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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第20章 RAINY NOTES
289/572

髪染、いつもより明るい色

 ***


 PAの役割分担は今日のセトリによって変わってくる。私だって夏音とミキサー触ってたいし、淳詩のこともサポートした方がいいと思っている。

 一つ気がかりなのは、Wirlpoolの出番の時に淳詩と先輩だけになって、自分達の演奏が上手く出来ないのではないかということだ。最初のライブの時は先輩がほとんどやってたから何とかなったけど、きっと今回は淳詩にしか任せないと思う。さっきの音作りだってそうだし、リハだってきっとそう。

 自分の舞台は当たり前だけど本気でやりたいし、ちゃんとした音で演奏したい。だから、今の淳詩の実力だと私や夏音の願いは叶わないんじゃないかって不安にもなっていた。


「音琶ちゃん......」


 さっきまで夏音と今日の意気込みみたいなこと話していたけど、リハ前にトイレに行くって言われたから今私は卓前の椅子に座ったままツマミや端子を眺めて物思いに耽っていた。そんな中......、


「さっきのご飯のお金、今もらってもいい、かな?」


 そう言われてギターケースに入れて置いた財布を持っていこうとしたけど、結羽歌って私と話すときこんな不安そうな話し方してたっけ?と疑問に思ってしまってなかなか立ち上がれない。

 そしてこの前琴実との会話を思い出す。敢えて問い詰めず、いつも通りを貫いていこうって決意した私だけど、今日が始まってから私はずっと結羽歌が気がかりだった。


「お、音琶......、ちゃん?」


 黙ったまま見つめてくる私に戸惑いながら結羽歌は尋ねてくる。私が心配になっているのは、話し方だけじゃなくて、結羽歌の髪の色にも原因があった。


「あ、ごめん。480円でいいんだっけ?」

「う、うん。ごめんね」


 謝るべきは私なのに、どうしたことか結羽歌が申し訳なさそうに言ってくる。私何か結羽歌の気に触ること言ったかな......?ううん、言ってない、結羽歌が情緒不安定になっていて、ちょっとでも理想と離れてしまっただけで無意識に謝っているんだ。

 元に戻るまでそっとしたところで、本当にいつも通りの結羽歌になるのかな?少しは何かしてあげても良いような気もする。


「えっと、その髪、どうしたの?」

「え、えっ!?変、かな......」


 現金を受け取り、その直後に髪のことを問われたから結羽歌は戸惑っていた。そうだよね、いきなりこんなこと聞かれたら、誰だってびっくりするよね。

 でも、何かきっかけが無かったらいつまで経っても''今''を変えることはできないと思う。だったら、負担にならない程度に問いかけたっていいんじゃないかな?


「変じゃないよ、前より明るくなってたから、最初の集合の時から気になってたんだ」


 そう、元々染めていた結羽歌の髪の色は以前よりも明るくなっていて、金髪とまではいかないけど、明らかにブリーチした量は多いはず。

 誰も触れてなかったけど、ぱっと見すぐに気づくくらい目立ってるし、何か心境の変化があったのかな?って思ってしまうくらいの変化だった。

 多分その、日高君も千弦も、明後日から結羽歌と会うことになるんだろうけどね。


「そっか......。ちょっと色々あって、思い切って染めたんだ......」


 結羽歌の今の言葉の中にはきっと色んな想いが詰まってるんだと思う。辛いことから逃れようと自分を変えてみたりすると落ち着くことだってある。私だって洋美さんからヘアゴムを渡されて、落ち着くから今の子供っぽい髪型を続けている。たまに夏音に引っ張られて玩具にされるけどね。


「似合ってるよ、可愛い」


 気を遣ったわけではない、紛れもない本心を結羽歌に投げかける。日高君との一件を未だに忘れることが出来なくて落ち込んでいる結羽歌を勇気づけようとして言ったことなのかもしれないけど、それでも可愛いのは事実だし、嘘なんてどこにもない。


「ありがと......」


 結羽歌は、喜べたのかな。ネガティブなことばかり考えてしまって嫌な気持ちになってないかな。そんな不安がありながらも私は結羽歌を見つめる。


「結羽歌のベース、期待してるからね」


 こんなこと言って結羽歌が自信無くしちゃったらどうしよう、だなんて後になって考えてしまう。でも、やっぱり何もしないと何も変わらない。私はそうだったんだから......。


「怖いけど......、頑張るね」


 焦ったように言いながら、結羽歌は琴実の居る方に向かっていった。私の言ったこと、間違いじゃないよね?


 ・・・・・・・・・


 きっと私も何かきっかけがなかったら大学だって行ってない。ギターだって弾いてたかわからない。

 たった一人の、もう会えない大切な人と、たった一人の、最期まで一緒に過ごしたい大切な人。


 結局は、どんな辛いことがあっても、きっかけがないと何も始まらない人生。今までと変わらないなんて、私は嫌だった。

 例えそれが自分のことじゃなくても、心の殻に閉じこもったままなのが、私にとっては一番辛くて寂しくて、悲しいことだって......。


 みんながみんな、私と同じ感情を持っているわけじゃないのに、過去のせいで誰かを巻き込んでしまうのは、私の悪い癖だった。

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