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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第20章 RAINY NOTES
286/572

見栄え、何が正しいルールなのか

 ***


 気持ちの切り替えくらいは出来る。いくら昨日楽しいことをしたからといって浮かれる余裕すらないし、退部まで掛かっている段階なら、これから何をしなくてはいけないか、どういった気持ちで構えないといけないか、色々と考える必要がある。


 初めて足を踏み入れるライブハウスに複雑な想いを抱きながらも地下に続く階段を降りる。兼斗先輩や榴次先輩と最低限の機材を運び、中に入るとそれなりにモノが揃ったステージが視界に写った。

 DWのドラムセットに気を取られる前にやらなければいけないことがあるから、機材を調べるのは後回しにして......、


「おはようございます。本日はよろしくお願いします」


 今まで何度もやってきた当たり前の挨拶。カウンターに立つオーナーらしき男性に挨拶をし、今日という日にこの施設を使わせてもらうことへの感謝の意を込める。

 そういう風に思ってしまう時点で俺は変わってしまったのだし、部室にあったシールドを調整しながらギタリスト同士で相談している音琶に視線を向けた。

 音琶は俺の視線に気づいたらしく、両手が塞がっているから目で俺に何かを訴えかけようとしていた。どうせこいつのことだから『ちゃんと切り替えなよ、私ばっかり見てないでさ』みたいなこと思っているのだろう。

 言われなくてもわかってるよ、次に俺がやるべきことは......、


 大量のシールドが入れられた箱を手に取り、ドラムセットに向かって俺は歩き出した。


 ・・・・・・・・・


「.........」


 結線をしながら俺は疑問に思っていた。淳詩はPAの準備があるからともかく、なぜここで結線の準備をしているのが俺だけなのか、ということにだ。

 先輩2人はカウンターの近くで煙草を吹かしていて、近くの灰皿に捨てては新しいものを出しては吸っている。榴次先輩は兼斗先輩に頭を下げながら煙草を受け取り、火を付けて幸せそうに吸ってやがる。

 は?ふざけんなよ。全部1年生の俺に任せて貴様らは貴族気分味わってんのかよ、今すぐ煙草の火で人体発火現象起こして死にやがれこの野郎共。

 と思ったが、どうやらこれはドラマーだけでなく、ギタリストもベーシストも同じ感じらしい。ベースは結羽歌と琴実が、ギタリストは光と湯川、ボーカリストは音琶がそれぞれ少人数で結線に勤しんでいる。

 そして肝心の先輩共は俺ら1年生を監視しているかの如くこっちを見ては先輩同士で日常会話を楽しんでやがる。

 本当はお前らまともに結線も出来ないんだろ?だからこうして後輩を奴隷扱いして愉悦に浸ってんだろ?ふざけんなよ。


「おい夏音、もう少し綺麗に繋げろよ」


 そう思っていた矢先、兼斗先輩が俺の結線に文句を言い出した。いきなりどうしたんだよ。


「はあ......」

「これだとシールドの見栄えが悪いだろ、もっと丁寧にやれよ」


 いやだったらあんたが理想とする結線しやがれよ。大体今のもある程度繋げておいてその後見栄えをどうにかしようと思ってた所なんだよ。こういうこと言ったら言い訳だと勘違いされて面倒なことに成りかねないから言わないけどよ。

 掟に書いてることなのかもしれないけど、人それぞれやり方が違うわけだから最後まで見てから言えよ、ちゃんとしたライブが出来ないくらい壊滅的な結線ならまだしも、何をどうしたらいいかを考えられる結線を俺はしているわけだから中途半端な段階で文句言うなよ。


「これからやろうと思ってたので、焦らなくいいですよ、先輩」


 皮肉を込めて正論をぶちかます俺だったが、この発言はやはり兼斗先輩の沸点に触れる言葉だったようで......、


「お前、あんまり先輩舐めるなよ」


 始まったよこの野郎。舐めてはいるけど別に俺はライブに支障を来すことをしているわけではない。あくまで効率の良いやり方を求めてるだけだ、だからいちいち文句言うなって話なのだが......、


「そうだぞ、掟ちゃんと読んだか?」


 兼斗先輩に続いて榴次先輩まで続く。てめえさっきまで煙草吹かして先輩に頭下げてただろうが、それなのに俺に対しては上からなのかよ。


「読んでますけど、もう嫌と言うほどに」


 嘘偽りの無い正直な気持ちを伝えるが、相手に全て伝わるとは思って無い。こいつらは音琶みたいに俺のことを理解しているわけではないのだから。

 でも、理解してもらいたいなんて気持ちは無い。あくまで俺のやってることに間違いがないってことがわかればいいのだから。


「そしたら、ちゃんとした結線出来るはずだよね」


 榴次先輩はそう言いながら兼斗先輩の隣に戻っていった。


「最初からやってるだろうが......」


 2人に聞こえないように呟き、俺は渋々掟に書かれていた通りのやり方を馬鹿正直にやっていた。だけどな、貴様らの掟は不十分な点が多いんだよ、何が大事かくらいちゃんと調べてから資料作れよこの野郎。

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