表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第20章 RAINY NOTES
295/572

亀裂、気を遣いすぎて

 +++


「全く、しっかりしなさいよ」

「うん......」


 背もたれの低いパイプ椅子に並んで座りながら、私は結羽歌の震える手を掴む。結羽歌がこう言った状況に緊張するのはいつものことだけど、今回は抱えていることが多すぎるわよ......。

 守りたいけど、いつまで経っても引きずったままは駄目。そっとしておくって決めたからにはそうしなきゃいけないんだけど、明後日からの授業はちゃんと行けるのかしらね。


「結羽歌と同じクラスだったら、良かったかもしれないわね」

「えっ......?」

「やりたいことが違うってだけで、同じ学校に通ってても同じ教室で授業授けれないのって、辛いことよね」

「そんな......、琴実ちゃんとはサークルで会えてるし......」

「高校の時より一緒に居る時間が減ったことに変わりはないわよ」

「......」


 私だって寂しいわよ。確かに同じクラスには友達と呼べる人は居るけど、結羽歌には及ばないし、本音で語り合えるような相手じゃない。

 結羽歌以外には、弱みは見せないように頑張っている。私の弱い所を知っているのなんて、結羽歌しか居ないんだから......。


「......琴実ちゃんは、何が言いたいの?」

「え......」

「私、琴実ちゃんがどうして突然こんなこと言ってくるのか、わかんない」

「......」


 結羽歌の瞳には光彩が消えていた。いつもよりブリーチ量が多いからなのか、髪の色が金髪に近い明るい茶色なっていて、心情の変化が見た目にも現れていたから無意識に結羽歌に気を遣うような発言を繰り返していたのかもしれない。

 あまりにも私が率先して結羽歌に話題を投げかけていたから、遠回しだったとはいえ変に思われたのかもしれないわね。いつも通りの会話を心がけても簡単にできるような話じゃないってことくらい分かってたはずなのに......。

 でも、こっちだって見てられないのよ、私と交わした言葉を忘れたことのない結羽歌が、未だに行動に移せてないところが......。


「別に、ふと思ったことを言っただけよ」」

「琴実ちゃんは、そんなに私のことが心配なの......?」

「え......?ま、まあそうじゃないと言えば嘘になるけど......」

「私なら大丈夫だって言ったよね?もう切り替えるって、一緒に飲んだとき言ったよね?」

「言ったわよ、あの言葉が嘘じゃなかったら教習所行けないなんてことにならないじゃない」

「そんなの、琴実ちゃんがここまで私に気を遣わなければ、放っておいてくれたら、いつかは教習所行けるはずだったんだよ」

「わ、私のせいだって言うの!?」


 思わず立ち上がり、その反動で椅子が大きな音を立て、周りの部員達が私と結羽歌に視線を集める。まずいわね......、何の話していたか聞かれてなければいいんだけど......、


「と、とにかく琴実ちゃん、私のことは放っておいてよ!私、嘘なんてついてないから!」


 今までないくらいに感情的になった結羽歌は、逃げるようにトイレに入ってしまった。この後結羽歌がすることが何なのかは私には分かる。でも、これって私が悪いのかしらね?確かにお節介だったかもしれないけど......、


 いや、私、ただ心配しているだけで結羽歌の心の奥底に辿り着けてなかったわね......。しかもこれから本番だってのに、何してるのかしら......。

 結羽歌だって結羽歌なりに考えてるんだし、その考えを勝手に私がどうにかしようとするのは、場違いな話よね。


「いや~、結羽歌もあんな声出せるんだね~。ちょっと感心しちゃったよ~」


 結羽歌が居なくなったことを確認したからなのか、茉弓先輩が私に声を掛ける。他の部員も私に視線を向けていて、何があったのかという顔をしている。

 全く、鬱陶しいわね。別にあんたらには関係無い話よ。


「でもさ、何があったかは知んないけど、折角琴実が話聞いてあげてるのに怒って逃げるなんて、ずるい話だよね~」

「えっ......」

「みんなもそう思わない?これからライブだってのに、何一人で舞い上がってるのかな?って話~」


 そう言って部員全体に聞こえるように喋る茉弓先輩。何よこいつ、一瞬の場面だけで物事を判断して、まるで結羽歌が全部悪いみたいに話進めてんのよ。あんたに私達の何がわかるっていうのよ......。


 なんて思ったけど、鳴フェスの時の話を聞く限り、茉弓先輩は結羽歌を目の敵にしているから、あらゆる方法を使って結羽歌を陥れようとしているのよね。しかもこういう時に限って音琶と夏音居ないんだから!あのバカップル、今どこで何してんのよ!


「ま、まあな......」

「何があったかはわからないけど......」

「人の話は最後まで聞くべきよね」


 茉弓先輩の意見に渋々合わせるように、みんなが口々にこう言う。

 やめて、どうしてこんなことになってるのよ。これも、私が結羽歌に気を遣いすぎたから......?

 いや、こればかりは違う。茉弓先輩が勝手に話を作って結羽歌を悪者に仕立てようとしているからよ、きっとそうよ。きっと......、


「そもそも、ライブは楽しむものなんだから、始まる前からあんな調子じゃ良い演奏なんてできないもんね~。みんなも気をつけないとね~」

「......」


 何よこれ、本当に、何なのよ。

 最初からあんたらが変な規則作らないでやってればこんなことにならなかったんじゃないの?先輩達だってまともに作業出来ないくせに、何偉そうにしてんのよ。


「......!」


 あれ......、私、今日結線以外何か大事な作業してたっけ......。音琶と夏音は、淳詩のPAのサポートしていて、鳴香は照明、結羽歌も少しだけ鳴香を手伝っていた。

 休憩時間は存分に休憩しといて、決められた時間には戻ってきたけど、私が自由にしている間、結羽歌達はずっと箱の中で試行錯誤していた......。


 私も先輩達と同じじゃない......。担当が違ったり、経験が浅いからって理由で、何もしないなんて話の筋が違うわよ......。

 どうしよう、結羽歌を怒らせて、茉弓先輩が結羽歌をサークルに居づらくさせた。もう後戻りは出来ない。

 音琶と夏音は居なくて......、ううん違う、これじゃまるであいつらに頼ろうって気が満々じゃない。


 結羽歌を救えるのは私だけだって勝手に思い込んでいただけだったのよ。何が悪いか正しいかなんて正解はないけど、私がしたことはただ状況を悪くしただけ。

 あれ......、結局私、何がしたかったのかしらね......。


 音琶と夏音が戻ってきたのは本番の5分前だった。もうPAの準備は万端だったのね、私トップバッターだから、練習で頑張った分を音にしていかなきゃいけないのに、身体の震えが止まる気配はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ