疑問、知らないはずなのに
3人の間でだけ沈黙が流れる。周りはこんなにも賑やかで楽しそうな空気が漂っているのに、私が発した一言で数秒の間だけ全てが止まったかのようになってしまった。
「......そうだよね」
それからゆっくりと、宮戸先輩は身体を左右に揺らしながらそう言った。
「でもまあ、気が向いたらまた俺に声掛けてよ。その時こそは君たちの願い、叶えさせてあげるよ。勿論、滝上君にもね」
「え......?」
今、この人は、夏音のことを......。
「こら響!あんたまた後輩いじめてんの?その癖早くやめなさいって言ったよね!?」
「いや別にいじめてなんてないよ、ただちょっと気になってね」
「そうやって女の子ばっか声掛けてさ、私ってものが居るんだからいい加減やめなさいよっ」
「悪かったよ......」
宮戸先輩と同じバンドを組んでいたボーカルの女の人が詰め寄ってきた。今の言い方だと、二人は付き合ってるのかな?
もしかしたら、さっき言ってた音楽同好会のメンバーだったりして。
「ごめんね二人とも。こいつの言ってることは鵜呑みにしなくていいから」
「はあ......」
「ああまだ話は終わってないから、次会ったときには絶対続きしようね~」
「......」
ボーカルの女の人に無理矢理連れられて宮戸先輩は遠くに行ってしまった。私も結羽歌も目を丸くして二人を見守っていたけど、嵐のような人だったな......。
せめて自己紹介くらいしたかったけど、お酒の場ってこともあってそんな余裕は無かった感じかな?
「音琶ちゃん、あの人......」
二人が行った方向を見ながら結羽歌が私に尋ねる。何を言おうとしているのかは大体わかるけど、どうしてあの人は......、
「夏音と、知り合い......?」
唐突に出てきた夏音の名前。でも夏音からは聞いたことなかったはずだし、一体どこで知り合ったのか経緯が全く読めない。
まさか夏音のやつ、私に内緒で音楽同好会と繋がっていて、密かに何か企んでいるとか......。いやいや、夏音に限ってそんなことするなんて思えない。あいつ、何か悩み事があっても隠すけど、後ろめたいことなら言ってくるはずだし、私を置いてどこか行こうなんて考えてるわけないよ!
「どこで知り合ったんだろう?」
「うーん......」
「ライブ関連では会ってないよね?ってか、あの人がどんな人なのかもよく知らないし、帰ったら夏音に聞いてみるよ」
「うん、私も気になるから、音琶ちゃんお願いね」
「任せて」
結局謎が残るまま打ち上げは終わったけど、二次会もあるみたいだし、宮戸先輩が参加するなら私も行こうかな。
・・・・・・・・・
「お疲れ様」
「うん、音琶ちゃん、お疲れ様」
打ち上げという名の飲み会で結羽歌が潰れなかった所を見たのは初めてに等しいかもしれない。今日一日元気でまともな結羽歌を見れて安心したとともに、少し寂しい気持ちもあったけど、また一緒にバイト出来る日々が続くのは嬉しい限りだよ。
駅前で洋美さんが運転する送迎車を降り、そのまま二人して家路に向かう。
「結局、あの人二次会には来なかったね」
「うん......」
「何か分かったら連絡するけど、大丈夫だよね?LINEのアカウント、消してないよね?あとTwitterとインスタも」
「大丈夫、消してないよ」
「良かった、良かったよ」
ほっと一息ついて、私は続ける。
「そしたら、もうすぐ免許の方も?」
「う、うん。来週の土曜日には、最終検定まで行ける、かな」
「そっか、頑張ってね」
色々聞きすぎたかな......?結羽歌だってサークル辞める前までは辛いことが沢山あって、何もかも全て辞めてしまいたいって思っていた時期があったのに......。
「......音琶ちゃん」
結羽歌が俯きながら私に何かを伝えようとする。やっぱり私、負担掛けるようなこと言っちゃったよね。
「ありがと......。私、頑張るよ」
「......!」
頬が紅くなってたけど、嬉しそうに結羽歌は答えてくれた。
......そうだよね、友達に応援されて、嬉しくない人なんて、いないよね。私だって、辛いことがあった後、誰かに励まされたら嬉しいもん。
気に掛けてはいたけど、結羽歌の気持ちは本物なんだ。
「免許取れたら、ドライブ連れてってね」
サークルとは関係無く、結羽歌と作れる思い出。私の大事な人とどこか遠くに行きたいな。
「うん、一緒に、行こうね」
結羽歌は微笑みながら言って、それぞれの向かう場所へと足を運び出す。
さて、夏音が帰ってくるのは朝方の5時過ぎだから、それまでに聞き出したいことが山ほどある。帰ってくるまで寝ないで待ってやるんだから!




