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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第20章 RAINY NOTES
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同居生活、まだまだ終わらない

 そう言えばこの大学って、2年生以降から週4で実験演習があるんだよな。多分今と同じ頻度でサークルに顔を出していたらレポートなんて手に付けられないだろ。授業がそれだけならまだしも。

 そんなんだから留年するんだよあいつらは、普通に考えて結羽歌の決断は正しかっただろ。と言いたい所だが、五限の時間になっても姿を現さなかった奴を肯定しても仕方がない。


「結局、結羽歌来なかったね。LINEも返事ないし」


 授業から解放され、それぞれの家路に向かう中、真っ先に立川が発言したかと思えばだ。お前は少し自覚持っておけよな、別に全て教えるつもりはないが。

 どうせこのままだと明日も結羽歌は来ないだろう。最初は教習所だけで済まされた話が、いつの間にかサークルと続き、授業にまで拡がっていた。これ以上拡がらないで欲しいのだが、今すぐ連絡するのはあいつにとってもストレスだろう。せめてあと3日は待って、それで駄目だったらこっちも手が負えないけども。


 やる気ってものは他人が強制することで手に入れられるものではない。例えそれが学校だろうが部活だろうが、仕事だろうが戦争だろうが同じことだ。


「何かあったのかな、前会った時は普通に元気そうだったのに」

「......」


 別に日高にも悪意が無いのは分かっている。結羽歌の心情の変化に触れられてないだけの話で、お前が最後にあったのがいつなのかは知らないが、人間なんてたった1日で当たり前の日々が壊されることくらい当たり前の領域だからな。

 実際俺がそうだったわけだし。


「なあ滝上、最近結羽歌に会ったのいつだよ」


 そんなしょうもない考え事をしていると、日高が俺に聞いてきた。確かにサークル云々で夏休みの期間は結羽歌に会う機会が多かった。その分結羽歌に何があったかを知れるわけだから、授業に来なかった根源が何か知っているかもしれないと踏んで聞いてきたのだろう。


 まあいい、ここは本当のことを言ってやろうか。最後にあった日をな。


「一昨日だ」

「お、結構最近。その時はいつも通りな感じだったか?」

「途中で体調悪くなってたけどな」

「あー......、てことはまだ万全じゃなくて大事取って休んだのかな?」

「そうならいいけどな」


 嘘は言ってない。あくまで話の根底に触れてないだけだ。


「ね、それだったら今から結羽歌のとこにお見舞いしにいこうよ!」

「......」


 立川、お前そんなんでいいのか?多分相手がお前なら結羽歌は間違いなく居留守使うだろ。精神的に安定してない奴にそんなことしたら永遠に不登校になるかもしれないだろ。


「季節の変わり目なんだから、移るかもしれないだろ。まずは自分の身体を優先しろ」

「滝上......」


 話せば話すほどややこしくなる未来しか見えない。これが俗に言う修羅場ってやつか?他人の修羅場を見ている分にはどうでもいいが、関わりが深い奴らのを見ていると頭が痛くなりそうだ。


「何?あんた音琶だけじゃ飽き足らず結羽歌まで狙ってるとか?一人でお見舞い行こうとしてんの?」


 殺してやろうかこの女。


「滝上ってさー、表情ほとんど変わらないから何考えてるかわかんないって思わせたいのかもしれないけどさ、口調とかで私は大体分かっちゃうんだな。あまり女子を舐められては困るものだよ」

「......」


 お前の洞察力は俺以下かよ。ドヤ顔で言われても説得力というものが全く感じられない。


「とにかく、今日は帰るぞ。結羽歌ならお前らより俺や音琶が連絡した方がいいんだよ」

「な......、何それ!?」


 声を荒げる立川だったが、動じず俺は続ける。


「人間ってのは、知らず知らずの内に誰かを傷つけてる愚かな生き物なんだよ」


 二人の前を歩き、聞こえるか聞こえないかの微妙な声のトーンで呟いた。

 先を歩く俺を後ろに日高も立川もこれ以上質問してこなかったが、仮に聞こえてたら二人は何を思うんだろうな。


 ・・・・・・・・・


 冷蔵庫の中にはまだ夕飯分の食材が残っていたからモールには行かず、そのまま真っ直ぐ帰宅する。今日からまた音琶の居ない静かな日々が続くのだな。部屋の中だけの話だが、それでも自分の時間は作りやすくなるだろう。

 そう思っていたはずなのだが......、


「あ、夏音待ってたよ!お帰り!」

「......は?」


 アパートの玄関の前で体育座りをしながら音琶は俺を出迎えてくれていた。いやでもお前、一緒に住むのは夏休みの間だけだって約束だっただろ、何ちゃっかりまた住むつもりでいるんだよ。


「お腹空いた~、今日はどんな美味しいご飯作ってくれるの?」


 夏休みの時同様、当たり前のように俺に飯を催促する音琶だったが、流石に俺も疑問で一杯だったから奴に問う。


「なんでここにいる。もう帰ったんじゃないのかよ」

「うーん、想像以上に夏音との同居生活が楽しかったから、正直夏休みだけじゃ物足りなかったな~。って思って」

「なるほど......」


 てか大学生同士で長期間同居って、どう考えても音琶一人暮らしじゃないだろ。絶対親か兄弟か、家族と言うべき人と暮らしてるだろ。

 元から鳴成市出身ってことはわかってるけど、ここまで出来るんなら一人暮らししてるわけないよな。


 なんて考えてはいるが、音琶の懇願する瞳を見るだけで首を横に振るなんて罪だ。3日前のあの感触が思い出されて尚更断れない。だったらいっそ......、


「仕方ねえな、無期限で許してやる」


 好きな奴と一緒に居れる時間は長いほど幸せだって言うからな。だったら積極的に幸せを掴みに行っても罪にはならないだろう。


「ほんと!?ほんとに、いいんだよね!?」

「いいって言ってんだ。いちいち確認するな。大事なことは1回しか言わないからな」

「何言ってんのさ、大事なことは何回でも言うのが規則でしょ!?」

「......わかったようるせえな」

「もう、相変わらずなんだから」


 罵倒したつもりだったのだが、音琶はやけに嬉しそうだった。昨日まであんなに落ち込んでたっていうのにな。


 いや、落ち込んでたからこそ、まだ俺と同じ部屋で生活したいって思ったんだろうな。全く、最初からそう言えば......、言えるわけないか。


「昨日ぶりのただいまー!!」


 俺が鍵を開けた途端、音琶は勢いよく扉をひらいてこう言った。

 せめて近所迷惑にならないように気をつけろよ。

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