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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第21章 心の穴を埋めたい
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過言、我慢出来ない

 私と鳴香が組んでいたバンド......。ボーカルがサークルから離れたことで強制的に解散になって、私はずっと不満だった。

 メンバーは初心者しかいなかったけど、それでもみんな頑張っていた。たった1回のライブだったけど、何よりも楽しくて、私という人間の存在が認められたかのような感覚にまでなっていた。

 だから、一人抜けたとしてもまた誰か誘って続けられる。そう願っていた。


「あなた、まだそんなこと言ってたの?」

「悪いことかしらね」

「悪いとは言わないけど、いつまで引きずってるのかって、疑問には思うよね」

「.......」


 そうよ、私は昔から諦めが悪い。自分のやりたいことが満足いくまで達しないと気が済まない。ベースだってそうだし、勉強だって何だって、本気を出したことには人一倍やる気は出すけど、上手く行かないとすぐに不安になって落ち着かなくなる。それが原因で、私の前に一人また二人離れていって、気づいたときには誰も居なくなっていた。

 でも、そんな私にずっと付いてきて......、いや、私が付いていたのよ。結羽歌に付いていった私は、少しずつ人と関わる時に大事なことを知っていった。


 でも、結羽歌は私の前に今度こそ姿を消してしまった。きっと教習所どころか、学校すら行けなくなっているわよね。これも全部私のせいで......。


 今鳴香に言ったことが結羽歌と関係ある話なのかって問われたら頷けるかは微妙だけども、独りになった私はもう、誰にも頼らずにけじめを付けないといけない。

 だったら、今まで言い出せなかったことから始めるのも、悪くないわよね。


「あんたの価値観って本当にその程度のものなのかしらね」


 喧嘩を売るつもりはない。でも今の私はいつも以上に強気だし、あの時感じた興奮を忘れまいと必死になっている。

 もう一度、あの感覚を心に染みつかせたい。そのためには、3ヶ月前までは分かり合えていたはずの鳴香と、そして淳詩と積み上げていかないといけない。


「所詮数合わせのためだけに組んだバンドに価値観もないじゃない。私は実力のあって本気で音楽に臨める人と組みたいのよ。確かに琴実も前より格段に上手くなったけど、他にベーシストなら上にあと二人居る。それに私は今組んでいるバンドで満足しているんだから、今更新しいの組む必要性が感じられないのよね」

「鳴香......!」

「正直な話、私あなたのことあまり好きになれないのよ。粋がってるのか知らないけど、練習中もずっと意見ばかり言って私に付いてこいみたいに言ってたし、私だって私なりの音の出し方とかあるのよ。それなのに自分の言ってることが全て正しいみたいな感じで話進めて、私の意見なんて聞き耳すら立てなかったじゃない」

「そ、それは......」

「最初は私も反論したけど、これ以上言っても無駄って判断して諦めたわよ。それに結羽歌をライバル視するのはあなたの勝手だけど、メンバーまで巻き込むのは止めてもらいたかったわよ。だって私には関係無い話だし、喧嘩ならあんた達で片付けなさいって思った。この前だって、茉弓先輩は結羽歌が悪いみたいに言ってたけど、ある程度の話聞いてた私はあんたの余計な一言でああなった。そして結羽歌は辞めた、あなたが招いた最悪の結果じゃない」

「......」


 ぐうの音も出なかった。確かに私は理想と現実が離れていたら思ったことはすぐに口に出していた。黙ったままだと何も始まらないから何か言わないといけないって感じて、18年以上もそうやって生きていた。

 でも、我慢出来ない私は全てが裏目に出てしまって、今もこうして同じ部員を苛つかせることしか出来ていなかった。


「まあ、あなたの性格が少しでも改善されたら考えてあげてもいいけど、もう年齢的には大人になったあなたに今更変えられるかしらね」


 悔しくて唇を噛みしめることしか出来ない情けない私だったけど、まだチャンスは残されているってことでいいのかしら?

 でも、ここまで嫌われてたってことは、もうダメなのかもしれないわね。折角同じバンド組んだ仲だと思っていたのに、気づかない所で嫌な想いにさせていた。

 私ももう、ここに居る意味がないのかしら?逃げた方が楽になれるのかしら?


「私、練習中だったんだけど。もう言うことないわよね?時間が勿体ないから」


 今度こそ鳴香は髪を後ろに束ね、Fenderのギターに手を掛ける。それから私の存在なんて感じ取ってないかのように淡々と準備をして弾き始めた。


 存在意義を求められてない私は、ただ無言で部室を後にすることしか出来なかった。




 @@@


 言い過ぎたわよね。


 別に私だって楽しくなかったわけじゃない。でも、やりたいことを優先する方が私にとって都合がいいのよ。

 自分のことしか考えれない琴実に、誰かの気持ちも考えて欲しかったのよ。あいつのことがあまり好きじゃないのは事実だけど、自分の道を塞がれるのが許せなかった。


 何やってるのかしらね。音琶だけでなくて、琴実まで敵に回すなんて......。


 結局私の頭の中も、発言の内容と矛盾しているじゃない......。

 普段は冷静で居ようって意識しているけど、苛々すると自分の心の内を最後の最後まで曝け出してしまうのは、治せない病気の一つなのかもしれない。

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