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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第3章 臆病者に助言はいらない
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きっかけ、それは単純

 5月5日


 結局立川がサークルに入るのかという話が定まらないまま、合同ライブの日になってしまった。


 鈴乃先輩からはあれっきり連絡が来ないし、部室に行っても音琶には会えてないしで、ここ一週間ドラム練と勉強と家事以外特に何もしていなかった。

 今日音琶と会えるしまあいいか。


 今日のライブは市内にあるXYLO BOXというライブハウスでやるらしい。

 軽音部全体の公開ライブは基本大学構内の体育館ですることになってると掟には書いてたけど、今回みたいな部外のバンドも交えた合同ライブは基本ライブハウスですることになっていた。

 大学近辺はスタジオも含め幾つかライブハウスがあるみたいだから、必ずしも今日行く所だけでやるとは限らないだろうな。

 

 開場は18時からだから、それまでに練習と勉強をしようとしたけど、前日は夜勤だったせいでまたしても早起きできず、昼食を食べて授業の復習をしたらいつの間にか16時半になっていた。

 慣れとは恐ろしいもので、夜勤の次の日に寝坊することが自分の中で当たり前になっていた。

 今までの規則正しい生活を送ってた俺は一体どこへ行ってしまったのか、まあ悪いことばかりでもないけどな。

 ゴールデンウィーク期間に頑張ってシフトを入れたおかげで仕事内容は頭に入ってきてるし、何より給料が楽しみだった。

 貧乏人からすると物凄く大事なことなのである。


 時間になると先輩達が車でライブハウスまで送ってくれるらしい、それまで部室で練習しながら待つことにしたけど、演者以外でどれだけの部員が集まるのだろうか。

 まだろくに話してない奴もいるし、音琶と結羽歌のバンドもリードギターが欲しいから、ギター志望の奴に適当に声かけてみたほうがいいんだろうか。


 部室には誰もいなく、貸し切り状態だった。

 まだ17時にもなってないし、先輩達が来るには早いくらいだ、カレンダー見ると1時間前くらいまでバンド練入ってたみたいだけど。

 気になったんだけど、ドラムセットの位置とか並べ方って掟に書いてる通りにしたほうがいいのだろうか。

 掟には写真まで貼られてて、矢印とか文字で懇切丁寧に説明してあるけど、別に間違ってなければ手順くらい少し違ってても問題ないのでは。

 俺はドラムを始めたばかりの時に教えてもらったやり方でセットしてるけど、これも掟通りにやらなかったら減点なのだろうか。

 まあわざわざ鈴乃先輩があんな所まで俺らを集めて話したんだし、疑問は残るけど掟通りにやるとするか。

 多少の差異はあろうとも、12年の間もドラムをやっていた身だ、こんなのすぐに覚えられる。

 もしかしたら鈴乃先輩は、俺のドラム技術を認めての上で話を持ちかけたのだろうか。

 流石にそれはないか、でも覚えが早いのは今後進級したときに有利になるとは思うから、サークル内のドラムの基本事項は頭に入れておくとしよう。


 掟通りの位置にセットし、適当に叩き始める。


 『夏音のドラム、変わったよね』


 叩きながら、この前の音琶の言葉を思い出す。


 確かにあのあと色々あって、俺のドラムは変わってしまったのかもしれない。

 ドラムを辞める決意をし、毎日やってた練習もあの間は止まっていた。

 それが原因で身体が思うように動いてないのは自分が一番よくわかってる。


 音琶は俺のドラムには人を惹きつける力があるみたいなこと言ってたけど、どう克服してかつての自分を取り戻せばいいかなんてわかるわけがない。

 あいつの前で強がるのは、変わってしまったことを認めたくないだけなのかもしれない。


 こんな風に考え事しながら叩いているんだし、集中力が足りてないだけだったりするのはあると思う、昔はどんなことがあってもドラムを叩いてるときだけはありのままの自分でいられる気がして、考え事なんてしなかったのにな。


 昔よく練習してたバンドの曲を一通り叩き終え、次は何の曲をやろうかなんて考えてた。

 基本俺はスマホにヘッドホンを繋ぎながら入れた曲を流して練習してるんだが、画面を見てふと目が留まる。


 今年でデビュー25周年を迎える4人組バンド、Land(ランド) of(オブ) Mystery(ミステリー)


 周りの人は略してLoM(ロム)と呼んでいる。

 12年前、何気なくついてたテレビの音楽番組でLoMが出演していて、それを見たことがきっかけでドラムを始めることとなったのだ。

 あのバンドには俺を惹きつける力がある、なんて幼いながら感じてしまっていて、そこからドラム人生がスタートしたのである。


 始めた当初は基本練習を兼ねてLoMの曲を練習してたけど、簡単な曲が多かったから色々なバンドを探しては練習を積み重ねていた。

 それからは毎日ドラムを叩き、いつの間にかドラムをすることが生きがいみたいになっていた。

 あんなことが起こるまでは。


 懐かしいのか自分ではよくわからんけど、LoMは俺がドラムをするきっかけとなったバンド、という事実は変わらない。


「やらないなら俺に練習させてよ、スピーカー壊した人」


 ふと、前の方で声が聞こえたからヘッドホンを外し、視線を移す。


「さっきからずっとスマホ見てるけど、邪魔だから俺にギター練習譲ってよ」


 誰だっけ。

 まあそんなことはどうでもいい、いきなり人をスピーカー壊した人呼ばわりするなんて失礼にもほどがあるし、喋り方が腹立つ。


「なんだお前」

「もう忘れた? この前部会で音琶と話してた湯川だよ、湯川武流(ゆかわたける)

「ああ」


 そう言えばこんな奴いたな、前の部会で音琶と話してた性格悪い奴だ。

 こいつも今日のライブ行くのだろうか。


「それで、練習するの? しないの?」

「するよ、邪魔して悪かったな」


 それだけ言って、俺は曲を選び始める。

 LoMの曲は今はやめておこう。


「あ、そうそう」


 選んでる途中で湯川が口を開いた。

 今度は何の嫌味を言ってくるのか。

 

「お前のドラム、別に下手じゃないけど、大したことないよな」


 ......そうかよ、やっぱり嫌味なんだろうか。

 俺のドラムが昔と比べれば劣化してるのは認めるが、見ず知らずの奴に言われるのは癪に障った。


「へえ、言うじゃねえかよ。じゃあお前今から肩に掛けてるギターの腕前がどれくらいのもんなのか見せて貰おうじゃねえか」

「いいよ、少なくとも君よりはできる自信あるけどね」


 楽器は違えど誰かを惹きつけるにはそんなの関係ない。

 こいつもそう思っているのだろうか、まあ今はそんなことどうでもいい、俺がこいつのギターをどう思うかが問われている。


 さて、お手並み拝見とでもいこうじゃないか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] このだらっとした日常描写がストリート感があってすごくいいです!!! 全体的な流れが面白い作品だと思いました。 シーンより流れが重視のようなきがします。
2019/11/28 08:59 退会済み
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