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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第20章 RAINY NOTES
284/572

したいこと、何が目的だったのか

 ◈◈◈


 結局あれから自学には通えていない。日高君にどんな顔すればいいか分からなくなっていて、会うのが怖くなっていた。

 私の想いには気づかれてないはずだけど、振られたショックで情けない姿を見せたくないし、千弦ちゃんも友達だけど、何て言うか自分が片思いしていた相手が親しい人だと複雑な気持ちになっていて、知りたくないことまで頭の中に入っちゃうんじゃないかって、不安にもなっていた。


 この前は琴実ちゃんに気を遣わせちゃったし、もうこれ以上誰かに迷惑は掛けられない。私の問題は自分で解決しなきゃいけないんだけど、明後日から授業始まっちゃうし、嫌でも2人に会うことになってしまう。

 もう本当に、どうしたらいいんだろう......。


 そんな不安と共に、サークルのイベントは幕を開けてしまう。たかが失恋、告白すらしていないのに、どこまでも弱い私は、これから会う人達が私に白い目を向ける、私の敵になってしまった、なんて錯覚に陥って、私は外への扉を開くのに抵抗を感じてしまっていた。

 弱い自分が、情けなくて、仕方ないけど、私だって、どうしたらいいかわかんないよ......。


 ・・・・・・・・・


 行くか行かないかで迷ったけど、集合時間ギリギリまで粘ってなんとか辿り着いた。

 私が最後で、部室に入った途端部長が合図を促して、みんなそれぞれのパートの機材を外に置いてある車に積み出した。


「元気ないわね」


 ベースの機材を先輩達の車に積んだ後、浩矢先輩の車に乗った私の隣に琴実ちゃんが座ってきた。それだけで少し安心できて、琴実ちゃんになら何でも話せると思ってしまう単純な私が姿を現す。


「うん......」


 消え入りそうな声で答える。助手席には茉弓先輩が乗っていて、4人乗りの車の中にベーシストが揃う。前の席は危険な人しか居ないけど、後ろならまだ安全を保てている。

 2人に聞かれないように私は琴実ちゃんと話すことにして、私の不安や戸惑いを少しでも受け入れて欲しいって思いながら口を開く。


「不安なの?」

「うん、色々ありすぎて......」

「演奏にまで引きずったりしない?」

「わかんない......」

「そっか」


 琴実ちゃんの手も僅かに震えていて、精一杯練習をしていたのに、自信が感じられなかった。私も同じだけど、尚更安心出来なかった。


「私達、これからどうなっちゃうのかな......」

「そんなの、誰にもわからないわよ」

「教習所も、結局行けなかったんだ......」

「どうするつもりなのよ」

「せめて......、日高君が卒業してからなら、行けそう、かな......」

「結羽歌はそんなことでいいの?」

「良いわけ、ないよ......。でも、そうしないと、辛くて仕方なくて......」

「ほんとに、弱いんだから」

「ごめんね......」


 私は弱い。周りの誰よりも打たれ弱くて、欠点があまりにも多い。

 琴実ちゃんや音琶ちゃんとは正反対で、2人には到底及ばない。このままだったらいつか2人に愛想尽かされて、1人になっちゃうんじゃないかって思ってしまうから、もっと辛くなってどうしようもなくなる。

 琴実ちゃんは、そんな私をどうして長い間友達で居てくれたんだろう......。わかっているはずなのに、辛いことがあると事の発端すら思い出せなくなる。


「結羽歌」


 視界が滲み掛けた時、琴実ちゃんが私の手を取って名前を呼んでくる。


「今はあんまり深い話出来ないけど、せめてあんたが安心できるように寄り添うわよ。だから、今は目の前のことに集中するわよ」


 何度も見た琴実ちゃんの優しい眼差し。普段は高飛車で威張っているように見えるかもしれないけど、素直になれてないだけで、私には誰よりも本心を露わにしてくれる。

 そんな時......、


「そう言えば結羽歌、免許の方はどうなんだ?」


 ハンドルを操作する浩矢先輩が唐突に私に質問してきた。今まさに琴実ちゃんとその話してたとこだけど、浩矢先輩にはどう答えたらいいのかな......。


「え、えっと、その、運転の方は......」


 私が返答に戸惑っていたその時......、


「結羽歌、道路の運転苦戦しているみたいで、まだ掛かりそうです」


 琴実ちゃんが私に代わって答えていた。運転の方はATだから慣れるとだいぶやりやすくなってたんだけど......。私が行けなくなった理由は琴実ちゃんと音琶ちゃん、そして夏音君以外には話したくないかな......。


「でもそろそろ卒検だろ?」

「えと......、そんな所です......」


 浩矢先輩に威圧に押されて思わず本当のことを言ってしまった。実際、あと二つほどの教習が終わったら技能も学科も終わるし、卒検までそう遠くない。

 最後の最後で苦戦しているわけでもないし、ただ日高君に会うのが怖いだけの話だから、とてもこの人が理解してくれるとは思えない。

 でも、これで少しは自分を追い詰めることが出来たかな......?来月になっても免許取ってなかったら、『いつまで掛かるんだ』みたいなこと言われるかもしれないし......。


「だったら早くしろよ」

「は、はい......」


 結局私は、先輩に怒られないようにベースも教習も頑張っているのか、元々は何がしたくて音楽に手を

付けたのか、一日一日を過ごす毎にわからなくなりつつあった。


「どうするのよ......」

「えっと......」

「取りあえず、今の言葉が嘘にならないようにするしかないわよ。私もいくらでも結羽歌のこと支えるからさ」

「あ、ありがと......」


 本当にこのままじゃ私、ひとりぼっちになっちゃうよ......。

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