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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第20章 RAINY NOTES
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欠如、PAと照明

 夏音と鳴香と茉弓先輩のバンド......。これだけは何が何でも私が音響を作りたい。夏音があれだけ練習していたんだ、身体を壊してしまうくらいに頑張って、治った後でも私を喜ばせようとしてくれた。

 リハは本来のセトリと逆の順番で進むから、このスリーピースはトリ前になる。正直夏音が二人を引っ張っていけば良い演奏ができるくらいの実力は備わっているんだし、鳴香ももう少し堂々と演奏してもいいと思う。

 Fenderのギターを抱えながら重要なポイントを演奏していき、欲しい音があったらツマミを上げて聴きやすくしていき、こっちも聴いてて変な所があったら直していきたいけど、演者の意見を優先しなきゃいけないから我慢する。

 淳詩も自分から卓に向かい合うようになってきていて、必死に手を動かしているし、分からない所があったら質問もしてきていた。これで少しでも緊張が解けてくれたらいいんだけど、本番になって結果が得られないと意味が無いし、安心はしていられない。


 鳴香は相変わらずシールドを伸ばして観客側に移動しながら自分の音と夏音、そして茉弓先輩の音を必死に聴き込んでいる。

 照明の方はと言うと、鳴香も淳詩同様パートは違えど苦戦しているみたいだった。今は部長や兼斗先輩がやっているから鳴香よりは上手くやれてるんだけど、どうもあの人達のやり方はシンプルなものでしかなかった。

 私もバイトで照明を担当したことは何度もあるけど、バンド毎に全く同じ照明を与えるなんてことはまず有り得ない。当たり前のことだけど、曲には構成や流れ、明るい曲や暗めの曲、色々な要素がある。

 ストロボを入れて激しい演出に拘るのか、それとも一つの色に拘って曲の雰囲気を醸し出すのか、はたまたメンバーに焦点を置いて照らし出すだけの演出をするのか、スモークを使って明るさを強調するのか等々......。

 ここのライブハウスにはミラーボールはないみたいだけど、XYLOだったら別料金込で使うことは出来る。少ないけど過去に使いたいって連絡があってライブハウス内にミラーボールを設置したこともあったっけ。


 照明資料を書き込む時間が無かったのかはわからないけど、鳴香が最近よく部室でノートパソコンを操作していたからそこにデータが書き込まれてたんだと思う。

 もし鳴香が先輩達に送ったデータをそのまま照明に使っているんだったら、今すぐ修正しないとライブ映えはしないんじゃないかな......。今回はもういいから、せめて次ライブハウスを使うライブがあったらその時までに教えてあげたいな。

 でも、そんなことしたらまた鳴香を傷つけて、今よりも一層距離が開いちゃうんじゃないかって思うと言い出す勇気が湧いてこない。


「はぁ......」


 サビの部分を激しめにしているのはいいんだけど、もう少し曲の柔らかさを意識して、強すぎない演出にした方がいいんじゃないかって思うかな。だって鳴香がやってる曲そんなにBPM速くないし、コード進行も単調だから落ち着かせるべきだし、LED照明だから一点に光が集中しやすいってことをもっと学んでから臨むべきだよ。


「......?」


 自然と溜息が出てしまった私に淳詩が首を傾げていたけど、経験量の違いで音楽に対する価値観も大きくズレていて、ただ出来ればいいって思ってしまう人だって少なくない。私も最初はそうだったし......。

 XYLOでバイトするまでライブハウスとは無縁の存在だった私だったけど、『音楽』という世界を開いてからは自分の居場所を得ることができた。

 音楽は人間にとって身近なものだとは思う。でも、聴く側と演る側では感覚も気持ちも立ち位置も何もかも違う。演る側に立った私は音楽の価値観を知ってから、ただ演奏するだけの空っぽな演奏だけは許せなかった。

 演奏だけじゃない、PAも照明も結線もチューニングも音作りも、ライブに必要なもの全てが大切で欠かせない存在。どれか一つが欠けたらライブなんて絶対に始まらない。


「頑張ってよ......」


 小さく呟いたつもりだったけど、淳詩には聞こえてたみたいで彼の手が止まる。誤解されたって別に構わない。今のは鳴香に言ったこと、でも淳詩にだって頑張って欲しい。だから修正はしない。


 私は音楽が好きだ。中途半端な気持ちなんてあるわけなくて、嘘偽りが何一つない正直な本当の気持ちだって胸を張って言える。


 だけど、このままだったら、演奏以前に私や夏音、そして結羽歌の力が無い限りいつまで経ってもいいライブなんて出来ないんじゃないかな?

 たった3人でどうにかしたところで、サークルの体裁を保つのは無理があるし、先輩達なんて信用出来ないからせめてやる気はある人達で、頑張れば結果を残せる人達で、何とかしないと駄目だよ。


「ありがとうございます!本番よろしくお願いします!」


 それから間もなくして鳴香がリハ終了の合図を出し、私は自分の出番のためにすぐ手元に置いてあったギターを持ちながらステージに向かった。


 次は夏音、PA頼んだよ。

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