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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第21章 心の穴を埋めたい
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早朝、言葉に救われる

 9月24日


 部長:今週の部会で部費回収します、1万円用意して下さい


 朝起きて、スマホを見ると刻まれていた字面。こういうのを最悪の目覚めっていうのかな。

 夏音が背後から私を抱き枕代わりに寝ていて両手がお腹に、右手の人差し指がおへそに触れている。そのおかげでイライラはだいぶ緩和されているけどね。

 てかいつの間にか手が胸から移動していたんだね。


「......ん」


 変な声が出ていた。無意識のうちに結構出しているのかもしれないけど、自分でも気づくくらいのものは久しぶり過ぎて思い出せないくらいかな。

 頑張ってバイトしてお金稼いで、夏音と遊んでもそれなりに貯金があるくらいにはなっている。でもやっぱり学生の私からしたら1万円を一度に失うのには抵抗があった。

 最初夏音をサークルに誘って、一緒にバンド組もうって話をしたときはこんなことになるなんて想定もしてなかった。

 あの時は夏音にあんなに近づいたことを申し訳なく思ったけど、今更引き下がれなかったし、ここはもう開き直って勢いでどうにかするしかなかった。

 サークルの話をよくしてくれた和兄からはそんなこと聞かなかったし、あの時はもしかしたら1ヶ月毎に払ってたとか、なのかな?

 もし変わってたとしたら、ちゃんとした理由があって変わったってことになるよね?2年生になったら鈴乃先輩みたいに上級生の特権として過去話や掟に書かれてないことの詳細を知れるのかな?

 まだまだ鈴乃先輩に聞きたいこと沢山あったのに、まだ連絡付かないしそろそろ私も諦めていた。もしかしたら今でも茉弓先輩が鈴乃先輩を監視しているのかもしれないし......。


「もう、自力でどうにかするしかないよね、夏音」


 未だに目を覚まそうとしない夏音に視線を向けながら、ゆっくり夏音の手を解く。ベッドから降りて今日着ていく服を選び、全て着たら特に理由もないけど冷蔵庫に向かい、中を見る。一口サイズの食べ物があったらつまみ食いしようと思ったけど、期待通りにはならなかったから仕方なくリビングに戻り、テレビを付ける。

 どこのチャンネルを付けても朝のニュースばかりで、昨日の出来事や経済状況、音楽特集などなどで画面の中は忙しそうだった。

 私も夏音も、そして結羽歌達も、この人達のように色んなことに追われて毎日を過ごしている。早く1日の準備しないと授業始まっちゃうよ!


「夏音ぇ~!!」


 無邪気な子供のように私は布団を勢いよくはぎ取り、夏音を眠りの世界から解放させた。


「わっ!」


 思いも寄らない出来事に驚いた夏音は一瞬右腕で顔を塞ぐ仕草をしていた。これでもう二度寝の心配はないよね。


「おはよ」

「あ、ああ......」

「昨日あのまま寝ちゃうなんて、夏音らしくないな~」

「悪かったよ」

「本当に反省してる?」

「当たり前だろ......」


 突然のことにまだ頭が回ってないみたいだったけど、夏音はそのまま立ち上がりクローゼットを開けて服を適当に取り出した。

 自分の姿も気にせず堂々と歩き回れるなんてこと、私の前でしか出来ないんだろうな......。私も夏音になら出来るけど、他の人にだったら例え相手が女子でも出来ないな。


「ご飯、昨日の作り置きしてるんだよね」

「ああ」

「早く食べて、学校行こっか」

「俺は今日午後からだ」

「あれ?」


 私は午前が全部埋まってて、午後は何もない。夏音は午後から全部入ってる......?


「三限の授業、選択だけど単位は今のうちに取っておかねえと来年再来年と大変になるからな。取れるだけ取っておくんだよ」


 後ろ向きで紺色のワイシャツを羽織りながら夏音は答える。第一ボタンは閉めずに解放しているから爽やかに見えるし、これで笑顔がプラスされれば繁華街で女の子に声掛けられるくらい格好良いのに、本当に表情で損しているよね。


「何じろじろ見てんだよ」

「いつものことじゃん」

「そうだけど」

「ダメだった?」

「別に」


 ぶっきらぼうで一言しか返事しないことが多いけど、それでも夏音は誰よりも優しいってことを私は知っている。

 私の幾つもある願いの一つ、それは夏音を笑顔にすること。必ず夏音を心の底から笑わせてみせる。


「そんなことより、早くご飯用意してよ。お腹空いた」

「今からやるから、焦んな」


 台所に向かう夏音に付いていって、少しだけ手伝う。夏休み中に少しだけ料理を覚えたから、手の動かし方や効率の良い料理法くらいは身についていると思う。

 まだまだ夏音には及ばないけど、また時間のある時にでも教えてもらいたいな。


「そしたら、テーブルまで持ってくからね!」

「ああ、頼む」


 リビングの真ん中にあるミニテーブルまで配膳して、全て揃ったら頂きますの挨拶をして箸を持つ。

 本当だったら、私は自分の部屋で一人寂しく食べている所だった。でも......、


 本当は我儘だった。私からお父さんに電話して、付き合っている人と夏休みの間だけ住んでいるけど、学校が始まってからも一緒に居たいって懇願していた。

 怒られると思ったけど、私の事情を知っているお父さんは''家のことはどうにかするから、好きなようにしろ''と、温かい口調で答えていた。


 生まれたときからずっと同じような場所を行ったり来たりして育ってきたけど、この街のことはよく知らない。お父さんと和兄に支えられるだけの日々を抜け出し、これからは夏音と過ごすって決めた。



 夏音と一緒に居る間だけ、私は元気になれるんだから。



「改めてだけど、これからずっとよろしくね!夏音!」


 茶碗に盛られたご飯を食べる前に、私は夏音にそう告げた。


「今更何言ってんだよ、お前は出会った時からずっとよろしくしてるだろ。これから先もな」


 私よりも先にご飯を掻き込んで、夏音は恥ずかしそうに言っていた。





 今の私は、『幸せ』なんだよね?そう捉えていいんだよね?

 勝手に『幸せ』だと思い込んでいるわけじゃないよね?

 人生は長くないから、やりたいことをやりたいときにやっていいんだよね?


 何度も自分に言い聞かせながら不安になって、夏音の言葉に救われる。


 私の灰色だった心は、夏音の言葉に救われているんだ。

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