......」
昨日の打ち上げであったこと、それは響先輩からサークルに誘われたということ、結羽歌と再びバンドを組む為の近道になるかもしれないということ、それでも成し遂げなければいけないことがあるから勧誘を断ったということ。
音琶は全てを丁寧に話してくれた。
「なるほどね」
「な、夏音は、どう思う!? おかしいと思わない?」
何をそんなにテンパってんだって言いたいが、音琶も音琶で考えていることがあるのだろう。
まあ音楽同好会とかいうサークルが普段どんな活動をしているのか詳しく聞いているわけではないから、今から軽音部を辞めてそっちに入るなんて考えてはいない。
金銭面や拘束時間がそうでもないなら迷うかもしれないけどな。でも幽霊部員多いって聞いたし、まともな活動が出来てるとは思えないが。
「別に、おかしくはねえな」
「えっ......」
俺の返答に何を期待してたんだよ、あくまで意見だしおかしいかおかしくないかは個々人の判断に過ぎないんだよ。
その意見で個々人がどう行動するかにはかかっているかもしれないけどな。
「それぞれのサークルは存続を賭けて部員を求めている。音楽同好会のようにまともに活動出来てるか危ういサークルほど部員の数を求めているんだよ。そんなのどこのサークルだって同じことだ。別に否定することでも何でもない」
「それは......」
「自分の立場になって考えてみろ。音琶だって誰かを求める時必死になっていただろ。それと同じことだ」
敢えて俺は、恥ずかしながらも音琶との出会いを焦点に置きながら説明した。
音琶が俺を求める時、手段を選ばずに何度も何度も声を掛けてきてくれた。
響先輩も、きっと似たような気持ちなのだろう。
「例えるなら、音琶が俺を必要以上に求めていたようにな」
「な、夏音!!」
「音楽同好会のことは否定するつもりはない。だけどな、俺だってやるべき事が山ほどある」
「......それって!」
「学祭のこともそうだし、まずは掟を変えることが第一だ。勿論その後の結羽歌を取り戻すってことも諦めるつもりはない」
焦らしたが、最後には本音を音琶に投げつける。
それで音琶が納得してくれるかは分からない、でも俺は思い描いていた理想をそのまま言葉にしただけだ。自惚れているつもりなんて毛頭無い。
「確かに今から結羽歌とバンド組み直すなら向こうの意見を呑んだ方がいいのかもしれない。だけどな、それまでに建てといた目標はどうなるかって話だ。別に響先輩の提案を否定するつもりはないが、俺らにだって大事な過程があったんだよ。それなら、結果が出るまで引き下がるわけにはいかない」
「うん、そうだよ。諦めちゃダメだよ」
「今まさに二人でやらなきゃいけないことはなんだ?」
「学祭のポスターを作ること。掟を変えること。そして、結羽歌を取り戻して、夏音と一緒に最高のバンドを創り上げること!」
膨れていた顔はやがて笑顔に変わり、いつもの上機嫌な音琶が現れてくれた。
「だったら、今からポスターの下書きしておかないとな。お前がバイト行ってる間に案考えておいたんだが、何か意見あるか?」
「えっとね......」
A4の紙に大まかなイラストを描いておいて、補足として簡単な説明を施した下書きを見る音琶は何を言い出すだろうか。
その前に......、
「先にシャワー浴びとけよ」
「あ......! うん、そうだね!」
汗とアルコールのにおいが気になったが、それもまた音琶らしくて面白かった。




