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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第21章 心の穴を埋めたい
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ポスター、学祭までの道のり

 9月26日


 久しぶりの部会。今日までの間に揃うべき人間はどんどん減っていって、遂には俺にとって身近に取れる奴まで居なくなってしまった。

 授業では会えるし、会話だって出来るというのに、同じバンドを組んでいて音楽の方向性が一致し、悩んでいることや不安も分かり合える。そんな人がサークルから姿を消してしまうのは、どこか虚しさを感じられた。


「10月25日と26日で学祭がある。勿論軽音部もライブ出演することになっているから、しっかり準備しておけ」


 部長からの告知はこうだった。因みに出店は出さないらしい。まあ出すわけないよな、あれだけ準備に時間掛かるわけだし、部員全員が余裕を持てるわけがない。しかも......、


「他の大学のバンドサークルもゲストとして毎年呼んでいる。今回は鳴成市内の私立大学が何校か来てくれるって話だ」


 .........。


 他校も来んのかよ......。この際他の大学の奴らにここの現状暴露して関係を解消させてやろうか?いやでも大学のバンドサークルとなればどこも飲みサーなのかもしれないし、『これくらい普通だ』って突っ込まれて終わるってことも有り得る。

 それだと俺がまるで馬鹿みたいだし、馬鹿に馬鹿と言われる権利はないから黙っておいた方が吉かもしれない。


 よくよく考えてみると、少なくとも鳴成大学の体育会系のサークルはどこも飲みサーだっていう噂を聞く。文化系サークルにもこれくらいの飲みサーがあってもおかしくないと思った方が賢明なのだろうか。

 いや、ダメだ。例え体育会系だろうが文化系だろうが限度は考えるべきだし、先輩達の理不尽な制度に流された所で良い事なんて一つもない。

 何から正せばいいのか順番を忘れそうになるが、どうせなら何もかも全て一からやり直したら良いだろう。


 それはそうと、何故他校の軽音部が鳴成大学の軽音部のお世話になっているのかというと、何年も前からライブハウス絡みで交流があってから学祭で合同ライブをしているだとか。

 毎年同じ大学から依頼があるわけではなく、その年その年で予定の合う大学を選んで学祭ライブをしているとのことだった。

 全く、他の大学の奴らの都合は考える癖に身近な部員の都合は全く考えずにパワハラ三昧なのは如何なることなのだろう、いい加減にしてくれないか。


「毎年学祭ライブ用に宣伝のポスターと、本番のステージ用に垂れ幕を施している。それを作る係を1年生の中から二人ずつ選びたい。部会終わった後1年生は全員俺のとこにきて誰にするか決めようと思う」


 まあ確かに、学祭ともなれば宣伝は大事だ。どうせ他のサークルに客が集まらないように如何に魅力的な宣伝が出来るかが勝負なのだ。正直俺は誰が来ようとそんなのどうでもいいと思っているが、ライブハウスと照らし合わせたら割と大事な領域に入る。

 経験者だからって理由でこんな悲しい考察をしてしまう自分が居たが、俺もとっくの昔に音楽に洗脳されていたんだよな。俺にとっての音楽は辛いものでしか無かったというのに。


「ね、夏音。私だったら全然いいよ」

「は?」


 部長が1年生を集め、ポスターを作るのを誰にするか会議している間、音琶が隣で小さく囁いていた。結羽歌亡き今(死んでないけどな)、1年生は7人しか残っていない。その中で4人は必然的に雑用を任されることになる。

 別にサボっていたわけではないが、何かしていないとそろそろ点数がヤバいことになりそうだし、どことなく危機感を覚えていたから今回の役割は果たした方がいいと考えていた。

 俺には幹部以上の立場を手にして、掟の内容を大幅に変えたいという想いがあるからな。同時に結羽歌も呼び戻す、そう約束した。


「宣伝用のポスター、夏音となら作れる気がするんだ。それに、今頑張っておけば点数上がるかもだしね」


 音琶の想いは俺と大差ないってことでいいんだな。こいつも俺と同様、掟を変えるべく奔走している。それは出会った時と変わらない。

 それに学祭だ、音琶と屋台を廻って奴の幸せそうな顔を見るのが俺の目標である。勿論ライブも大事だが、あと1ヶ月の間で新しいバンドを組むのは難しい話だ。音琶と組んでいたバンドだって結羽歌が辞めたことで今後活動するかはまだ決めてないし、学祭までは間に合うとは思えない。

 これから暫くは音琶と音を奏でられない日々が続くことになる。それでも、音琶は気にすることなくいつも通り俺の隣に居てくれる。だったら、俺も何事もなかったかのように音琶の隣に居てあげないといけない。


 それに、バンドではないとは言え、音琶と何かを成し遂げようとするのは悪いことではない。バンドで出来ない分、別のことで幸せを補うくらいしても罰は当たらないだろう。


「俺も丁度、音琶とやろうとは思っていた」


 小声で音琶に告げ、俺は部長に向かって声を出す。


「宣伝用のポスター、俺やります」


 俺がそう言うと、部長は無言で頷く。それを見計らって音琶も部長に希望を出す。一瞬の沈黙があったが、部長にとって俺と音琶という危険人物の組み合わせを否定することはなく......、


「宣伝用のポスターを作る係は夏音と音琶になった。取りあえず1週間以内に下書きを完成させて、本番の1週間前には学校中に貼っていきたい。期限は今日から3週間後の10月17日、それまでに全て終わらせろ」

「はい」

「あとは垂れ幕だが、これは2年生以上にも何人か手伝ってもらって......」


 一部の係が決まったところで俺は部長の話から意識を遠ざける。それからは自分の行動に後悔することもなく、音琶と共に何かを成し遂げられるということを考えるだけでどこか浮かれている俺の姿があった。

 1ヶ月後に迫った学祭で音琶とどんな思い出が作れるかを考えることに精一杯で、これから訪れる新たな試練を全く危惧出来ていなかった。

 音琶に流されたとかいうのはただの言い訳だ。数秒前までなら逃れることだって出来たはずなのに、平和ボケしていたのは俺の方だったのだ。

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