決断、もう限界だから......
結局、今回のバンドでの舞台は初めてだったけど、スタート前の出来事のせいでまともな演奏なんて出来たもんじゃなかった。
どうしてあんなことになったのかしら、どうしてあんなこと言っちゃったのかしら、どうして、結羽歌をあんな想いにさせちゃったの......?
そんな気持ちが演奏中もずっと続いていて、何とか一通りの曲を終わらせることは出来たけど、理想とする音を創り上げることが全く出来なかった。まるで、ベースを初めて3日しか経ってないような人がする演奏と変わりなくて、今すぐ逃げ出したかった。
「っ......!」
何度も漏れそうになる声、それを押し殺そうと努力するのに精一杯だった。
大事な友達を傷つけたダメージは、そう簡単に癒えるものなんかじゃないし、私だって切り替えがすぐに出来る人間じゃない。
もうこんなの嫌よ、どうして、私は大切な人を守れないのかしら、もっと良い方法があったかもしれないというのに......。
それでも何とかして出番を終えた私は、一番後ろに置いてある椅子に座りながらさっきまでのことを振り返っていた。良い所なんてどこにもなくて、やりこなすことしか意識せずに動かすだけの指......、そんな演奏誰も見向きもしない。
何も知らない音琶はいつも通りの楽しそうな演奏を繰り返していたけど、私は音琶みたいにはなれなかった。杏兵先輩と榴次先輩はさっきまでの出来事をまるで気にせずいつも通りの演奏をしていて、きっと私が抱えていることなんてどうでもいいから気軽に手が動かせるんだと思った。
いいわよね、私と結羽歌以外、大して悩みなんて抱えてなくて生きていられるんだもの。
そんなこと思っていた私だったけど、全然そんなことなんてなかったってことを知るのにはまだまだ時間が必要だった。
大学生になっても子供のまま、それは私にも言える話だった。
◈◈◈
私......、何やってるんだろう......。
ただ一人、トイレの中で特にすることもなくしゃがみ込みながら一歩も動けないでいる私。もうすぐ私の出番なのに、踏み出すべく足が動こうとしてくれない。
どうしよう......、このままじゃ、みんなに迷惑掛けちゃう......。でも、琴実ちゃんに合わせる顔ないし、なんかみんな私を否定するようなこと言ってたし、元の場所に戻るのが怖い。
「助けて......」
そう願っても、誰も私を助けてくれない。
不意にスマホが振動して、音琶ちゃんから着信が来ていたけど、私は電話に出る勇気がなかった。
もう、後戻りが出来ない所まで来ちゃった、よね......。私、大学生になったら少しは変われるって思ってたんだけど、何も変わること出来なかったな......。
私にはもう、誰も隣に居てくれる人が誰も居ない。誰も、私の味方をしてくれる人なんて居ない。
琴実ちゃんは、きっと今まで嫌々ながらも私を支えようとしてくれたんだ......。こんな駄目な私の側に居てくれて、ずっと我慢していたんだ、きっと......。
でももう、そんな日も今日で終わり。私は弱いままだったんだ。もういいよ、もう、いいんだ......。
みんなの出番が終わるまで、私はここにいる。もう演奏する気力なんて、残されてないから......。
「結羽歌!?居るんでしょ!?」
あれ......?琴実ちゃんの声が聞こえた気がするかな。ああそっか、これは幻聴だよ、私は琴実ちゃんに謝りたいって思ってるから、勝手に思ってるだけなんだ......。
こんな私を今更求めてくれる人なんてどこにも居ないんだよ、もう、私は本当にひとりぼっちになったんだよ......。
「今はとにかく、やらなきゃいけないことやらないと駄目よ!後でいくらでも謝るから、早くここから出てきてよ!」
琴実ちゃんの声が響く。でも、駄目だよ。いくら琴実ちゃんが謝った所でさっきまでの私の言葉が無くなるわけじゃないんだから......。
もう、私には、このサークルに残る理由なんて、残されてないんだ......。
「ご、ごめんね、琴実ちゃん。お腹痛いから、ライブ出来そうに、ない、かな......」
簡単に見抜かれる嘘だったけど、とても無理だった。私にはそんな強い心なんてないんだもん......。
みんな、ごめんね。
私、もう、サークル続けられそうにないよ......。




