表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第21章 心の穴を埋めたい
304/572

独り、好敵手の存在

 +++


 私達の間に何があっても世界は勝手に回っている。心の中の柵みが時の流れに追いつけなくても、世界は待ってくれない。

 残酷だと思うかしら?でもそれはただ構ってほしいだけの悲しい人間の思考回路よ。私自身がその悲しい人間の一人だってことを認めないといけないのも、また心の中の穴を大きくしていた。




「......」


 一限の授業に向かうべく重い足を何とかして動かし、教室へと辿り着く。窓際の席に座り、授業開始の時間まで特に何もせず待つつもりだった。

 私、高島琴実は同じクラスに友達が居ない。高校からずっと前まで、自分という人間が他の人より変わっているってことはわかっていた。でも、そう簡単に変える事の出来ない性格は、悲しくも私から人を遠ざける能力しかなかったみたい。

 どうせ頑張っても新しく友達が出来るなんて思ってないし、入学前から諦めてることだったから、自分から誰かに話しかけようなんて思ってもいなかった。

 授業なんて所詮単位さえ取れればいいんだし、成績がどうとか言っても私は院試を受けようって気はない。ただ単にライバルと呼ぶべき相手と張り合って入学した大学なんだし、やるべきことはやってストレートに卒業出来て、それなりに良い会社に就職出来れば満足だって思っている。

 その程度の志の私が、クラスの誰かと友達になる権利なんて、最初からないのよ......。


 それなのに、あのこは......、


 ・・・・・・・・・


 二限目は何も無くて、昼休みを挟むと三限まではかなりの時間がある。だから特に理由も無く部室に行ったりして、暇を潰すことにした。

 相変わらず練習している人は居ないし、これだったらベース持っていって三限始まるまで練習しとけば良かったかしら?

 意を決して一旦自分の部屋に戻って教科書を片付け、まだ買って半年も経ってないベースに手を掛ける。

 このベース、PhotoGenicなんだけど、色違いなだけで結羽歌と同じタイプなのよね。

 正直、結羽歌とはセンター試験よりも前からずっと張り合ってきたけど、まさか同じメーカーを選んでいるだなんて思ってもいなかった。私が勝手にライバル視していたのはわかっている。大事な友達だったけど、高校三年のある事件のせいで私の心は追い詰められていた。

 それを言い訳にして大事な友達を傷つける理由になるのかしら?そんなわけないわよね。たかが点数が足りなかっただけであんな八つ当たり、大人げないとかいう次元を越えてただの馬鹿よ。ただのガキの我儘じゃない。

 結羽歌は私と張り合うつもりなんて最初からなかった。なのに、私が勝手に舞い上がっていただけだった。だからあんな風に不思議そうな顔をしていたのよ。

 後になって気づいても遅くて、間違いを認める前に強がることしか出来なくて、音琶や夏音の前であんな姿を晒すことになってしまった。

 今となってはあいつらの仲間になれる一つのきっかけだったかもしれないけど、もっと上手い方法があったはずよ。でも、他にどうしたらいいのか思いつかない辺り、私はまだまだ未熟なのよ。


 結羽歌と再びぶつかって、私は未だに謝ることが出来ないままでいる。結羽歌がサークルから離れたのも、私のせいよねきっと。

 謝りたいし、大事な友達を失いたくないって想いはあるけど、どう切り出せばいいか私には見つけられなかった。




 再び部室に戻って練習をしようとしたんだけど、誰かが来ている様子が外から窺えた。私と同様、練習しようと考えている人がいたのかしら?


「......」


 扉を開け、部室全体を見渡す。そこには......、


「鳴香......」


 3ヶ月前まで同じバンドを組んでいた、泉鳴香。いつも本気を出す時はセミロングの髪を後ろに小さく結んでいるんだけど、今日はそうしていない。あくまで練習程度の実力でしか勝負しないのかしらね。


「琴実も練習する予定だったの?ごめんなさいね、私の方が先だったから、アンプ使わせてもらうから」

「そのアンプ、ベース用じゃないのだけど。もうちょっと上手い言い訳考えなさいよ」

「悪かったわね」


 普段から冷静沈着な鳴香だけど、どことなく強い意志が心の底から伝わってくる。私とは正反対の性格しているのはわかっているけど、同じバンドを組んでいる間は仲良くなれるって勝手に思い込んでいた。

 でも、そんな理想は簡単に打ち砕かれるもので......、


「ねえ、鳴香」


 打ち砕かれるってことはわかっていた。諦めの悪い私のことだから言うだけ言って、勝手に傷つく。それがいつものことだった。

 でも......、


「もう一度、あのバンド、やってみようと思わないかしら?」


 一度解散したバンド。例えメンバーが一人欠けても、やれることは最後まで成し遂げたかった。あんな中途半端な所で終わるなんて、許せなかった。

 鳴香には理解出来ない話だったかもしれないけど、私は最後まで鳴香に伝えたい。理解ってもらうまで伝えたい。


「どうして、今更そんなこと?」


 そうよ、どうせ鳴香はそう言う。予想は出来ていた。


「まだまだやれるって、私が勝手に思っているからよ」


 説得力の無い、ありきたりな言葉。鳴香に響かせるには材料不足も甚だしい勝手な言葉だった。だけど、誰かに理解ってもらうために、説得力のある言葉だけが必要なのかしらね。

 結局はその人の固い意志が大切だって思うわよ。


「......」


 黙ったままの鳴香。迷っているのか、断る言葉を探しているのか、そんなのは私にはわからない。だけど、結果が出るまでは期待していた。

 理想と違う解答が来ることくらい、覚悟は出来ているんだから......。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ