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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第21章 心の穴を埋めたい
307/572

理想、成し遂げるためなら

 ***


 学祭、ね......。

 鳴成大学の学祭は10月下旬の土日に2日間行われる。ただでさえ広いキャンバスでの学祭ということになるのだから、近所の祭りよりもクオリティの高い祭りになることは想定出来る。

 そんな中でのライブとなると、人の数がどうとかでかなりの責任を課せられるだろうし、また先輩達が五月蠅いのは想定済みだな。


 何故俺がそんなリア充のお遊びについて真剣に考えているのか、それは昼頃に来ていた茉弓先輩からのバンド内でのLINEが原因である。

 学祭のライブに出演するのか、という話だ。どうせあの人のことだから『出る』と言わない限り面倒なことになりそうだし、既読を付けるのは遅くてもいいから最低限の返信はしておかないといけないだろう。


「クソ野郎......」


 授業を全て終え、部屋に戻った俺はスマホの通知画面を見ながら無意識に呟いていた。特に意味は無いが、結羽歌を呼び戻す話も落着したから少しばかり疲れていたのだろう。俺は飯を作る時間になるまでベッドに横になりながらスマホを眺めていた。

 結羽歌の奴、無理はしていたけど表情は辛そうじゃなかったよな......。自分の役割を見直したのもあるだろうけど、結局は家族の支えが一番効いたのだろう。

 家族に支えられて本来の自分を取り戻すなんて、俺には到底出来ないことだ。そんな結羽歌が羨ましいが、俺には本当の家族と呼ぶべき人を知らない。せめて死ぬまでは生みの親にさえ会えればいいのだが、どうせ無理だろうからとうの昔に諦めている。


「夏音がこんなに疲れた顔するなんて珍しいね。今日は私がご飯作ってあげてもいいんだよ?」


 一人寝転がる俺を心配したのかはわからんが、音琶が興味深そうに俺に言い寄ってきた。全く、落ち気味の精神を安定させるにはこいつが居ないとダメなのだろう。


「結羽歌どうだった?」


 1日学校に来たところでまだ安心出来ない音琶だったが、結羽歌は音琶が思っている以上に頑張れている。例えサークルを離れたからといって全ての関係が壊れるわけではないのだから。

 あいつだってまだベースは続けたいって言ってたし、いつかまた音琶や、俺ともバンドを組み直したいって言っていた。そんなやつが再び全てを諦めようとするなんて思いたくない。


「心配するな、あいつはあいつなりに自分の道を開いている。音琶のことも、見放してなんかいない」

「そっか」


 未だに音琶とは連絡を取っていないようだ。恐らく折角組んだバンドがおじゃんになって申し訳ない気持ちに苛まれているから、どうやって返事をすればいいのか結羽歌は分からなくなっているのだろう。

 それでも構わない、二人は決して絶交したわけではないし、互いの距離感を確かめ合っているだけなのだ。暫くしたらまたいつも通りの関係に戻っているはずだ。


「それも大事だが、飯くらい俺が一人で作るから音琶は腹でも空かせて気長に待ってろ」

「え~」

「今はまだ無理だが、来週までに食いたいもの言ってくれればモールで買ってやる」

「ほんと!?」


 飯の話になったら目を輝かせて機嫌が良くなるのもいつも通り。結羽歌のことが心配だったはずなのに、さっきまでの会話は一体何だったのかと言いたくなる内容だったが、これもまた平常運転、俺と音琶との会話は日頃の悩みを忘れさせてくれるくらい退屈を忘れさせてくれた。


「そしたら、特上のビーフステーキ食べたいな!」

「......」


 そしてまた、音琶が遠慮というものを知らないことも意識させられる。俺が作る飯を心待ちにしてくれるのは嬉しいが、金銭面は考えて欲しいものだ。

 でも俺は音琶の笑顔が見たい。実現出来るか不明でもできる限りのことを考えるまでは罪ではないだろう。無理なら無理で仕方ないのだから、満足出来る範囲でどうにか出来る次元での飯を......、


「金はお前が出せよ」

「えー、何それケチ!」


 寝転がったまま俺は音琶に返し、話を続ける。


「学祭でノルマ達成したら考えてやってもいい」


 ライブハウスを借りない限りノルマなんて概念ないと思うが、音琶のようなアホにはこう言った誤魔化しが功を奏すことになったりするから、言うだけ言ってみる。


「え、いいの!?」

「いちいち聞き返さなくていい」

「やった!そしたら夏音、美味しいお肉よろしくね!」


 無邪気な音琶は常識というものを知らない。それでもこいつの幸せそうな顔は何度見ても飽きないな。

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