雨心、そこに掛かる希望
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鳴フェスの日から色々あって、辛い想いを沢山してきた。それでも頑張って耐えてきたけど、限界を超えてしまった私の心はボロボロに壊れてしまって、もう何もする気を起こすことはなくなっていた。
今日から授業が始まるのに、履修登録もせず、時間割すら確認せず、私はただ床に座り込むことしか出来ないでいた。
誰かが私を助けようとしても、私はそれに応えられない。結局迷惑かけるだけで、なんにも変わることは出来ないんだよ......。
もう涙も流れなかった。散々みんなに負担かけて、それでも優しくしてもらって、恵まれているはずだった。それなのに、勝手に失望して、大事な友達に八つ当たりなんかしちゃって......、
理解ってもらえなくてイライラしていたなんて、そんなのただのエゴだよ......。あの時あんなこと言ってなかったら、もしかしたらサークル辞めることにはならなかったかもしれないのに......。
日高君も、夏音君も、千弦ちゃんも、私のこと心配しているのかな......。さっきからずっとスマホが鳴っているような気がするけど、手を動かす気力も残ってないよ......。
サークルのみんなはきっと、怒ってるだろうな......。折角のライブを私の我儘で欠場させちゃったり、次の日の部室ライブだって......。それに、一緒にバンド組もうって言ってくれた淳詩君も......。
何よりも琴実ちゃんには、本当に言葉に出来ないほどのことしちゃった......。いざこざはあったけど、それでも私の隣に居てくれて、何度も励まされて、いつか必ず恩返ししたいって心に誓ったのに、それも果たせなかった。
こんな私なんて、もう居なくなっちゃえばいいんだ......。
こんな私なんて、誰かを好きになる権利なんてないんだ......。
弱い自分が許せない。だったら強くなればいい。
単純な人はそう言うのかな?でも結局、弱い人なんて、生まれたときからずっと弱くて、どんなに頑張っても強くなることはできないんだってことがよく分かった。
あれ......?
スマホの音、全然止まないな......。
壊れちゃったのかな?この時間に目覚まし掛けた記憶はないけど、何なんだろう......。
「......」
手は動かなくても、足を動かして音のする方向へと向かう。画面を見る気力くらいはある。あとは音が鳴り止むのを待てばいいだけだもん。
「......」
何とか振動するスマホまで辿り着くことは出来たけど、その瞬間私の身体は硬直した。そこに浮かんできた文字、それは私の大切な......、
「みう......」
このタイミングでどうして実羽歌から電話が......?
どうしよう、実羽歌からの電話なら出れそうだけど、声のトーンとか大丈夫かな......?心の準備もだけど、怪しまれないように答えないといけないし、どうしよう......。
で、でも、出なかったら余計に心配されるから、意を決して出ることにした。何か聞かれたら、誤魔化せば、いい......、よね。
「も、もしもし......」
私は通話のボタンを押して、電話に出た。すると......、
『お姉ちゃん久しぶり!声聞けてみうは嬉しいよ!』
実羽歌のあどけない声が聞こえてきた。
『今大丈夫だった?』
「う、うん......」
『今日から学校だもんね!みうは夏休みが長いお姉ちゃんが羨ましいな~』
「みうは、学校、大丈夫?」
『大丈夫って?』
「ううん、楽しいのかな?って思って......」
学校には行けなくても、実羽歌と電話で喋っていると少し安心した。私にあったことを知らなくて、実羽歌の前でならまだ強がる気力は残っていた。
『楽しいよ、お姉ちゃんは?』
「わ、私......?」
『うん、みうも鳴大行きたいし、お姉ちゃんから色々大学の話聞きたいなって思って』
「みう......」
『これから、みうがお姉ちゃんと話したい時に電話しても、いいかな?』
そっか、実羽歌は私をずっと追いかけてたもんね。こんなタイミングで電話来たのはちょっとびっくりしたけど、実羽歌の願いは、願いは......!
『私、お姉ちゃんと一緒の大学言うのが何より楽しみなんだ~!だから応援してくれるよね?』
みうの......、実羽歌の、嬉しそうな、期待に満ち溢れた声を聞く度に私の手が震える、涙が止まらなくなる。
「うん、もちろんだよ!」
声が掠れそうになったけど、実羽歌に気づかれないように精一杯の声で答える。妹の前で、情けない声を出すことは出来なかった。
『良かった~!これからいっぱい電話するから、楽しみに待っててね』
「うん......、うんっ......!」
もう、耐えられなかった。実羽歌の前で泣いたことなんてなかったのに、初めてこんな姿を......。でも、実羽歌は......、
『お姉ちゃん......、大変だったんだね』
電話越しに、涙ぐんだ声で、そう言っていた。
「どうして......」
『そんなの、わかるよ。お姉ちゃん、こっちに帰ってきた時からずっと、辛いの我慢していたの、みうはわかっていたんだよ』
「そんな......」
鳴フェスが終わった直後の帰省だった。実羽歌に会えて嬉しかったから、一瞬だけでも心の中の複雑な気持ちは払拭出来ていたって、勝手に思っていた。
でも、私の大切で、かけがえのない妹は、全部見抜いていたんだ......。
『お姉ちゃん、一人で抱え込むのは、もうやめようよ。辛かったら、何でも言ってよ。何があったかはわからないけど、お姉ちゃんが辛い想いしてるってこと考えるだけでみうは辛くて仕方ないんだよ』
私の強がりは、実羽歌にも辛い想いをさせていたんだ......。
だけど、私は......、
「ごめんね......、ごめんね、みう!」
乾いていたはずの涙が止まることを知らずに流れ続けている。
何も解決してなくても、誰も私の気持ちがわからなくても、世界は回り続ける。そんな理不尽から逃げて、どん底に突き落とされても、私には希望の手が差し伸べられていた。
その手だけは何があっても放したくない、固く結ばれた家族の絆が、私を少しだけ強くさせてくれたかもしれない。そのチャンスを逃すなんて、この先何があっても許されることだと思いたくない。
『いいんだよ、お姉ちゃん!お姉ちゃんの心の中、見つけることできてみうは嬉しいよ!』
鼻声になりながらも、実羽歌は自分の気持ちを吐き出していた。抱えていたことがわかってもらえて、恥ずかしさもあったけど、嬉しくて、悲しくて、満たされて、涙が止まらない。
それから2時間以上も、私は実羽歌と止まることなく喋り続けていた。
・・・・・・・・・
9月23日
大事な家族にまで心配を掛けていた。このままじゃ駄目。それにようやく気づけた。
でも、出来ることから取り戻したい。サークルは掟が変わらない限りもう戻れないけど、学校にも、教習所にも行く権利は与えられている。
まだ履修登録はしていないけど、今日は一限から必修の授業があるって時間割に書いてあった。だから始業の9時まで準備を済ませ、教室に向かう。
3日ぶりの外、もうすぐ10月になるから少しずつ肌寒くなっていて、そろそろもう一段階暖かい服を用意しないとって気持ちにさせられた。
教室に着くと見慣れた沢山の顔が並んでいて、どこか懐かしさを感じるとともに私の座るべき席を探す。辺りを見渡していると、いつものメンバーが談笑しているのが見えた。
その中に入るべく、私は3人に......、
「お......、おはよ」
私の挨拶で一斉に振り向く3人。そして......、
「お、結羽歌来た。おはようだな」
「もう、昨日はどうして来なかったのよ~。心配したんだから~」
「待たせんなよな」
夏音君も、千弦ちゃんも、そして日高君も、私をいつものように出迎えてくれた。
私の、新しくもいつも通りの日常、雨が降っていた心には日差しが掛かっていた。




