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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第19章 115万Mbに届かなくても
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ツーショット、1年最後の夏休み


「本当は最初からこれを着たかったんじゃないのか?」


 部屋に戻るまでの道中、少しずつ日が暮れる時間が早くなっていってるせいで朱色に染まりつつある空を長めながら俺は問う。

 日に日に肌寒くなっているから長袖を着こなしつつ、音琶にも注意を促そうと思ったが、買った服が入っている袋を大事そうに持ちながら満足気な表情を浮かべられてはその気にもなれなかった。


「えへへ、バレちゃった?」

「全く、お前って奴は......」


 これ以外を見せてきたのはあくまで俺に見られたかっただけってことかよ。でも店に入る前は何にしようか迷ってたんじゃないのか?色違いがあるなんて知らない感じだったし。


「風邪だけは引かないようにな、結構見えてるんだからさ」

「うん!でも夏コーデに近いから準備の時は適当な上着羽織ってるよ」

「そうしてくれ」


 こいつ結構無防備なところあるからな、今度からはちゃんと注意した方が良さそうだ。音琶に秘密にしていたことがとっくの昔にバレていたわけだし、俺も少しは気をつけて行動しないとまた死にたくなる。


「にしても、夏音の夜ご飯食べれるのは今日が最後か~」

「何言ってんだよ、学校始まってからでも食いたくなったら部屋来いよ」

「あ!そうだった!」

「馬鹿だな」


 夕飯の食材は既に冷蔵庫の中に入っている。だからモール内で食べ物に関しては買い物することはなかったし、服を買った後は少しだけ音琶の我儘に付き合ってモールを後にした。


「今日は少し多めに作ってやろうとは思ってるのだが、昼のラーメンはもう大丈夫か?」

「えっ?私今すっごいお腹空いてるよ?」

「......」


 野菜と脂が半分以上を占めたラーメンに、デザートはダブルアイス。そんな組み合わせを胃袋に詰め込んでおきながら音琶は今空腹に苛まれているらしい。

 まあ、こいつのことだからそうなるのではないかと頭の片隅には置いていたが、想像以上だったな。


「あ、そうだ!折角なんだから一緒に写真撮ろうよ!」

「そ、そうだな......。夏休み最後なんだし」


 オレンジ色が反射したモールの窓が綺麗に映る。それを背景にして音琶が俺の左隣にまわり、スマホを横に向けてカメラの画面にする。

 音琶の右腕が俺の左腕を掴み、画面に映ろうと必死に俺に近づいてくる。柔らかな感触が左腕いっぱいに拡がるが、俺も上手く画面に入らないといけない。気になるけども今はもっと他のことに夢中にならないといけないから、俺も音琶に近づく。

 そして......、


「いくよー!」


 音琶の親指が画面に触れ、シャッターが押される。

 俺と音琶の2人で撮った初めての写真が、今この瞬間出来上がった。


 ・・・・・・・・・


「なあ音琶......」


 夕飯を食べ終え、シャワーも浴び終えた。あと2時間もすれば寝ないといけない時間だろう。明日は早いわけだし。

 音琶と2人並びながらベッドに腰掛け、話を切り出そうとするが......、


「ん?明日の確認?」

「ま、まあそれもあるけどだな......」


 明日は朝の10時に部室に集合し、機材を先輩達の車に積み、そのままライブハウスに直行する。それからは今まで通りPAやら音作りやらチューニングをして本番に備えるわけだが、今回は照明も居る。

 一応準備にはそれなりの時間を設けてはいるものの、鳴香のあの感じだと時間が押しそうな気もしなくもない。

 ほぼ確実に俺がヘルプに入ることになりそうだな。


 今回は部員以外に見てるヤツはいないし、どうせまた面倒な反省文とやらを渡されるんだろうけど、音琶との絶対音感の話があるから少しは白紙を埋めることは出来るだろう。


「演奏のことなら、少しずつ良くなってるから、大丈夫だよ」

「音琶......」

「あ、ごめんね。まだ満足仕切れてないのに」

「別に、あれだけ言ってたお前の理想に近づけたんなら、少しでも自信は持てる」

「よかった」


 どう言い出せばいいだろうか。今まで音琶には正直な気持ちをぶつけまくってたというのに、この手の話となると言い辛くて仕方がない。


「な、夏音......。どうしたの?何か変だよ?」

「......」


 顔が紅潮して、口元が震えて、上手く伝えられない。

 だが、俺は決めた。言わなくてはいけないことは言わないといけない。


「俺達って、もうそろそろ3ヶ月だろ?」

「う、うん......」

「もうそろそろ、いいんじゃないのか......?」


 言ってしまった。もう後戻りは出来ない。もしかしたら今の俺は、音琶が想いを告げた時と同じ気持ちなのかもしれないと感じたが、返事がないとどうにもならない。

 引かれたかもしれないし、失望されたかもしれない。でも、言わなかったら絶対に後悔すると思った。だから......、


「......そっか」


 音琶はずっと俺の目を見ている。どこまでも真っ直ぐで、嘘のない純粋な瞳で、だ。


「私が先にそれ言いたかったんだけどな」


 音琶の解答はこうだった。ってことは......、


「夏休み最後に、とんでもない思い出が作れそうだね!」


 音琶はそう言いながら......、


 後はもう、これ以上は話せない。

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