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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第3章 臆病者に助言はいらない
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比較、どっちが優れてるか

 確かに高島のベースには安定感がある。

 落ち着いて聴いていられるし、まだぎこちないけどスラップ奏法までやっている。

 このレベルなら初心者向けの曲は余裕でできるだろうな。


 満足げな表情で弾き、演奏に迷いが無い。

 結羽歌のベースとも比べると、今の段階では高島の方が勝っている。

 今の段階ではな。

 

「どう?」


 上目遣いで、自信ありげに高島は感想を求めてきた。


「出来てるとは思う」

「でしょでしょ! あんた見る目あるよ、だから私とバンド組んだ方がいいって」


 なんでそうなる。


「いや、もう俺のバンド、リードギター以外決まってるんだけど」

「池田さんより私の方が相応しいって言ってるの!」


 そう言うと思ったけど、もう二人とは話つけてるからお前の出る幕はない。

 そもそもベースが2人いるバンドなんて異例すぎて曲も限られるだろ。


「大丈夫だ、ライブまではお前よりも結羽歌の方が上手くなってるから」

「それはどうかな」


 横から浩矢先輩が入ってきた。

 鋭い眼光で俺を睨みつけている。


「琴実は既に弾き方やフォームをマスターしている。リズムも安定していて焦りを感じさせないし、形にはなってないけどスラップ奏法も教わっている。それに比べて結羽歌ときたら......、お前だってわかってるだろ」

「わかりませんね、あいつにはいくらでも上手くなる可能性ありますし。それに、ただ弾ければいいってわけじゃないって言ったのは先輩ですよね?」

「ふん、どうだか」


 何が何でも自分の意見を曲げない浩矢先輩のことだから納得してくれるとは思えないけど、やっぱり何か言わないと気が済まないのが俺の性格だ。

 黙ったままではいたくない。


「これで結羽歌が負けたら一生笑ってやる、俺が教えても理解出来なかった奴が、勝てるとは思えないな」

「よっぽど自信あるんですね、それで結羽歌が勝ったらどうするつもりなんですか」

「自信とか以前の問題だ、始まる前から勝負はついてるんだからな」


 結局お互い何もわかり合えないままで、とうとう浩矢先輩は自分のベースを片付けて帰ってしまった。

 始まる前からなんて言っても、そんな早い段階で決めつけることに意味を感じない、あの人は本当に何様なんだか。


「滝上君、何度も言うけど勝つのは私よ、諦めなさい」

「お前は結羽歌の弾いてるときの顔、見たのか?」


 こればかりは聞かないと気が済まない。

 もしかしたらこいつは浩矢先輩とは違う意見とか持ってるかもしれないんだし。


「そうね、普段はまともに人と話すこともできないで、か弱い性格だってのに弾いてるときだけは真剣よね。それでちゃんと弾けてなければ何の意味もないんだけれど」

「そうか、じゃあお前は見たんだな」

「見たも何も、そんな顔してるんだもの、意識しなくても視界に写るわよ。それに負ける可能性が決してゼロってわけじゃない。浩矢先輩は私が勝つって言ってたけど、あの人は上手い人しか見てない感じだったし、どこまで信じればいいのかわからないのよね」


 まだ高島が浩矢先輩ほどの分からず屋じゃないってことは認めるけど、どうしてそんなに結羽歌にライバル意識があるんだか、そこが一番の疑問だ。


「だいたいお前ら、まだ会って間もないのになんでそう勝負とかになるんだか。理解できないな」

「何か勘違いしてるみたいだけど、私と池田さんは高校の同級生よ?」

「......」


 こいつ今高校の同級生って言ったよな? そう言ったんだろうけど、頭が追いつくまでに時間が掛かった。


「状況整理していいか」

「好きにしなさい」


 つまり、だ。

 結羽歌と高島は高校の同級生、元々何らかのライバル関係で、今回はベースで勝負を仕掛けた。ということでいいのだろうか。

 俺なりの考えを高島に聞いてみたが、少し違うらしい。


「元々私は高校のとき、池田さんとは勉強で一位二位を争ってたのよ。クラス中でどっちが勝つのかってテストが近くなるとみんなが噂してて、いつの間にか私は池田さんのことをライバル視してた。それでセンター試験のとき、私は密かに池田さんと勝負していたの。もちろん2次試験のことも視野に入れて」

「それでお前は負けたのか」

「そうよ! しかもそれだけじゃないの! 池田さんは私のことなんて眼中になかったのよ!」

「お前にとって結羽歌って何なんだよ」

「あのこは......」


 それから暫く高島の過去話に時間を取られたわけだが、簡単に言うと結羽歌と高島は高校時代学年トップを争うほどの学力を持っていて、テストの度に今回はどっちが高い点数なのかクラスメイトが囃したて、いつの間にか高島は結羽歌と自分を比べていたらしい。


 でもそれは高島にとって間接的にしていたことで、結羽歌は特に高島のことをどうとも思ってなかったらしい。

 というか結羽歌は周りのことなんて最初から興味なかったらしく、むしろ鬱陶しく思ってたらしい。

 なんというかあいつが人見知りになるのもわからなくもないな。


 そして迎えたセンター試験、高島はいつものようにあくまで間接的に結羽歌と勝負し、結果は結羽歌と3点差で負けたとのこと。

 しかも試験の一週間前に結羽歌に勝つとクラスメイトに宣言したせいで、いざ負けたとなると周りにも気を使われてしまい、高島はプライドを傷つけられたのであった。

 あくまで自己採点の段階で、まだ点数が確定してないにも関わらず、とうとう高島は結羽歌にこう言ってしまったのであった。


「あんただけには負けたくなかった、大体あんたがいなければこんな思いしなくて良かったのに...」


 周りの野次馬や高島の勝手な逆ギレのせいで、結羽歌は今まで以上に人見知りになったらしい。

 そして月日は流れ、2次試験を無事に終え、見事二人は合格、偶然にも同じサークルで再会したのであった。


 しょうもな。


「一つ言っていいか」

「何よ」

「おまえ、勝負とか関係なく一度本気で結羽歌に謝ったほうがいいぞ」


 勝手に人を巻き込み、勝手に負けて勝手に八つ当たりしたということになるんだからな、屑にもほどがあるぞ。


「嫌! それだけは嫌! もう池田さんに負けたくないの! 今度は私がベースで勝つんだから! だからこうやってあのこには強気でいるの! そうじゃないと自信がつかないし!」


 ああ、これは相当重症だな、俺には理解できるような領域じゃない。


「すまんな、それとこれとはまた別の話だ。それじゃ」


 これ以上何か言っても無駄だと察し、面倒ごとを避けるために部室を去った。結局練習をしないまま。


 後ろで高島が何か言ってたけど気にしないことにする。

 下らない話を聞くために部室に行ったわけじゃないんだしさ。


 音琶は今、結羽歌といるんだろうか。

 高島の言葉からしてその可能性が高いけど、どうも自分から聞き出すことが出来なかった。 

 それと、結羽歌にはぜひともライブで高島以上の演奏をしてもらいたい。


 あの話がどこまで本当なのかわからないけどな。

 本当は、2人は仲が良かったんじゃないのか?

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