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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第20章 RAINY NOTES
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常識、ライブハウスでの

 今日はライブハウスで、明日は部室でそれぞれライブをする。でも、二つとも部員以外に見られることはないし、まだ気持ちは軽い。

 でも、1ヶ月後には学祭があって、きっと私達軽音部も大学構内に幾つかある体育館でライブすることになると思うから、私が誘わなくても日高君達は来る。

 願いが叶わなくても、いくら長くても学祭までにはちゃんと切り替えないと、本当にみんなから見放されちゃって、学校もサークルも何もかもやりづらくなっちゃうんじゃないかな......。

 そんなのは絶対嫌だし、辛いことに向き合うのも......、私には出来るとは思えない。だからこそ、どうしたらいいかわからなくて......、


「付いたぞ」


 少し荒めのブレーキの感触が伝わってきて、駐車場にバックで入っていく。辿り着いた先はXYLOではなくて、私が初めて足を踏み入れることになるSYLPHID(シルフィード)という名前のライブハウスだった。

 XYLOと比べるとあまり広くないけど、機材は基本新しいものを導入しているみたいで、中に入って内装を見た時はXYLOに届かなくても充実したライブが出来るように心がけているように感じられた。

 ライブハウス自体は地下にあるから、階段を降りて辺りを見渡す。そしてカウンターに立っているスタッフに挨拶をする。これもライブハウスでの当たり前のルール、特に同じ媒体でバイトしている私にとっては間違ってはならない常識中の常識。だから、


「お、おはようございます!」

「おはようございます!」


 出せる限りの声で挨拶をする。琴実ちゃんも私に続くと、スタッフさんも笑顔で挨拶を返してきた。今はお客さんとしての立場だけど、この業界に関しては神様なんていないんじゃないかな、なんて思ってしまう。

 まだ誰がオーナーなのか、それかさっき挨拶した人がオーナーなのか、それともバイトの人なのかはまだ分からなかったけど、最低限のことくらいはまだ私には出来ていた。

 そんなことで満足しちゃう情けない私だったけど、まずはライブハウス全体がどんな構造をしているのか気になったし、使うのは今回限りじゃないはずだから、ある程度は把握しておかないと置いてかれちゃうよね......。

 基本アンプやスピーカーはMarshallがほとんどだし、置かれているドラムセットは、DW......、っていうのかな?あんまりドラムに関しては詳しくないからよくわかんないけど、夏音君がよく話していたような気がする。


「結構いい所じゃない......」


 私の隣に立つ琴実ちゃんが呟く。琴実ちゃんも同じ事思ってたんだね。


「いつだったかの飲み会で聞いたけど、うちは結構ここでライブしているみたいだしね」

「そうね、早いとここの環境に慣れておかないといけないわね」

「うん......」


 切り替えの早い琴実ちゃんはいつもこうやって、待ち受けられた状況に上手く合わせようと努力している。私の尊敬の対象だし、どうして琴実ちゃんは私に助けられた、だなんて言えちゃうんだろう......。だってあんなの、何が何でも琴実ちゃんを守らないといけない状況だったのに......。

 私にとっては当たり前でも、琴実ちゃんにとってはそうじゃなくて、私の何気ない勇気が琴実ちゃんを救ったってことになるのかな......?

 琴実ちゃんが私の女々しさに嫌気を差さないのは、あの時の恩返しをしたいからだったり、するのかな......?


「何ボーッとしてるのよ。早く機材纏めて結線の準備するわよ」

「あっ......!うん、ごめんね」

「全く、見てられないんだから」


 それから間もない内に他のパートの部員も次々と集合していって、挨拶の声が響いては同じ事が繰り返されていた。

 でもこれはまだ最初の段階だし、本番前の準備頑張らないと、良い演奏が出来ないよね......!今回はお客さん居ないけど、居ることを想定してやらないと、きっとダメだと思う。

 

 日高君のことも、引きずらないように、出来るかわからないけど、頑張らないと......!

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